第4話 天蓋ベッドと引き出物
次に目覚めたのはベッドの上だった。
もしかしてさっきまでのは全部夢?とか思ったけど、ふっかふかの寝心地に、夢じゃないなと思い直す。
私が4~5人寝ても支障なさそうなふかふかの広々ベッドは、現実世界ではそうそうお目にかかれない。しかもベッドの周囲を覆うレースを見るに、天蓋ベッドだと思われる。
なんていうか、異世界トリップのお約束的な?
ついさっきまで腹ペコ猛獣の群れの中バリのいつ死んでもおかしくないようなとこに居たのに、この差はなんなんだろう?
出来れば始めからここに現れたかった…。
あれからどれくらいたってるんだろう?
あの場で死んでもおかしくない状況だったと思うんだけど、こんないい場所に寝かせてもらってるということは、助かったということなのかな?
いや、もしかして太らせてから食べられるとか!?
何にせよ、とりあえずは生き延びたらしい。
あとは何とかもとの場所に還る方法を見つけないと。
辺りの気配を窺いながら、そっと天蓋のレースをめくった。
そこは、だだっ広い部屋。どうやら誰もいないらしい。
またあんな魔物だらけのところに放り出されても嫌だけど、一人ってのもなんか不安になる。
ここはどこで、私はどうなるんだろう?
あの自称魔王様は、私を召喚したとか言ってた。
ついでにあの魔物の数々。
やっぱり夢みたいな話だけど、異世界的なものに連れてこられたと考えるのが妥当かなぁ。
やっぱドッキリでしたって考えも捨てたくないけど。
未だふかふかベッドに座り込んだままいろいろ考えをめぐらしてみるも、誰かが来る気配もない。
とりあえず、外に出るか。
そういえば、メガネはどこに行ったんだろう?
気を失うまでは確かに掛けていたはずなのに。
メガネがないと見えないほどではないけれど、ないとどうも落ち着かない。
長年愛用してきた相棒だし、どこかに保管されているといいんだけど。
天蓋の外は、さっき見たとおり広い部屋。
必要最低限の家具しか置かれてない、なんだか寂しげな部屋だ。
それにしても……
お腹すいた……。
我ながら情けない話だけれど、どんな状況だってお腹は空くんだ。
結婚式の2次会でも、ゲームだなんだとあまり食べれなかったしさ。
何か食べ物と思っても何もないし、誰も居ない。
けれど、このままではお腹が空いて寝れそうもない。
あ、そういえば……
思い立ち、きょろきょろと見回せば、ベッドの側にひっそりとそれは置かれていた。
大きな紙袋のそれは、結婚式の引き出物。
重たい思いをして持ち歩いていたそれは、確か魔王の膝の上でも持ってたような気がする。
友人夫婦の愛がたっぷり詰まった引き出物。
がさがさと物色してみると……
「あった♪」
カタログや食器とともに入っていたのはバームクーヘン。
何かお菓子系が入ってると思ったんだよねぇ。
一人暮らしの身には大きすぎると思えるバームクーヘンも、今日ばかりはむしろ頼もしく見える。
ここでの私の待遇がわからない以上、食料でも何でも確保しておくに越したことはない。
そもそも、あんな魔物たちの食事が食べれるとも思えないし。
ま、とりあえずは今の空腹感を満たすのが優先。
我ながら、よくこの状況でこんなもの食べれるな、とは思うけど。
とりあえずは何か食べないと、お腹空いて何にも考えられないし。
腹は減っては戦は出来ぬってね。
私は今を生きるのです!
「あ、おいしい♪」
有名な菓子店のものらしいバームクーヘンは、甘さ・しっとり感共に絶妙でとてもおいしかった。
もし無事に元の世界に還れたらぜひとも買いに行こう、と心に誓うほどに。
そんなことを思いながらもとりあえず食う!
疲れきった心と体に、甘い食べ物が染み渡る幸せ。
どこに居たってそんな幸せを感じれる私ってステキ。
と、声が、した。
何とは聞き取れなかったけれど、どこか楽しそうな声。
「誰かいるの?」
と振り返ればそこには、さも面白そうに私を見る魔王様の姿がありました。
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主人公、なかなか強いハート持ってます(笑)
まだ主人公の名前も出せてないですが、のんびり話は続きます。