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白馬の魔王様  作者: あむ
23/35

第23話 蜜月の魔力

 光るメガネに、しばし目を奪われる。

 確かに見えていたはずの魔力が見えなくなったり、精霊が見えるようになったり、変わったメガネだとは思ってたけれど、魔力が宿っていたとは。そういえばコーラルがそんなことを言ってたような気もする。


 淡い金色の光に包まれたこれは、優しい人がくれた、大事なメガネ。

 中学の頃から掛けている戦友だ。

 魔力があるとわかっても、不思議と納得している自分がいる。

 むしろ、だから今までこうして私と共に過ごしていたんだと思える。

 私の、味方。頼れる相棒。

 これからも、よろしくね。




「お前でも月の光の元で見るとそれなりに見えるな」


 大事なメガネを握り締めて挨拶を交わしていたら、後ろから失礼な言葉が聞こえてきた。

 振り返るまでもない。コクヨウだ。


「それなりで悪かったわね。そう思うならさっさと元の世界に還しなさいよ」

「お前がそれなりでも、俺様の子供なら美形に違いないぞ?」

「だからあんたの子供なんて産む気ないって言ってるでしょう?」

「その気になれば最上の快楽を教えてやれるのに…」

「け、結構です!!!」

「強情だなぁ」


 一気にさっきまでの湿っぽさが吹き飛んだ。

 この人相手だとどうも調子が狂う。


「寝れないなら俺様が腕枕でもしてやるぞ?」

「そっちのほうが寝れないっての!!」


 何なんだこいつは。

 なんでこんな夜中にこんな元気なんだ。…って、一緒になってやり合ってる私も同じか。


蜜月みつづきか…」


 いつの間にか隣にいたコクヨウが月を見てつぶやく。


「蜜月って、満月のこと?」

「二つの月が共に満月になることだ」

「珍しいの?」

「年に1度か2度、多いときは毎晩のように蜜月になる晩もあれば、何年もならないこともある」

「何それ? 月って周期的に満ちたり欠けたりするものじゃないの?」

「お前の世界ではそうなのだろうが、ここでは違う。月の魔力次第、月の気分次第だ」

「変なの」

「ここは、そういう世界だ。お前は――ホタルはそんなにここが嫌か?」

「……っ」


 急にまじめな声で名前を呼んでそう言われて、なぜだか言葉に詰まった。

 それは、さっきまでキレイな夜空に感動してたからかもしれないし、コクヨウが思いがけないほど優しい手つきで頬に残っていた涙をぬぐってくれたからかもしれない。


「私は――」

「俺は、ホタルに還って欲しくはない」


 私の言葉をさえぎっての、何度目かになる告白。

 けどそれは、今までとは違った風に聞こえて、思わずコクヨウを見上げた。

 コクヨウはすぐ側にいて、キレイな金色の、蜜月の瞳で私を見下ろしていた。


 コクヨウの瞳は、キレイで、ものすごくキレイで、釘付けになった。

 じっとじっと見つめていたら、どんどん瞳は近づいてきて……。



 唇に感じる、コクヨウの体温。

 

 ああ、魔王も唇は柔らかいんだなぁ…。


 ………。


 いやいやいや!!!

 しっかりしろ!! 私!!


 しっかり密着してしまっていたコクヨウを思い切り突き飛ばして、深呼吸。

 吸って、吐いて。吸って、吐いて。


 落ち着け、落ち着け。


 なんて事をしてるんだ、私は。

 私をこんなところに連れてきた元凶、天敵、害虫な俺様魔王に対してなんてことを。



 少し落ち着いてコクヨウを見れば、頬を押さえて呆然としていた。

 あ、突き飛ばしたつもりがグーパンチが入ってたっぽい。赤く腫れて痛そうだ。

 まあでも正当防衛だし。私は悪くない!


「フフフフッ…」


 自己完結してたら、コクヨウが急に笑い出した。

 恐い。どこか変なとこぶつけたか?


「だ、大丈夫??」

「やっぱりお前は面白いな」


 これ以上俺様っぷりが悪化したら大変だと心配してあげたのに、また何やら馬鹿にされました。


「な、なにさ!!」

「いいからもうさっさと寝ろ」


 文句を言い返してやろうとしたら、はいはいって感じで頭を叩かれた。

 なにその扱い!!

 けどまぁ、さっきまでの変な空気はなくなってほっとする。


「蜜月は人を酔わせる」

「へ?」

「蜜月の光は魔力を帯びている。浴びすぎは危険だぞ?」

「な…」


 じゃあさっきのあれは、月の光のせいってこと??

 なんて事だ。恐るべき世界…。


「じゃ、じゃあさっきのは無効だからね!!

 私は忘れるからコクヨウもさっさと忘れること!!」


 言うだけ言って一人でベッドに戻る。

 これ以上光を浴びてなるものか!!

 後ろから『フッ』てコクヨウの忍び笑いが聞こえたけど、そんなのは気にしない。

 酔っ払いのすることはそのまま水に流すに限るのさ!!





 しばらくして、ベッドの反対側にコクヨウが入る気配がした。


「ホタルを還したくない気持ちは、本当だ」


 そう囁いて、ベッドの端に移動する。

 きっとまだ、蜜月に酔っているんだ。でないと、あのコクヨウがこんなに甘く囁くはずがない。

 でないとこんなに、私の心がざわつくはずがない。


 忘れよう。


 さっきコクヨウに言った言葉をかみ締めて。

 でも、さっきまで感じていたコクヨウのぬくもりと、唇の感触が消えなくて。

 夜は、さらに更ける。



2人の仲にちょっと進展!?

今後の展開と魔王様の発言を考えて、R15指定にしました。

実際そういう描写をするかどうかは未定ですが、念のため。


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