第20話 自由と命
「仲良くなったものだな」
その声に振り返れば、そこにいたのはもちろん、魔王様。
いつものごとく、気配なく部屋に入っていらっしゃった。
「ノックくらいしたらどう? ここにはそんなマナーはないわけ?」
「自分の部屋にノックして入るマナーはないな」
「ここには私もいるってわかってるでしょ!!」
「俺様に敬意を払わないような女に配慮は必要ないな」
「あんたに払う敬意は持ってません!!」
とげを含んだ言葉にも、どうしょうもない言葉しか返ってこなくて、ついつい白熱してしまった。
いけないいけない、落ち着かなければ。
気づけば私とコクヨウの間にソラが立って、護ってくれようとしてくれてるし。
こんな可愛い子に守られるなんて、大人として間違ってるわ!!
「何か用?」
「何度も言ってるが、ここは俺様の部屋だ」
落ち着いて問うてみても、思ったとおりの返事しか返ってこない。
そういえば、部屋の用意してもらうの忘れてたよ…。まぁあのコーラルに頼んでも用意なんてしてくれなさそうだけど…。
「ここで寝るの?」
「まぁ、ここが俺の部屋だからな」
「部屋は余ってるんでしょ? 他で寝たらどう?」
「なぜ自分の部屋があるのに他で寝なければいけない?」
「じゃあ、私を他の部屋に移してよ!!」
あぁ、つい語気が強くなってしまう。
心配そうに見つめてくるソラが気になって仕方ない。頼りない主人でごめんねぇ…。
「じゃあ聞くが、他の魔族に食べられるのと、俺様の隣で寝るの、どっちがいい?」
「は?」
突然の2択に言葉が出ない。
っていうか、どっちにしても、いろんな意味で食べられそうなんですけど?
「…私の立場って、今どうなってるわけ?」
「俺様と仮の婚姻は済ませたから、一応俺様に次ぐ上位の扱いになるな」
「だったらどうして、他の魔物に食べられるとかって話になるわけ?」
「一応俺様も止めてはいるのだが、あれだけ公の場で俺様を傷つけたからな。一部の魔物からお前は殲滅対象にされている」
「せん…めつ……」
今ほど自分の手の早さを後悔したことはなかった。
あと、自分の不幸っぷりを呪ったことも。
「そういうわけで、ホタルを護るためにはこの部屋で俺様といるのが一番だ」
ちょっと動揺してるところに名前呼んでそんなセリフ止めて欲しい…。こんな奴相手にちょっとキュンとしちゃったじゃないか!!
『ホタル、だまされちゃダメだよ!!
もともと魔王が悪いんだから、魔王がホタルを護るのが当たり前。それに、魔王の魔力なら他の部屋でだってホタルのこと護れるはずだよ?』
ソラの言葉にハッとした。そうだよ、仮にもこいつは魔王だよ? ここで一番えらいんだよ?
魔力もものすごい強いって言ってたわけだから、私みたいな人間一人護ることくらいわけないはずだ。
そう思いながらにらんでやると、奴は悪びれることなくにやりと笑った。
いつも思うけど、この笑い、見下されてるみたいでムカつく。
「うまく精霊を味方につけたみたいだな。
けど、ここでは俺様がルールだ。ホタルの部屋は用意しないし、一人でこの部屋を出ることも認めない」
「なにそれ!! 私に自由はないわけ?」
「なんと言われようと、この部屋を出ての安全は保障しない。
自由をとるか、命をとるか、好きにしたらいいさ」
「な…」
なんたる理不尽さ。無理やり連れてこられたあげく、命まで関わってくるなんて…。
「絶対に還ってやるんだから…」
決意を新たにしたけれど、還ってきたコクヨウの言葉に現実に引き戻される。
「じゃあそのための手伝いをしようか? 一晩中でも仕込んでやるぜ?」
「いるかバカヤロウ!!」
ホント、早く還りたい……。
ホタルと魔王のやりとりは書いてて楽しいです。
ソラの存在は結構忘れられがち…。