第一証人「獣人族・タイガ」
俺は控え室で深呼吸をしていた。
まずは現状整理をしよう。
俺は今回、アルティメットワンに初めて参加する。
理由は、自分が最強だと証明するためだ。
金と名誉はついでだ。
俺は惑星バトルの原住民だ。
虎の獣人で、惑星バトルでは最強種だ。
しかし、ここには色々な強者が現れる。
神魔霊獣、機人、不死族。
全員、自分の星では満足できなかった奴等だ。
そんな奴等を薙ぎ倒し、頂点に立つ。
最高じゃねぇか。
惑星バトルの原住民の中じゃ俺は最強だが、そんなちっぽけな最強はいらねぇ。
俺は本当の最強という称号が欲しいんだ。
で、だ。
俺は出場者四万名の中から、八名の優秀な戦士として選ばれた。
選考法歩は至って単純。
まずランダムで五千名を巨大闘技場に呼び込む。
そして、殺し合いをさせる。
阿鼻叫喚の殺戮地獄だ。
俺はそれを勝ち抜いた。
ギリギリだった。
卑怯な手も沢山使った。
しかし、勝てればいいんだ。
戦場では勝者が、最後に立っていたものが正義なんだ。
問題は次だ。
俺の次の対戦相手が、とんでもないのだ。
大和。
超越者「黒鬼」であり、最強無敵の剣客。
とにかく、アイツはヤバい。
最初は皆、偽物だろうと嘲笑した。
何せ超越者と言えば、全知全能の神仏ですら片手間にあしらう埒外のバケモノたちだ。
しかしそれらは一瞬にして拭いさられた。
開始早々、大和は五分もしない内に五千名を惨殺したのだ。
あまりの早業、剣捌きに、会場は沈黙した。
俺も見ていた。
全身に鳥肌が立ったぜ。
あれはヤベェ。
間違いなく本物だ。
だがこれはチャンスだ。
アイツをぶち殺せば、俺の名は一気に知れ渡る。
超越者を倒した勇猛果敢な戦士。
その称号が欲しい。
なんとしても。
震えるな、俺。
頑張れ、俺。
最強になるんだ、俺。
他の剣闘大会で優勝しただろう、自信を持て。
『ではではー、本日の記念すべき第一回戦目をはじめまーす! 東の門よりー』
っと、もうそろそろ行かなきゃな。
俺は駆け足で控え室から出た。
◆◆
「東の門より現れますは、惑星バトルの原住民最強の男、百戦錬磨の獣人、タイガ選手です!!」
『ウワァァァァァァァァァ!!!!』
歓声が俺の心を滾らせる。
これを聞くと、ああ、今から殺し合うんだなって、実感できる。
「対して西の門からはー、今回のダークホース! 無敵の剣豪!! 最強最悪の辻斬り!! 超越者「黒鬼」!! 大和選手ー!!」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!』
俺とは比べものにならない歓声、いいや、雄たけびは闘技場を震わせる。
すげぇな……へへ、流石超越者だぜ。
ふらりふらりと門から出てきたサムライ、大和は、首をボキボキと鳴らしながらこちらへ歩いてくる。
「それでは、両者、準備はよろしいでしょうか?」
「おう」
「何時でもいいぜ」
「それでは!! はじめ!!!!!」
ガァァァン!! と銅鑼が鳴ると同時に、闘技場がまた歓声に包まれた。
俺は構えをとって、相手の出方を伺う。
大和は刀を抜いて、担ぎ、すまし顔をしていた。
「おら、来いよ。先手は譲ってやるから」
「……」
誘っているのか?
まぁいい。
まずは小手調べだ!!
俺は突貫し、縦横無尽の攻めを展開する。
自慢の爪と体技を駆使して、全方位から攻める。
「おおっと速い!! タイガ選手物凄いスピードで前に出たー!!」
まずは様子見だ。
隙を見せれば無論殺しにかかるが、相手はあの超越者だ。
容易に隙は見せない筈……
「ふわわ」
大和は欠伸を漏らした後、ふらりふらりとやる気のない避け方をする。
……ふざけてるのか?
しかし、全ての攻撃を紙一重で避けている。
「おいおい、もうちょっと本気で来いよ。退屈だぜ」
大和が刀を地面に突き刺し、肩を竦める。
生まれる圧倒的隙!!
とれる!!
だがしかし。
俺の野生的本能が告げている。
ここで攻めたら死ぬ、と。
伊達に長年剣闘士をやってるわけじゃねぇんだよ。
俺は一度バックステップを踏み、距離をとる。
大和はおかしそうに首を傾げた。
(発動しろ。トラップビーンズ!!)
瞬間、大和の周りにしかけておいた種から急速にツタが生え、大和を拘束する。
「おお!」
大和は驚いている間に拘束された。
「タイガ選手!! 味な技を見せます! トラップビーンズで相手を拘束したぁ!! 何でもありのアルティメットワンだからこそできる戦法!! 流石です!!」
ったりめぇよ。
こちとら、アルティメットワンのために様々な対策を練ってきているんだ。
神魔霊獣達に比べれば、俺達獣人族はスペックで劣る。
ならば、知恵を振り絞る。
どんな手を使ってでも勝たせてもらうぜぇ! 超越者さんよぉ!!
俺は地面が砕けるほどの踏み込みで一気に距離を詰め、自慢の爪で大和を八つ裂きにしようとする。
大和は身構えるが、俺は咄嗟にその場の砂を蹴り上げ、大和の目を潰した。
「ぬぅ!」
これで完璧!!
身体の自由と視界を奪った。
あとは決めるだけ!!
「ふん!!!!」
俺は渾身の力を込めたボディーブローを放つ。
大和の身体が浮き、トラップビーンズのツタが引きちぎれる。
まだまだ!!
「オオオオオオオオ!!!!」
殴る!! 殴る殴る殴る!!
蹴る蹴る蹴る!!
引き裂く引き裂く引き裂く!!
一切の躊躇いなく、大和を殺そうとする。
手ごたえはある!! いける!!
でも、なんだ……
この途轍もない違和感は……
「クックック、流石ベテラン、小技も武技も一流だ。だがなぁ」
血まみれでふらついているが、大和の目は死んでいなかった。
むしろ、狂気に近い色を灯していた。
「この程度の相手とは、何度も戦ってきたんだよぉ!!」
「ぬかせ!!」
俺は全身の筋肉をバネにして飛び上がる。
コイツの喉元を引き裂いて締めだ!!
「ククク」
大和は突如として、地面に突き刺さっていた刀の峰を蹴り上げて俺の右腕を飛ばす。
「ぐぁぁ!!?」
な……!?
なんて出鱈目な戦い方だ!!!
しかし、刀は俺の腕と一緒に空中を浮遊している。
大和は剣士だ! 今なら!!
「がフッ……!?」
喉に鋭い何かが突き刺さる。
俺はゆっくりと現状を確認する。
そこには、脇差を俺の喉元に突き入れている大和がいた。
「どーせ剣がない今なら~とか思ったんだろ。考え浅すぎ、獣かよ。あっ、獣だったっけ、お前」
「~ッッ」
「他の剣闘大会で優勝してるっつうから期待したんだが、とんだハズレだ。つまらねぇ、あばよ。タイガちゃん♪」
大和は脇差をぐりりと抉り、そして引き抜く。
俺の首に空いた穴から大量の鮮血か溢れ出る。
俺の意識は、すぐに途絶えた。
◆◆
「……た、タイガ選手、戦闘不能!! 大和選手!! 歴戦の手練であるタイガ選手を降しました!!」
俺は傷だらけの痛む身体を震わせ、溜息を吐く。
あーあ、つまらねぇの。
頭は使ってた。
動きも良かった。
だが本能に頼り過ぎている。
マジで野生動物かっての。
俺は脇差の血糊を払い、舞い降りてきた刀をキャッチして、納刀する。
「すげぇ、あのタイガを……」
「でも、大和も怪我してるじゃん」
「やっぱり、超越者っていうのはデマ?」
「超越者がタイガ程度に苦戦するはずねぇもんなぁ」
「でも、かっこいい……」
俺は数々の声を聞き流しながら控え室に戻っていった。
苦戦してるんじゃねぇ、遊んでるんだよ。
勘違いするな。
まぁ、別に周囲の評価なんざどうでもいいがよぉ。
んじゃ、次の試合が決まるまで、娼館で女達と戯れてるかね。
誰と試合するかは、その時のお楽しみってことで。
でないと、つまらねぇだろう?
相手の情報を入念に調べる? 対策を練る?
あー馬鹿らしい、勝つことがそんなに大切か?
楽しめよ、戦いを。
血沸き肉躍る闘争を。
勝ちとか負けとか、そんなもんどうでもいいだろう?