第3話 魔族の王様②
私が叩いたイケメンの頬に、一筋の赤。
平手で叩いたんだけど、どうやら運悪く爪があたってしまったらしい。
やっぱり慣れない事はしないに限りますネ。
そんな魔王様の後ろに、何やら黒いモノが見える。
いや、マジで。
顔は笑ってるのに目が笑ってない。
私、マジで殺されるかも……。
「この俺様に傷を付けるとはな…」
傷に触れながらの魔王様のセリフは、なんとも言えない凄みがある。
ホント、視線だけで殺せそう……。
なんて、人事のように考えてみるけど、その魔王様の視線の先に居るのは誰あろう私自身で。
恐怖ってこういうことを言うんですネ。
締め日前の部長の剣幕とか、彼氏に振られたばかりの妹の負のオーラなんて非じゃないっす。
さて、この殺気から逃れるには、どうしたらいいんでしょうか??
どれだけそうしていただろう?
たぶん一瞬のことだったんだろうけど。
魔王様の視線で金縛りのように動けない私の耳に、背後から声がした。
「我が魔王様に対して何たる無礼…」
「魔王様に傷をつけるなど!!」
「あんな娘、殺してしまえ!!」
一人のつぶやきに、大勢の言葉が連なった。
いきなりの背後からの言葉攻めにビビッてしまう。
怒号のような罵声の嵐に金縛りも解け、そっと背後を窺った。
そこに居たのは……
たくさんのイキモノ。
今まで見たことのないようなでっかい熊みたいなのとか、蛇みたいなのとか、毛むくじゃらなのとか……
たぶん、魔物、と呼ばれるモノたち。
どうやら玉座の周りに大勢の魔物たちが集まっているところだったらしい。
前には(というか膝の上に乗っちゃってるけど)魔王様、後ろは魔物の集団。
私、完全にヤバイ状況なのかも。
けど、なんかもう、限界……
そう思いながら意識を手放した。