27,彼の謎、ボクの試練
それは、語り手さんが〔全世界要注意人物図鑑〕を片付けようとした時の事だった。
「待て!」
叫んでミツキ君は、その本を語り手さんから奪い取った。
「うわ!」
「何してるんですか、ミツキ君!?」
『ミツキ、あんたねぇ……!』
ボク達の言葉にも、彼は答えない。手をかざすことでページを捲れるのは持ち主だけのようで、ミツキ君はごく普通の図鑑の使い方をしている。まるで、必死に何かを探すように。
様々な人間の立体画像が、現れては消えていく。
「返してくれ! ミツキ氏!」
語り手さんが声を上げた。
ボクは驚いて思わず、ミツキ君への呼びかけを止める。それはミランダさんも同じだったようで。
『あんた……どうしてそんなに焦ってるんだい?』
「…………」
彼女の問いかけに、語り手さんは返答に詰まる。そしてその表情が、下半分だけでも分かるほど絶望に染まった。
ミツキ君のページ捲りが止まったその場所には……語り手さんの立体画像があったのだ。
ミツキ君によると、図鑑が捲られる時に、語り手さんの立体画像を見かけたという。
「1度目は気のせいかと思ったのだが、先程、また語り手殿の絵が見えたのでな」
「……参ったなあ。ミツキ氏の動体視力を侮っていたよ」
取り繕うように、彼の口元に明らかな作り笑いが浮かぶ。
『あんたは、危険人物なのかい……?』
声に警戒を滲ませるミランダさん。
ボクは疑問と疑惑を紐解くため、図鑑に目を通すが……残念ながら、何語かも分からない文字で書かれていた。
「違うよ。危険人物なら、〔語り手〕の教育係なんてやってない」
「じゃあ、あなたは、いったい……」
「それは」
畳み掛けるように言われる。
「君が、故郷の話をしてくれたら、話そう」
「…………!」
自分だけ話すのは不公平だ、と、そういう事らしい。
今まで散々逃げてきたボクに、立ち向かえというのか。 この〔妄想〕が始まった時から、ずっと目を背けてきたものに。
ボクはどんな顔をしていたのだろうか。苦笑した語り手さんが口を開く。
「それか、現実世界へ〔物語〕を集めに行ってもらうか」
「……分かりました。そちらで」
そう答えていた。〔現実〕へ行くのも嫌だが……語り手さんの正体も知りたい。
〔語り手〕などやったせいで、好奇心旺盛になったのかもしれない。彼の事を、どうでもいいと思っていないからかもしれない。
「少し、準備をさせてください」
心の準備を。口の中でそう呟いて、ボクは語り手さんの部屋を後にした。




