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10,心は本物だから!【中編】

この話が思ったより長くなってしまったため、3部構成となります。

 世界がオレンジ色に染まるころ、ボク達はまたもやマスコット占領地帯にやって来た。

「そろそろあんたに身体を返そうか? チアフルに取材するんだったら、その方がやりやすいんじゃないかい」

『はい、お願いします』

 流石ミランダさん、変身術はどんどん上手くなっている。

 ミランダさんの姿だと、滞在している世界のホテルに泊まれたりするから、結構ありがたい。ボクだけの時は、語り手さんの所に戻らなければいけなかったし、その為の瞬間移動を誰にも見られないように気をつける必要があった。

 ボクに様々な感覚が戻ってくる。

「チアフルちゃん、来ますかね?」

 チアフルが毎日マスコット達を追い払っていると仮定したとき、この時間帯が1番出会いやすいと思ったのだ。昼間は学校に行っていそうだし。

『ま、運次第かねぇ』

 久しぶりに白な髪の毛を、軽く整える。

「……ミランダさん、どうしました?」

 何故か鍵が、ボクの首を軸にして、胸元から背中に横回転。

『リーテ。あたし達の運は、最悪のようだよ』

「はい?」

『後ろ、見てみな』

 恐る恐る振り向けば、後方からパステルカラーのもこもこが。

「うわあああ!!」

 そしてボク達は、デジャブに襲われる。


 幸いだったのは、その後すぐにチアフルに助けてもらえた事か。

「ここ、危ないんだよー。昨日も2人追いかけられてたし! 白い髪のお姉さん、そーいうワケだから気をつけてね!」

 ボクの姿だからか、昨日よりさらに口調が緩い。

『昨日、あたしはあの口調でも年上として敬われてたって事かい……』

 愕然としているミランダさん。

「あの、チアフルさんですよね?」

「そーだよ!」

 走って行こうとするチアフルを呼び止めた。

「実はボク、記者をやってまして、あなたを取材したいんです!」

 現代的な世界での常套句を繰り出す。

 実を言うとボクは年齢的には高校生なのだが、童顔とでも思ってもらいたい。

「え……」

 黙り込むチアフル。確かに、誰だって自分の事を根掘り葉掘り聞かれるのは嫌だろう……

「ホントにー!?」

 ……そうでもなかったみたいだ。目を輝かせて詰め寄ってくる。

「やったー! これで有名になれそー!」

 ぴょんぴょんと飛び回るチアフル。

(チアフルちゃんってまさか、目立ちたがり屋!?)

『……あんな格好してる時点で、そうだろうねぇ』

(ですね。あはは……)

 チアフルが停止して、ボクを指さした。

「で、記者のお姉さん! 何が聞きたいのかなー!」

「あの、まず、ここから出ませんか? もうマスコットには会いたくないので……」

 これ以上襲われでもしたら、トラウマになりそうである。


 マスコット占領地帯を抜け、近代的な住宅街へ。

「お、お邪魔します……」

「どーぞどーぞ! お父さんもお母さんも仕事でいないから、のびのびしちゃってー!」

「はい……」

 テレビから流れるテーマソング(教育系のアニメ番組のようだ)。目の前にはジュース。そして、この景色からどうにも浮いている、魔法少女(仮)。

 ボク達は何故か、チアフルの家に来ていた。

『会ったばかりの人をやすやすと家に入れるのは、如何なものかねぇ……』

(大丈夫ですかね? この子……)

 2人してため息をつく。

「それで、わたしは何を話せばいーのかな?」

 ボク達の心配など露知らず、小首を傾げるチアフル。

「ええと、それではまず……」

 気を取り直して、取材をすることにした。


 お父さんもお母さんも、おしごとでいそがしい。

 いろいろとわたしのめんどうを見てくれたのは、おとなりに住むおねーちゃんだった。おさななじみっていうには、ちょっと年がはなれすぎてたかな。

 ある日、いつものようにおねーちゃんの家にあそびに行ったら、白と赤のかわいい服をきた、かみが金色の女の人がいた。

 おねーちゃんのお友だちかな、と思って、ドアのかげから見ていると、女の人がぴかぁ、って光った。

 あんまりまぶしくて目を閉じて。しばらくして目を開いたら、なんとそこにはおねーちゃんが立っていた。

「おねーちゃん……?」

「ま、愛奈!?」

「学校はどうしたの」と聞かれて、「今日は、はやがえりなんだよ」と答えた。

「そんな……」

「おねーちゃん、今のなーに、なーに!」

 おねーちゃんが、下げていたあたまを上げる。

「うう、しょうがない……愛奈、さっきの事も、これから話す事も、2人だけの秘密にしてね? お父さんや、お母さんにも内緒だよ?」

 やくそく、と、出される小指。

「うん!」

 ゆーびきーりげんまん、うっそついたらはりせんぼんのーます、ゆーびきった!

「実は、私ね……ノーブル・ハートなんだ」


 それからわたしは、おねーちゃんにいろんなものを見せてもらった。ノーブルの使うぶきもさわらせてもらったし、ルーシュっていうノーブルのおたすけマスコットともお友だちになった。

 わたしは、うれしかった。ほこらしかった。

 だって、あこがれのノーブル・ハートが、おねーちゃんだったんだもの!


 だけど。おねーちゃんとルーシュの様子がおかしくなったのは、それから数年後のことだった。

 わたしが遊びにいっても、2人(1人と1匹?)ともいないことが多くなった。いても、すごく疲れていて遊びを断られたり、寝ていたりする。

「おねーちゃん、大丈夫?」

「大丈夫よ。頼まれた仕事でちょっと疲れてるだけだから」

 床に寝転んでるおねーちゃん。前は、絶対こんなことしなかったのに……

 原因はたぶん、電力供給。敵を倒したノーブル・ハートが、発電を始めたというのをニュースで見た。

 お母さんは、「最近電気代が安くていいわ」と言っていた。

「おねーちゃん、その仕事、お休みした方がいーんじゃない!?」

 ただ、おねーちゃんの負担が大きすぎる気がする。

「いいのいいの。……皆の幸せが、私の幸せだから」

 そう言って、おねーちゃんは、笑った。とってもステキな笑顔だったけど、なんだか胸騒ぎがした。


 おねーちゃんが死んだ。過労死、だって聞いた。

「馬鹿者、死ぬほど辛い仕事なんて、やるんじゃない……!」

「あの子が死ぬぐらいなら、私が……!」

 ここは白と黒の空間。おじさんとおばさんが、大泣きしている。

 箱の中のおねーちゃんは、お化粧しても隠せないくまがあった。

「おねーちゃん……おねーちゃん……!」

 笑顔がステキなおねーちゃん。魔法少女になれるほど、皆の幸せを願っていたおねーちゃん。

 でもこんな終わり方……おじさんとおばさんとわたしにとって、幸せでもなんでもない。


「マナ!」

 白黒の空間から脱出できて、しばらくした後。寝転がっておねーちゃんについて考えていたわたしの耳に、誰かの呼ぶ声が聞こえた。

 なにかと思えば、ベッドの下からわたしを見上げるルーシュ。かわいいピンクのネズミだ。でも今日は、その身体に合わない真っ黒なリボンをつけていた。全身に包帯まで巻いている。

「ルーシュ、どうしたの?」

「……誰かが死んだ時に黒い服を着る習慣、ボク達にもあるんだ。包帯は本当に怪我してるだけ」

「そー、なんだ」

 たしかに今日わたしも、真っ黒なワンピースを着た。

「今日はキミに言いたい事があって来た。……今日でお別れだ、マナ」

「……なんで?」

「ニンゲンが、こんなに身勝手な生き物だったなんて、知らなかったよ」

 ルーシュは笑った。でも、顔が引きつってる。

「あれは酷かった。電力供給、最後の方は、寝る事も許されずにやっていたよ。ニンゲン達にとっても恩人のはずのノーブルを、利用し尽くした上に殺すなんて……」

 ギリリ、と、歯を食いしばる嫌な音。ぷるぷる震える小さな手。

「ボクは、ニンゲンに復讐する。絶対、殺してやる。ノーブルを殺した奴らも。ノーブルの苦痛を知ろうともせずに、利用していた奴らも。……ああ、キミの事は殺さないから、安心して。ノーブルを止めようとしてくれたのを知っているし、何より、ノーブルの妹みたいな存在だから」

 わたしにだけ、やさしく笑ってくれたけれど、とっても寂しそうな顔をしてた。

「さよなら。復讐が終わったら、迎えにくるよ」

 言うだけ言って、窓から飛び降りたルーシュ。

「まってルーシュ!」

 窓から下を覗いてみた。けど、ピンクのネズミはどこにもいなかった。


 おねーちゃんは、電力供給のやりすぎで死んでしまったらしい。お父さんに聞いたら、過労死は、働きすぎて死ぬことなんだって。無理やりやらされていたみたいだ。それは許せないけれど。

 でも、人間をみんな殺すなんて、間違ってる。おねーちゃんみたいに優しい人だって、きっとたくさんいるはずなのに。


 それからしばらくして、マスコットが人間を襲うようになった。

 テレビでは、マスコットは悪いやつって言われてたけど、わたしはそうじゃないって知ってる。ルーシュは、やれやれって言いながら、わたしのおしゃべりを聞いてくれたから。泣いている時は、励ましてくれたから。

 有名になって、マスコットだけが悪いんじゃないって、みんなに伝えるんだ。わたしは、おねーちゃんを殺した悪い人をつかまえて、ルーシュ達を止める。

 おねーちゃんの願った、みんなが幸せな世界を、作るんだ!


 それとね、つみほろぼし。わたしは……おねーちゃんとルーシュの一番近くにいたのに、なんにもしてあげられなかったから。


 愛奈――やっと本名を聞くことが出来た――の話をまとめ、〔物語〕を書いた。これが、プロローグと言ったところか。

(有名になりたいのって、単なる目立ちたがり屋だからじゃなかったんですね……)

『ああ。魔法少女を名乗ってるのも、マスコットに話を聞いてもらえる可能性を少しでも高くする為なんだろうねぇ』

 ボク達は、心の中でこっそり謝った。ごめん、目立ちたがり屋のイタイ子だと思ってて。

「新聞の記事ってこんなんだったっけー?」

 ジュース片手に、愛奈が〔物語〕を覗き込む。

「そ、そういうコーナーなんですよ!」

「えー?」

 やっぱり、記者は無理があったか?

「あの、ちょっと気になったんですが……『おねーちゃん』がノーブルだったって事、ボク達……いや、ボクなんかに言っちゃって良かったんですか?」

 ふと思い付いた、反撃と言う名の誤魔化し。

「あ…………」

 愛奈が真っ青になった。

「どーしよー! 天国でおねーちゃんに針千本飲まされるー!」

 彼女はやっぱりアホの子である。

「ついでに言うと、指を切られてげんこつ一万回くらいますね。

『ゆびきりげんまん』ってそういう意味なので」

『へぇ。よく知ってるねぇ』

(ええ、まぁ)

 梨子がネットサーフィンをしている時に手に入れた知識だ。

「うわ、痛い痛い絶対痛い! おねーちゃん、ごめんなさーい!」

 愛奈は涙目で転げ回っている。今にもかつらが取れそうだ……

 実を言うと、ボクは『おねーちゃん』の本名は聞いていないし、この辺の住所も分からない。『おねーちゃん』が危惧したであろう、ノーブルの正体がバレる事はないのだが……あえて黙っておいた。

 この子はもう少し色々に危機感を持った方がいい。

〈番組の途中ですが、速報です。〉

 突然、アニメ番組のコミカルな音が止んだ。

〈どうやらマスコット対策庁が、マスコット達の退治に踏み切ったようです。我々にも情報は全く知らされておりません。

 ……たった今、現場にレポーターが到着しました。田嶋さーん?〉

 画面が切り替わり、雑多な音が鳴り響く。

〈……はい! マスコット占領地帯では現在、討伐隊の隊員達が銃を構えており、非常に物々しい雰囲気となっております! また、近隣住民が野次馬となって押しかけており……〉

『リーテ!』

 ミランダさんの声で、我に返った。

『大変だ! 愛奈が、いないんだよ!』

 言われてみれば、どぎついピンクは視界にない。

「それって、まさか……」

『ああ、そうだろうねぇ……』

 ボク達は、走り出した。マスコット占領地帯へと……

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