第9話 二つの太陽とピンクドレス
次に起きたら、ベッドに寝ているのは私一人だった。
ベッドがふかふかだったおかげか、すこぶるよく寝た。
ものすごい低血圧な私がこんなにスッキリ気持ちよく起きれるなんて奇跡に近い。
まぁ起きたら元の世界という奇跡は起こってなかったのが残念だけど。
「ん~~!!」
ぐいぃっと伸びをしてベッドから降りる。
いつの間にか窓は開けられ、気持ちのいい光が差し込んでいる。
昨日は気づけば夜だったし、慌しくて外なんて見てる余裕なかったけれど、窓の外を見る限り、元居た世界とそう変わりなく見える。
魔族やら魔王様なんてものが居るくらいだから、もっとどんよりした暗い世界を想像していたんだけど、どうやらそうでもないらしい。キレイな青空を見るとなんだか安心する。
でも……なんで太陽が2つもあるんだろう……?
青い空の上に、よく知る太陽より一回り大きなものと、一回り小さいものが二つ、燦々と輝いている。色・形は一緒なのに、なぜ二つも…。
「なんか、暑そう…」
「今は秋だから、むしろこれから寒くなるぞ」
ポツリともらした独り言に返事があったことに驚き、部屋を見回す。
すると、ベッドから少し離れたところにあるテーブルセットで優雅にくつろぐ魔王様がいらっしゃった。もちろん、顔には例のニヤリとした笑みを浮かべて。
「お前は女としての自覚はないのか?」
「はぁ?」
自覚といわれても…と見下ろせば、思い切りよく寝着が乱れていた。
胸はきわどいところまで見えてるし、裾もめくれ上がっている。
紐パンが日の光にさらされているなんて…!!
「見るな!! この変態!!」
慌てて乱れを直し、尚且つベッドからシーツを剥ぎ取り体に巻く。
くそぅ、あんな姿を見られるなんてっ!!
けどけど、見てるなら見てるでもっと早い段階で声かけたらいいじゃん!!
そのままじっと見てるなんて、さてはむっつりだな。
よし、これからはむっつり魔王と呼ぼう。
っていうか、そもそもこんな寝着しかくれないのが悪いんだし。
私は夏でも腹巻必須なくらいのデリケートな体なんだから。
お腹が冷えたらどうしてくれる。冷えは女の天敵なんだぞ!!
「そろそろいいか?」
「…どうぞ」
脳内暴言にもひと段落付いた頃合だったので、魔王の発言も許可してあげた。
私は心が広いから、むっつり魔王にだって優しいのですよ。
そんな私に、これ見よがしにため息ついてみせるってどういうことさ?
これだからむっつり魔王は困ったものだ。
「お前、思ってることが顔に出すぎだ。完全に俺の悪口を言ってただろう。
まぁ…とりあえず、服を用意させるから着替えて来い」
ため息共に吐かれた言葉と共に、昨日お世話になったコーラルが入ってきた。
彼女が持ってきた着替えを手に別室へ。
ともかくちゃんとした服を着ないと落ち着かないのは確かなので、魔王の言葉はありがたい。
まぁ、そもそもの元凶は彼なのでお礼は言わないけどね。
コーラルが持ってきたのは、長袖のワンピース型の膝丈スカート。
色がピンクでレース付きというのがちょっとどうかと思ったけれど、まぁ普通の服だ。
寝着に比べればものすごくマトモ。
やれば出来るじゃないか。
「それにしても、后様はすごいですわね」
「え、何が?」
着替えの最中、コーラルが嬉々として話しかけてきた。
朝起きて着替えるだけで、何がすごいのか?
「魔王様を変態扱いしてなんのお咎めもなしだなんて、考えられません。
まぁ魔王様と一夜共に過ごすだけでも、通常の魔族でしたら魔王様の魔力に当てられて危険な状態になっているでしょうけれど」
「え、え、どういうこと??」
「昨晩は何にもなかったんですよね? 后様の魔力に変化がありませんものね…。
でも、魔王様のご機嫌がいいようですから……口付けくらいは交わされました?」
「え? ちょ、待って、魔力とか変化とか、どういうこと?」
わからないことばかりで、しかもお咎めやら魔力に当てられるやら物騒な言葉も出てきて不安になる。
魔王と居ることは思ってるよりヤバイことなんだろうか?
「あら。魔王様はまだ何も話されてないのですね。」
「うん、ぜんぜん」
「ではこれから話されるおつもりなのでしょう。
私からお話しするより魔王様から聞かれるほうがいいですわ。
会話を通して二人の距離が縮んでゆくのですわ!!」
「いや、縮める気はないけど…」
コーラルのテンションについていけない。普通にしてたら丁寧な侍女さんなのに、時々変なスイッチが入るのはなんなんだろう。
正直、恐い。
なんだかんだで着替え終えるのに30分くらいかかった。
コーラルとの乙女トーク(?)もさしたるものの、ドレスがなかなかにフクザツな作りだったのだ。
コーラルがテキパキ着付けてくれたけれど、これを自分ひとりで着られる自信はない。
そんなドレスだけれど、思いのほか私に似合っていた。
28でフリフリのピンクワンピースはどうかと思ったんだけれど、落ち着いたピンクで、しかもレース使いもメリハリを利かせてあって子供っぽ過ぎない。ちょっと胸元が開いている気もするけど、これくらいは許容範囲かな。
昨日のセクシー寝着もあれはあれでデザイン的にはいいものだったし、案外センスはいいのかもしれない。ま、それより何よりさっさともとの世界に帰して欲しいってのが一番だけど。
着替えて元の部屋に戻ると、出て行ったときと同じ状態で魔王が座っていた。
暇なのだろうか。
さて、これからのお話を聞きますか。
思ったより話が先に進みません…。
次こそ魔王様がちゃんとしゃべります!