第17話 精霊の力
「これからよろしくね、ソラ」
名前を呼んで、挨拶をした途端、ソラの周りに小さな風が起こった。同時に、キレイな光がソラを包む。
やっと、光と風が収まったとき、その場にいたはずのソラがソラでなくなっていた。
『これからよろしくお願いいたします、ご主人様。私でお力になれることがございましたら、何なりとお申し付けください』
にこやかにほほ笑む美女は、ソラに違いないと思う。けど、10歳くらいの美少女に見えていた姿が年頃の美女に変わり、まとっていた透明な光も強くなった。
これが、ソラの100%の力ということだろうか?
けど、さっきまでのあの無邪気と思えるしゃべり方や笑顔、好きだったのになぁ…。こんな堅苦しいのは好みじゃない。
「ねぇ、ソラ」
『はい。何でございましょうか、ご主人様』
どう頼んだものか、思案する。そもそもなんだよ、ご主人様って。私は妃様でもご主人様でもないし。やっと自分の名前で呼んでくれるヒトが現れて嬉しかったのに。呼びかけで、拒絶されているようで悲しい。
「その、ご主人様って呼ぶの、なんとかならない? さっきまでみたいに、ホタルって呼び捨てで構わないんだけど。あと、しゃべり方も、さっきみたいに砕けたしゃべり方のほうがいいな」
『しかし、ご主人様は私に名を与えてくださったご主人様でございますから…』
「そのご主人様がお願いしてるの。聞き入れてくれない?」
『でも…』
「いいから!! これは命令です!!」
だんだんじれてきて、最後はちょっと怒鳴る感じになってしまった。
だって、名付けたとたんにそんな態度ってひどいし。せっかく味方ができたと思ったのに、傍にいてくれるっていってたソラこんなんじゃ、ぜんぜん心休まらないし。
『わかりました。じゃ、ホタル、これからもよろしくね』
仕方ないなって感じで苦笑した後、二コリ、と笑ったソラの笑顔は美女に変わっても無邪気なもの。これこそソラって感じで嬉しい。
「うん、よろしくね」
「ところで、ソラのほかに精霊っているの?」
呼称の件も落ち着いて、気になることを聞いてみた。今のところ、声を聞いたのも姿を見たのもソラだけだけど、他にもいるのだろうか?いるなら会ってみたい。
『いるとは思います。自然の世界に、精霊は満ちてるから。私は大気の精霊。他にも、火の精霊、水の精霊、土の精霊、緑の精霊…。けど、実は私、まだ生まれたばかりで、この城から出たことなくて、他の精霊に会ったことないの。ごめんね』
聞くと、精霊はある日突然、生まれるものらしい。精霊としての知識や自我を持って。
生まれてからは、主人を探したり、自由にフラフラ遊んでたりはその精霊によって違うらしいけど、ソラの場合、生まれてすぐに私の召喚を知って、そのあとはずっと私の傍にいてくれたらしい。その間他の精霊には会わなかったと。
結構簡単に会えるものかと思ったけど、やっぱり難しいのかなぁ…。
「あ、そうそう、精霊の力で、人を遠くに移動させることって可能?」
他にもいろんなことを尋ねていたら、一番聞きたかったことを思い出した。コクヨウの言葉を鵜呑みしてたけど、ホントに精霊の力で元の世界に還れるのだろうか? これで無理って言われたら、また違う方法考えないといけないし。
『それは、ホタルを元の世界に還せるかどうかっていうこと?』
「え? あ、そうか、ソラはずっとここにいたんだよね。
魔王の言ってた通り、精霊の力を借りたら元の世界に還れるかどうか知りたくて」
『…ホタルは……やっぱり…還り、たいんですね…』
みるみる元気をなくしていくソラ。ここで私とコクヨウの話を一緒に聞いてたなら、私が帰る条件とかも聞いてたと思う。それで、私が還りたがってることも知ってると思ったんだけど・・・。
「還りたい。私の還る場所は、やっぱりあっちの世界だから」
『そうですか…』
とても、悲しそうなソラ。ずっと側にいたいと言ってくれたあの言葉はホントだったんだな。
そうまで想ってくれて嬉しいけど、苦しい。そんなソラの気持ちより、私は還ることを思ってしまうから。気持ちを知った上でも、ソラの、精霊の力を貸して欲しいと思うから。
「ごめんね…」
何をどう謝っていいかわからなくて、それだけ一言。
沈黙が部屋を支配する。それを壊したのはソラだった。
『私は、ホタルに還って欲しくない。ずっとずっと、ここに居て欲しい。
そのためならどんな事だって手助けするけど、還るために力は貸せない』
早口でそう言い切ったソラの目は、とても、傷付いていた。