28,君のため
リーテが飛び出して行ってしまった、ようなものだろう。
「語り手殿! リーテ殿が、その……!」
ミツキが『語り手さん』にすがり付いた。混乱しているらしい。身長差で掴みかかれない事を忘れている。
『ミツキ、あんたはリーテの様子を見てきてくれないかい?』
「しかし!」
『あたしは、こいつに話があるから』
結局は、ミツキを追い出す形となる。彼は釈然としない顔で去った。
『さて』
あたしはくるり、奴の方を向いた。
『なんで、あんな事を言ったんだい?』
「それはもちろん、リーテのためさ」
さっきの狼狽ぶりが嘘のように消え、『語り手さん』は完璧な微笑みを浮かべている。
『そんなに、言いたくないのかい。自分の過去』
一瞬の沈黙。
「勇気とか、きっかけとか、そういうものが要るんだ。リーテにも……僕にも」
微笑みは少し崩れていた。思わず、ため息をつく。
『どいつもこいつも……』
リーテもミツキも『語り手さん』も、一体何を抱えているのやら。
『ま、これでリーテがトラウマでも作ったら、あんたに責任取ってもらうからね』
「え、あ、そうだね」
顔を引きつらせる『語り手さん』。
『ちょっと、あんた! そこら辺考えて発言しとくれ!」
「うん、気を付けるよ……」
こいつは、得体の知れない奴ではない。心を持たないモノでもない。今日の事で良く分かった。
……いいや。血という言葉を出しただけで真っ青になってしまうところ。お説教がしつこいところ。占いの事になると途端に我儘な子供のようになるところ。そして、リーテと話す時の、愛想笑いとは言い切れない表情。そんなものが積み重なって、本当はとっくに分かっていた。
初対面の時の印象は、あたしの思い込みだったのだ。……良かった。
『さてそろそろ、帰るかねぇ。くれぐれも、よろしく頼むよ?』
「分かった。じゃあ、また送るよ」
しかしその提案は、丁重にお断りした……




