第5話 魔法とお風呂①
バームクーヘン片手に振り返った先に、イケメン魔王様。
浅黒い肌に黒髪、加えて長身の彼は、くやしいがやっぱりイケメンだ。
回れ右して逃げてしまいたいけれど、ここがどこかのかもわからない以上、ここから動けない。
それにまだ、バームクーヘン半分以上残ってるし!
「気配は消してたつもりだが、よく気が付いたな」
なんだが褒められているような気もするけれど、そうでもないのか?
「なんか声がしたから。
っていうか、いつからそこに居たわけ?
入るなら入るでノックぐらいしなさいよ!」
起きたときは確かにこの部屋には私一人だったはずだ。
「ほぉ。 精霊の声が聞こえるのか?」
「精霊? 何それ?」
そういえばさっきなんか声がした気がしたけど、精霊って…ホント物語でしか聞かない言葉だよね。
っていうか、質問まるきり無視かよ!
「それより、とりあえず風呂でも入ったらどうだ?
ひどい格好をしているぞ?」
「な…!!」
確かに、着ている二次会ドレスはシワシワになってるし、ベッドに寝かされてたから髪の毛も乱れているだろう。メイクも崩れているだろうさ!!
けど、いきなり人の部屋に入ってきておいて、それはなくない??
仮にも后にとか言ってた女に言うセリフだろうか?
「入るわよ!!」
けど、確かにお風呂は入りたい。
自分に素直な私。
「そうか。
では、あっちの扉だ」
ケンカ腰で答えたのに、彼の返事は至って普通。
なんか微妙に肩透かしを食らった気分。
別にケンカを売りたいわけではないんだけどさ。
「ではこちらへどうぞ」
魔王の合図で入ってきた女性(普通に人っぽく見える、しかも美人)に案内される。
「別に、お風呂くらい一人で入れるわよ?」
異世界トリップのお約束的に人に体を洗われるなんて絶対に落ち着かない。
対する魔王は相変わらずの意地の悪い笑顔。
「一人で入るのは勝手だが、使い方がわかるのか?」
「使い方って、何か違うの?」
「こちらの道具はたいてい魔力で動く。
お前の世界では魔力などなかったのではないか?」
魔力…って、何ですか??
ホント、知らない世界に来ちゃってるんだ…。
「…じゃあ、よろしくお願いします」
魔王に頭を下げるのはなんだか悔しくて、何も言わずに私たちのやり取りを見ていたメイドさん風の女性にお願いする。
「では、こちらへどうぞ」
ふわりと微笑まれてドキリとする。
全体的に黒い魔王とは対照的な白銀の髪と白い肌の女性はとても美人さんで、そんな風に微笑まれては同性の私でも惚れてしまいそうだ。
顔を赤らめる私を、またも面白そうに見ている魔王の視線を感じつつ、お風呂へ向かった。