第35話 クッションとシュガーポット
そして魔王様と二人きりになったのでした……。
いやいや、でした。じゃないし!!
いろいろあったけれども、ピンチはピンチのままですよ!!
誰ですか!? 魔力が使えないなら精霊の力を借りろって言った人は?
ぜんぜん役に立たないじゃないですか!!
あ、魔王様でしたね。俺様魔王様。むっつり鬼畜な魔王様。
さすがは鬼畜、嘘つきましたね!?
なんて怒りを覚えつつも、未だ壁に張り付いて動けない私。
コクヨウも、未ださっきのベッドの上。精霊さんがいた辺りを見つめてる。
このまま私の存在を忘れて出てってくれないかと切に願います。
…目が合いました。
忘れてはくれなさそうです…。
再び、喰うものと喰われるものな雰囲気。やばいですよ。
逃げようにも、まだ足がプルプルしてるし。間近での魔王様の魔力、ってかフェロモン?おそろしや…。
ってか、この部屋から出れない私は結局のところ、逃げ場なんてないんだけども。
精霊も役に立たない今、ピンチは自分で切り抜けるしかないのだ!
と意気込んでみても、何の妙案も思い浮かばない。
頑張れ私! 鬼畜魔王なんかに負けるんじゃない!
「ホントにお前は、思考が駄々漏れだな。俺様を崇め奉れと言ってるだろう」
「うるさいな。今考え事してるんだから邪魔しないで!」
思案を続ける私に、コクヨウから声を掛けられた。
まだこの先の行動が決まってないんだから黙ってていただきたい。
「どんな考え事だか知らないが、俺様はもう行くぞ」
「だから…… へ? 行く?」
またも思考の邪魔をされた、と思ったら、予想外のセリフ。
どういうこと?
「あいつらのせいで興が削がれた。
俺様は仕事に戻る。…ま、ホタルが続きをお望みならば、期待には応えるが?」
「誰が望むか! さっさと行っちまえ!!」
後半のセリフ(思い出すのも腹立たしい)をいいながら、ニヤリと笑ったコクヨウに鳥肌が立った。
その無駄な色気はなんだ!セクハラだぞ!!
腹立ち紛れに、手近にあったクッションを投げてみたものの、あっさり受け止められた。
くそう、もっと固い物を投げればよかった!
「お前がそういうなら、まあ今回はもう行くさ。
…時間はたっぷりあるからな」
「もう二度と来るな!」
「夕刻には戻る。それまでイイコにしてろよ」
「誰がいい子だ! いいからさっさと出てけ!」
ようやく見つけた固い物、シュガーポットを投げる前に、コクヨウは出て行ってしまった。
割れたら片づけが大変とか思って躊躇してしまった私ってば、お人よし…。
一人になった部屋で、壁にもたれてズルズルと座り込む。
暇をもてあまして、アウインに城内を案内してもらって、誰かに襲われて、アウインにキスされて、コクヨウにもキスされて、その続きもされそうになって、精霊さんが来て、コクヨウが鬼畜魔王で……
なんか、私、流されてばかり。もっと、しっかりしないと。
けど、なんか、疲れた。
疲れたときは、糖分補給。
手に持っていたシュガーポットから、角砂糖を取り出して、かじる。
「甘い……」
このままではいけない。
このまま、コクヨウのいいように流されてなるものか。
甘すぎる砂糖をかじりながら、決意を新たにした。
とりあえずは、精霊さんたちとの話し合い、かな。
騒がしくなった扉の外を見つめて、ため息をついた。
短くてスイマセン。
関係ないけど、紅茶に入れた角砂糖が溶けるのを見るの好きです。