表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/44

16,格差パニック!?

「おかえり、リーテ」

「ただいま戻りました、語り手さん!」

「ここは何処だ!? 違う世界とはなんだ! 説明してくれ!」

 ボク達はいつも通り、〔語り手〕の拠点に帰ってきた……と、いう訳にもいかず。新たな護衛であるミツキ君は、背伸びしてボクに掴みかかっている。

『ミツキ、ちょっとは落ち着きなよ……そんなに揺らされたら、あたしが気分悪くなっちまうよ』

 力の無い声で呟くミランダさん。

「えーと、ミツキ、氏? とりあえず落ち着いて……」

 語り手さんがそう言った途端、ミツキ君は凍りつくように動きを止めた。

「申し訳ございません」

 すぐにボクから離れ、跪いたが……頭を垂れる様子はなく、信じられないとでも言うように、目を限界まで見開いている。

 おかしい。

『あんた、なんで敬語なんて使ってるんだい?』

 そうだ。彼は、年上のミランダさんにも敬語を一切使っていないのに。

 ミツキ君はぎこちなくミランダさんの方――つまりはボクの胸元――を見た。

「魔物としての性だ。人ならざる格上の者には、つい従ってしまう」

 爆弾発言、炸裂。え、語り手さんって人外だったの!?

「あなたは、一体……」

 ボクの言葉に、フードから覗く口元が引き攣った。

「待った、待った! 僕は確かに人間ではないけど、黙ってたのは悪かったけど! 偉いわけじゃないから! 僕に敬われる程の価値はないから!」

「そんな訳にはいきません。貴方様は、生きた年数も、人ならざる者としての力も、私とは段違いなのですから」

 そうして、彼らの腰の低さ競争が始まり……

「……分かった」

 最後には、ミツキ君が折れた。

 ちなみに、ミランダさんは語り手さんが人外である事を知っており、ミツキ君が魔物ということも予測していたらしく。衝撃の事実やらミツキ君のイメージが揺らぎそうになるやらで慌てふためくボクとは違い、終始落ち着いていた。

 ……流石だ。


 その後ようやく、備え付けのソファーに向かい合わせに座り、ミツキ君にあれこれ説明する事になったのだが……

 世界へ取材に行った事による身体的、精神的な疲れ、そして昨夜ほぼ睡眠を取っていなかったせいで、ボクは居眠りしてしまったのだった。


「ん……?」

 目を覚ますと、語り手さんがいた。

「あー、ごめん。起こしちゃった?」

 ボクはソファーに横になっている。そこに語り手さんが自分のマントを掛けようとしていたらしい。

「いえ、大丈夫です」

 ……こんな風に誰かがボクの身体を労わってくれたのは、随分と久しぶりだった。

「2人は部屋に行ったよ。ミランダ氏が、ミツキ氏に色々案内したいんだってさ」

「そう、ですか」

 首にかけた黒紫の鍵に引っ張られるミツキ君を想像してみる。

「……ミランダ氏から聞いた。ごめんね、君を怖がらせてしまって」

「いいえ!」

 確かに少し怖かったけれど、ミツキ君に会えたのだし、後悔はしていない。

「あ、そう言えば……」

 ボクは、テーブルの前に置かれていた本から、今回の〔物語〕に相当する部分を開く。

「どうしたの、リーテ? 今回の収穫は無しっていうのも聞いてるよ?」

「いえ、あるんですよ」

 ボクから本を受け取った語り手さん、〔物語〕を流し読み。

「これは、もしかしてミツキ氏の……?」

「……やっぱり、バレますか」

「〔物語〕の主人公」と身体的特徴が完全に一致しているから、仕方ないと言えば仕方ない。

「実は、本人に〔物語〕を書く許可を取ったとは言い難いんです、それ」

 きっとあれは、ボクにだけ話してくれたものなのだ。

「なので……公開は、しないでもらえませんか? ミツキ君が、自分の過去を話せるようになるまで」

「分かった。でも……ミツキ氏が過去を自分から話す事が出来る日なんて、来るかな? 誰にだって、話したくない過去の1つや2つあるものさ。僕にだって、君にだって、ね」

「…………」

 そう、ボクだって、偉そうにミツキ君の事を言える立場ではないのだ。

 ……何故ボクは、追い詰められているのだろうか。〔妄想〕は、ボクによる、ボクのための空間であるはずなのに。

「まあ、いいよ。〔物語〕は、僕が厳重に保管しておくから」

「ありがとうございます……では、ボクは部屋に戻ります」

 こんな時には、何も考えず休んだ方がいい。皆の前で、明るく振る舞えるまで。

「仕事が来たら、また呼ぶからさ。それまで、ゆっくり休みなよ」

「はい」

 不可解を押し込めるように、ボクは扉を閉めた……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ