第28話 魔王城散策
白馬の王子様、もとい、魔王の側近アウインに連れられて、城の中を歩く。
中世のヨーロッパ的なお城の中は、掃除も行き届いていてキレイ。窓からはサンサンと日も差し込んで、明るく城内を照らしている。ここが魔族の城だなんて言われないとわからない。行ったことはないけれど、ベルサイユ宮殿だとか、ノイシュバンシュタイン城だとか、そんな貴族のお城な感じ。
壁にかかる絵画だとか、キラキラ光るシャンデリア、床は大理石ですか? 調度も豪華でキレイ!
ウキウキしながら一人できょろきょろしていたら、隣から忍び笑いが聞こえた。
見れば、アウインが笑っている。 …笑顔もステキ。
「ホントに、かわいらしい方でございますね」
その言葉に馬鹿にしてる感じは含まれてなくて、だからこそ余計に恥ずかしくなる。
私ってば、28にもなってなんて子供っぽい行動を…。
頬を赤らめる私をどう思ったのか、アウインは私に手を差し出した。
条件反射のようにその手を取る。…取ってから思った。この展開、ちょっと前にもあった!!
数十分前と同じように、優雅に私の手の甲に唇を付けるアウイン。とたん、さっきまでの比じゃないくらい、私の顔が赤くなったのがわかった。マジで、止めて欲しい…。
慣れない展開にあわあわしっぱなしの私を余所に、アウインは余裕の微笑み。…その微笑すらかっこいいと思って見惚れてしまう私って…。
口付けを終えても、アウインは私の手を離そうとはしない。
「あの…えっと…」
もじもじと握られた手とアウインを見つめる私は、冷静な部分の自分から見ればひどく滑稽だ。何もじもじしてるんだよ!!と自分に突っ込みたくなる。私ってこんなにミーハーだったんだろうか?
「このたびは魔王陛下直々に后様のエスコートを任されております。どこへなりと、后様のご希望の場所にご案内させていただきますよ」
そう言いながら、私の手を引いて歩いていこうとする。
「あ、いや、手を繋いでもらわなくても大丈夫ですよ?」
度重なる展開に、頭は許容量いっぱいだ。ついていけない。
アウインの背は私より頭ひとつ分高くて、見上げないとその表情を窺うことは出来ない。手を引かれながらその顔を見上げても、一歩先をいくアウインの表情はわからなかった。
先ほどのセリフも聞こえているだろうに、繋いだ手が緩まる気配はない。
まぁ、手を繋ぐくらいどうって事はないんだろうケド、この数年そんな色恋沙汰からは遠ざかっていた私には重い。それに、何より相手が王子様だ。アウインの手は大きな男の人の手で、私より少し冷たい。なのに、私の手は汗ばんできそうだ。ホント真剣に、離して欲しい。
そんな私の乙女心をよそに、アウインの歩調も緩まらない。さっきは私の好きなところにつれてってくれるとか言ってたのに、私の意見を聞く気はなさそうだ。
ま、こっちに来たばっかでどこに行きたいもないんだけど。
それから手を繋がれたまま、2人で歩いた。ここは図書室、こっちは食堂と、案内をしてもらいながら。その間も、段差があるたびに気を使ってくれるアウイン。なんかものすごい、深窓の令嬢にでもなった気分。
あっという間にも感じた城内ツアーの先は、中庭のようだった。
「ぜひここに、貴方をお連れしたかったのです。ここは魔王城で一番美しい場所ですから」
中庭と呼ぶには広すぎるその空間。でも、ぐるりと四角く回廊に囲まれたそこは、やはり中庭だろう。真ん中には大きな噴水、そしてその周りに一面に咲き乱れる花々。緑の木々も瑞々しい。
そこは、夢のように美しい空間だった。
中庭の入り口に立って、中庭の景色に見とれていた。繋いだままのアイウンの手も気にならないくらいに。
ふと見れば、噴水の上に何かいる。よくよく見れば、それは噴水の上に浮かぶ半透明のヒト。
噴水の上と、その隣の花畑の上にも一人。2人の精霊さんが浮かんでいる。
美しい景色の中で戯れる美しい妖精。それはそれは素晴らしい光景で、しばらく魅入ってしまった。
そうして見つめていたら、どうやら向こうがこちらに気づいたようだ。にこやかに笑って、手を振ってくれる。嬉しくなって、駆けていこうとした。…アウインの存在を完全に忘れて。
手が、離れそうになった、その時、何かが、起きた。
慌てたような顔の精霊さん。
回る視界。
回廊の中のガラス窓に、ソラの悔しそうな顔が見えた。…そういえばしばらく姿を見なかった。また、締め出されたの?
ソラへの心配もそこそこに、視界が動く。
体に感じた衝撃、そして、頬に感じるぬくもり。
顔を上げればすぐそこに、アウインの整った顔があった。
『…ホタル…!!』
遠く、精霊さんの声が聞こえた。
なんか中途半端なところで終わってしまってスイマセン。
次回投稿急ぎます!