31,帰ってきたリーテ
目を開けると、そこは慣れ親しんだ語り手さんの部屋だった。
「おかえり、リーテ。やり遂げたんだね」
「はい……ただいま、語り手さん」
ボクが言葉を発すると、彼は穏やかに微笑んだ。色々見透かされている気がして、なんだか照れくさい。
「護衛の2人も、お疲れさま」
『いや、あたし達は何もしてないよ』
「ここに書かれている〔物語〕の……」
「わああ! ちょっと、止めてください!」
照れくさいなんてものではなかった。お願いだから、保護者のような会話は止めてほしい。言葉を遮るついでに、切り取った〔物語〕のページを語り手さんへと押し付ける。
「はい、確かに受け取りました」
ボクの目的は、苦笑している語り手さんの正体を暴くことなのである。
「では、改めて。あなたの〔物語〕、聞かせてください」
……そう言った途端、語り手さんの口元が引きつる。
「リーテ、その紙とペンは何かな……?」
「語り手さんの話を、〔物語〕にしようと思って」
「待った! 僕はそんなこと許可してないんだけど!?」
「これがボクの〔語り手〕根性です」
にっこり笑う。これも〔物語〕のため。ミツキ君とミランダさんにも援護射撃を頼もうと、視線を向けた。
しかし、2人は何故か狼狽していた。ミツキ君は魂の抜けたような顔をしているし、ミランダさんはボクの胸元でぶるぶると震えている。
仕方がないので1人で頑張ろう。
「ちょっと、色々と不公平じゃないかな? 明らかに僕の方が痛手が大きいよね!?」
「それはしょうがないですよ。語り手さんの方が『大人』ですから」
「うぐ……」
論破成功。紙の上にペン先を置くと、語り手さんはがっくりと項垂れた。
『まさかリーテがあんな風になるなんて……! あんた、責任取っとくれよ!』
「ごめんミランダ氏、責任の取り方が分からない! いくらでも謝るから、だからつつかないで!」
「リーテ殿が……リーテ殿がああ!」
ブラックリーテ、爆誕。




