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15,魔物勇者と赤い月【後編】

ようやくいつものノリに戻ってきます。

短め。

「すまなかった」

 輝く朝日に、正座をして頭を深く下げたミツキ君の姿が照らされる。

『……土下座って文化、あんたのとこにもあるのかい?』

「私の父がジパングの外交官をやっていたから、いくらか文化を知っているのだ。もしかして貴方がたは、ジパングの出身なのか?」

『そう、だねぇ』

 ……だからあの子の名前は美月なのか。

『で、リーテ。あんた随分早くから起きてたみたいだけど、何してたんだい?』

「実は、すごい()を見て目がさめまして……その夢を元に〔物語〕を書いてました。ミツキ君が入ってきたのは気付きませんでしたね」

 ちなみに、既に完成している。

「リーテ殿は作家なのか?」

『……そんな所かねぇ。ま、いいか』

 溜息をはさみつつ、ミランダさんが言った。

『あんた、酔っ払って部屋を間違えたんだろう? 特に何か起きた訳じゃないんなら構わないよ。次は気を付けなよ?』

 その台詞に同意しているような顔を作って頷いておく。

「やはり私は酒癖が悪いのだな……。飲酒は控える事にしよう」

 ミツキ君が立ち上がった。

「それでは、貴方達の事を国に報告してくる。……その後は、別の者が貴方達を故郷へと送り届けてくれるだろう。さらばだ」

ドアを開けて出ていこうとする彼を、ボクは呼び止めた。

「待ってください! あの、ボク達、護衛を募集してるんです!」

 マスコットに追いかけられたとき、自分達だけではどうにも出来なかった事を思い出す。

『ちょっとあんた、何言って……』

「ミツキ君、よかったら、専属の護衛になってくれませんか? ……もちろん、他にやる事がなければですが」

 ボクなりに答えようと思ったのだ。

 美月の問いに。魔物勇者の悲しき叫びに。

 その資格なんて、ないのかもしれないけれど。

『はぁ!? あんた、正気かい!? あんな……』

 ミランダさんは、その後に続く言葉を飲み込んだようだった。

「そう、なのだろうな。リーテ殿、他を当たった方がいい。私は、何をしだすか分からないぞ?」

「それでも、です。ボクはミツキ君に護衛になってもらいたいんです!」

 ミツキ君が、軽く目を見張った。そして、やや俯く。

「いい、のか?」

「ミツキ君が、いいんです。……それに、ミランダさんとミツキ君の戦闘は、息がぴったり合ってましたし!」

 しばらくの沈黙。

「……分かった。幸い私は、もうこの国では用無しの身だからな。……大丈夫だろうか?」

 最後の言葉は、ミランダさんに向けられたようだった。

 溜息が、1つ。

『リーテがそこまで言うなら、しょうがないねぇ。あんたにも、色々あったんだろうさ。……ただしミツキ、あんたがリーテを傷つけるような事があったら! あたしは、承知しないからね』

「ああ」

 身長の関係で、跪く事は出来ないが。そう言ってミツキ君は、恭しくボクの手を取る。

「リーテ殿、貴方を……私自身からも、守ってみせよう」

 手の甲に、キス。紅い瞳が、ボクを真っ直ぐ見据えた。


 ミツキ君がボクの護衛となった事を、酒場のみんなが祝福してくれた。

「よかったなミツキー!」

「頑張れよー!」

「怖がられんように気を付けろよ!」

「いろんな所行って趣味作れ!」

「止めろ、潰れるっ、体格差を考えろ!」

……傭兵さん達の祝い方は、正直どうかと思うけれど。屈強な男達に囲まれて、ミツキ君が見えない。

「あらあら……」

 女将さんも苦笑いだ。

「護衛?お前なんかに務まってたまるか!」

 その時、カウンター席から立ち上がった男性が1人。人波がさぁっと引いていき、ミツキ君の姿が確認できた。

「あの人、何者!?」

「あー、色々と有名な剣の作り手さんね。みんなからは、〈孤高の剣職人〉って呼ばれてるわ」

 ボクの独り言に、女将さんが答えてくれる。色々、には、朝っぱらからお酒を飲んでいる不真面目さも含まれている気がした。

『だらしないねぇ……』

 ミランダさんの呆れ声が響く。

「その名の通り、腕は一流なのよ? 彼は気に入った人にしか剣を作ってくれないから、みんな逆らえないの」

 ミランダさんの言葉をうっすら感じとったのかどうかは分からないが、さらに情報を教えてくれる女将さん。

「そうなんですか……」

 なんか……うん、どこかの漫画にでも居そうな感じの人だ。

『大人たる者、妥協は必要だと思うんだがね』

「あはは……」

「だから、私でも出来ると言っている!」

 その時聞こえた、怒鳴り声。ミツキ君と剣職人さんは、険悪な雰囲気となっているようだった。

「いつもいつもいつも、俺の最高傑作を血塗れにしてくるような奴がか?」

「ぐっ……」

 それを言われると弱いのか、押し黙るミツキ君。

「まあ、いい。お前がいないと仕事が楽だ。さっさと、どこへでも行きやがれ」

 気まずい沈黙の中、立ち尽くす2人。

『あちゃあ……』

「酷いですねあの人……」

「あら、そうでもないのよ? 剣職人さんは気に入った人にしか剣を作らない、というのは、さっき言ったわよね? しかも、ミツキ君には最高傑作を渡してるし、戦いの後も何だかんだ言いながらいつも剣をぴかぴかにしてくれるし」

「あー、なるほど……」

 そういう事か。

『素直じゃないねぇ……』

 再び、ミランダさんの呆れ声。

「おい女将! なに妙な事吹き込んでやがる!」

 ……そうやって突っかかられると、余計に信憑性が増す気がする。

「間違ってないと思うけど? それよりも、最後ぐらいミツキ君に労りの言葉でもかけてあげたらどうかしら」

 彼女の発言に勇気を得たのか、傭兵さん達も彼を囃し立て始める。

「だーっ、うるせえ!」

 耐えきれなくなったように叫び、乱暴にドアを閉めて出ていってしまった。呆然としてドアを見るミツキ君。

『ま、あんたも愛されてるって事さ』

 その言葉に、今度は何とも言えない顔をした彼であった。


「ふと思ったんですが……魔王を倒した事、国とかに報告しなくていいんですか?」

 街道を歩き、故郷へと向かう……ふりをしながら人目につかない場所を探す。

「……魔王を倒せば魔物の数もおのずと減っていく。私がわざわざ報告しなくとも、じき分かる事だ。……私となど、誰も会いたくないだろう。だから、いい」

『ミツキ、あんた……』

「2人とも、帰り支度しましょう!」

 湿っぽい雰囲気をかき消そうと、手を振って大声を出した。

「……ああ」

『そう、だねぇ……』

 街の裏路地に入って本を広げる。

「その魔法陣は……〔帰還魔法〕か? ジパングの技術は素晴らしいな」

 世界は違えど、〔瞬間移動魔法〕の存在は知っているようだ。まあ、魔王が出てくるようなゲームなら、そういう物は普通にあるしね。

 しばらくまじまじと本を観察していたが、ふと我に帰ったらしい。

「……魔王城の中は仕方が無いにしろ、何故今まで帰ろうとしなかった?」

「仕事があったので」

 ボクの言葉に、今度はミランダさんが反応した。

『そう言えばリーテ、結局、〔物語〕はどうなったんだい?』

「収穫がなさそうなので、帰る事にしました」

 まあ、嘘だけれど。

「リーテ殿が夜に書いたものでいいのではないか?」

『あー……そう言えば、あんたにはあたし達の職業、まともに説明してなかったねぇ』

 しまった、とでも言いたげなミランダさん。

「ん? 作家、なのだろう?」

「いえ……かなーり、違うんですよ。馴染みのない職業ですし、公言してはいけないので、作家と名乗ってますが」

『あたしも、初めて聞いた時は驚いたもんさ……』

「公言してはいけない……? 驚いた……?」

 ミツキ君は考え込んでしまった。

「すみません、詳しい事は、帰ってから説明します」

『瞬間移動に誰かを巻き込んだらまずいしねぇ』

「分かった……」

「それでは!」

 魔法陣をペンで叩くと、見慣れてきた強い光が現れる。

「待て、行き先は……空の上!? 方向も明らかにジパングではないぞ! どういう事だ!?」

 いきなり騒ぎだすミツキ君。

『そう言えばこの魔法陣、ある程度の魔力の持ち主には、発動時にぼんやりとだけど着地地点の方向が分かるんだったねぇ』

 便利機能が裏目に出ている。

「先に言った方が良かったですね。……実はボク達、この世界の人間ではないんです」

「なっ……!?」

 何だそれは、とミツキ君の叫び声が響き渡る直前。

 ボク達は、この世界を後にした。

*魔物世界*(≒RPG)

その名の通り、生物の中で1番個体数が多いのが魔物である世界。通常ならば人間や動物は魔物達と共存し、また時には崇め奉っている。

だが数百年に1度、魔王以下知能を持ち人型をとるモノ達が現れ、その度に凶暴化した魔物の脅威に晒される。なお魔王は最初から定まっている訳ではなく殺し合いの末決められ、それにより町が1つ滅んだ事もあったらしい。

どこからか現れる聖剣を持った勇者の活躍により、滅びるまでには至っていない。

しかし今代の勇者はアッサリ魔王にやられており、魔王を倒したのは別の人物。

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