第31話 正当防衛ってことで
ホント、役立たずな精霊、ソラ。
なんて、ぜんぜん思ってない…といったら嘘になるけど、今回もあっさり追い出された可哀相なソラを恋しく思う。だって、また魔王様と2人きりだし。
確かにこの部屋の外は恐かった。
けど同じだけ、このヒトと2人きりでいるこの部屋も危険だと思うのです。
「また失礼なことを考えているだろう?」
どうやら思ってることが顔に出てたみたいです。
けど仕方ないと思う。だって、コクヨウってば眼鏡越しでもわかるくらい黒い魔力垂れ流しだし。
部屋に充満してる魔王の魔力が濃くなっていくのをなんとなく感じる。
外の、いろんな色の魔力で混沌とした空気を知ってしまったから、この純粋な黒い魔力が心地いい…。
なんて思う反面、その黒い空気を吸ってるかと思うと、中から魔王色に染められるみたいで気持ち悪い。
「だから、お前は思ってることが駄々漏れなんだ。少しは俺様を崇めろ」
「いや、それは無理」
なんでこんな変態魔王を崇めなくてはならないのか。無理無理。
そんな考えも顔に出ていたんだろう、私を見て、魔王がこれ見よがしなため息をつく。
ってか、ため息つきたいのはこっちだし。こんな世界に連れてこられて、この部屋から身動きの取れない私。なんてかわいそう。
なんて、自分を哀れんでいたら魔王がすぐ側に来ていた。
「な、なによ」
気がつけば顔を上げれば息がかかりそうな距離まで近づいていて、思わず後ずさる。
アウインとは違う種類のイケメン。フェロモン垂れ流しのその姿に、その気は全くないのにドキドキしてしまう自分が悔しい。だって、イケメンにそんな耐性ないんだもん、仕方ないじゃない!
アウインといえば、さっきキスされたんだった!!
ああ、なんでこんな状況で思い出しちゃうんだろう…。さっきのキスを思い出してきっと赤くなっているだろう顔を見られたくなくて、思い切り後ずさる。
けど、逃げた距離もあっさりと詰められて、目の前にはまた、魔王様がいた。
「な、なによ!!」
精一杯の虚勢にも、コクヨウの返事はない。
無言で距離を詰められるってかなり恐いんですけど!!
恐いとか思いつつも、今、私、顔が真っ赤なのではないだろうか?? イケメンの力っておそろしい!! けどけど、それって、なんかものすごく、屈辱だ。
変態魔王相手に何を意識しちゃってるんだか。自分のことなのに自分でコントロールできないなんて悔しい。
距離を詰められたまま、静かに、メガネが外される。
私を見つめる二つの金色の瞳。その目を見て、昨夜の事がフラッシュバックした。
あの、蜜月の下での…キスが…。
―――このままでは、やばい!!
そう思って、掛けられた手を払いたいのに、もっと距離をとりたいのに。コクヨウに触れられた部分が熱くて、見つめられる眼差しが強くて、視線を逸らすことも出来ない。
コクヨウは無言のまま。
コクヨウの顔が、というか、唇が私に近づく。
それが触れる直前、理性を総動員してコクヨウの体を突き飛ばした。
「離れて!!」
突き飛ばされたコクヨウは、一瞬唖然とした表情を見せた。でも次の瞬間には、楽しそうな瞳に変わる。
―――獲物を狙う、獣の目だ。
そう思った次の瞬間にはもう、唇を塞がれていた。
一瞬の出来事で、今度は突き飛ばせなかった。
塞がれ続ける唇を離そうと必死の抵抗を試みるものの、力の差がありすぎて全く歯が立たない。
逆に深くなる口付けに、意識が持っていかれる。
…キス、上手いし……。
そんなことを頭の端で考えつつも、抵抗を続けた。
ってか、しつこいし!!
そしてねじ込まれるように入ってきた舌を感じた瞬間、私の中で何かが切れた。
「離れろ!! 鬼畜魔王が!!」
そんな罵声を浴びせつつ(まぁ唇は塞がってたから心の中で言ったわけだけども)、舌を思い切り噛んでやった。
口の中に鉄の味が広がる。
魔王も血は鉄臭いんだね、なんて現実逃避気味に考えてみたり。
目の前の現実…それは、口の端と頬から(どうやら抵抗するうちに爪で引っかいたらしい)血を流した魔王様。そしてその体から発せられるどす黒い魔力。
正当防衛…で通じるかしら??
魔王様暴走気味。