01,プロローグ~物語が始まった事に気づかない主人公ってどうなのよ~
主人公が厨二病末期かも。ドン引き注意です……
「ねえ、そこの君。〔語り手〕になってみないかい?」
あ、これ妄想だ。
歩道橋の上で白いフード付きマントを纏い、顔を隠している妙な人間――声からして、男だと思われる――に話しかけられて、ボクが真っ先に思ったのはそんなことだった。
自分が変わっている事は、嫌という程分かっている。
ボクの目に見えている世界は、聞こえてくる言葉は、他人と全く異なるらしい。そのせいか、ボクに対して蔑みや憐れみの目を向けなかった人間はいない。
それでもボクは大丈夫。物語が、妄想があるから。
言葉のナイフは、ボクの脳内で魔法の呪文になる。ボクを傷つける人は、みんなみんな宇宙人だ。ボクは、そんな異世界を旅する冒険者。
ね、素敵でしょう?
だから、現実にそぐわない妙なものが現れても、妄想としか思わなかったわけだ。
だけど、妄想(白づくめの人)が現れたのは、チャンスだ。久しぶりに、妄想の中の大冒険へ出かけられる!
「おーい、大丈夫ー?」
彼は、ボクが困って思考を停止していると思ったらしい。
「あの、先程の話……お受けします」
「そうだよね……突然こんな事言われても…………え!?」
まあ、主人公ならもう少し悩んだりしなきゃいけないんだろうけど、早く妄想大冒険に出かけたかったから、二つ返事でOKした。心配なのは〔語り手〕がどんなものだか分からないことだけど、設定は後から付いてきてくれるはず。
「……いいの?」
妄想が、不安気な顔をして、そう聞いてきた。
「大丈夫ですよ!」
いいから、早くボクを妄想の世界へつれてってよ。
「じゃあ、ここで立ち話もなんだから……ちょっと、手を貸して」
「はい、わかりました!」
ボクは、白づくめの手を取り……彼と共に、消えた。
こうしてボクは、灰色の現実世界に、しばらくの別れを告げたのだった。
物語の幕は、切って落とされた。しかし、当の主人公は、その事に気づいていなかった。
*現実世界*(≒地球)
魔法や妖精が信じられていない、科学の発展した世界。問題山積み。




