第13話 人間の魔力
情報をを整理しよう。
ここは魔族の国。私はここの魔族の王様の后候補として召喚された。
魔王の后になるにはある程度魔力が強くないといけないらしい。つまり、私はけっこうな魔力を持っている…らしい。
私のように異界からヒトを召喚するにはいろいろと準備が必要で、更に大量の魔力が要るので、あと20年は新しいヒトを呼ぶことは出来ないらしい。そんなの知るかって感じだけど、魔王は独身で后に見合うだけの魔力を持つヒトが居なくて案外焦ってるみたい。
だから、還すことは簡単だけど、そう簡単には還してはもらえない。
私を還すために魔王が出した条件は、『魔王の子供を産む』または『魔王を私に惚れさせる』こと。
なんていうか、なんていうか…私、不利じゃない??
私は現在28歳。一応今まで彼氏と呼べる男性がいたことはある。けど、それも片手で数えられるほど。容姿も中身も、全くモテる要素はないと思う。…自分で言いきっちゃうのも悲しいけどさ。
そんな私に、惚れさせる??
ムリだね。
じゃあ、彼の子供を産む?
それもムリ。好きでもない相手となんて、絶対にヤダ。
還るためとかそんなので割り切れない。
しかも、産んだ子供を魔族の国に残してなんて、私一人で還れるわけない。
なら、どうする?
「ねぇ、私ってそれなりに魔力っての?いっぱい持ってるんだよね?
それで自力で還ることってできないの?」
還してもらえないなら自分の力で何とかするしかない。
魔力とか自分ではさっぱりわかんないんだけど、あるものなんだろうか??
私を簡単には還さないと言っている本人に聞いたところで答えてくれるとは思ってなかったけど、今のところ彼に聞くしか仕方がない。
けど、案外簡単に答えをくれた。至極あっさりと。
「まあ、無理だろうな」
一言で、わずかな希望の光が消える。
「なんで!?」
「確かに、お前には魔力がある。だが、人間であるお前には魔力を使う機能が備わっていない。
体内の魔力のおかげで治癒能力が高まるだとか、周りの空間の魔力を感じることくらいはできるかもしれないが、その魔力を使って攻撃だとか召喚だとか、他に影響を及ぼすことはできない」
「なにそれ!! 人間ってだけで無理なの?? 全く??」
「人間とはそういうものだ。もともと魔力を持っている人間が少ないのだから仕方がない。
俺たち魔族のように、魔力を外に出す機能が元々ないんだ。」
「そんなぁ…」
そんな不公平な話ってない。
せっかく魔力なんてのを持ってるらしいのに、それを使うことができないなんて!!
不公平だ。人種差別だ。
治癒能力が高まるとか…そういえば、私怪我しても治るの早いなぁとか思ってたけどさ。ただの健康優良児だと思ってたのに…。周りの空間の魔力を感じるとかは意味わかんないし。現代日本で魔力とか言われても…。あ、でも……
「そういえば、私のメガネってどこにあるの?」
ふと、この世界に来てからなくなった私の相棒を思い出した。
引き出物は大事に置かれてたのに、メガネはなかった。どこかにしまってもらってるといいんだけど。見ることにそこまで不自由するわけではないけど、長年愛用してきたあのメガネは特別品なんだ。
「ああ、あれで体に傷でもつけられたら困るのでコーラルに預けてある。
必要か?」
「今すぐでなくていいから返して。ちょっと試したいこともあるし」
「そうか」
試したいことの内容も聞かずに了承された。なんていうか、聞かれても上手く答えられないからいいんだけど、彼の私に対する興味ってそんなもんなんだろうかとか思ってしまう。まぁ、そんなもんなんだろうけど。
惚れさせる、なんて、やっぱ絶望的に無理っぽい。
「ねぇ、他に何か方法はないの? 私が還れる方法」
出された2つの条件は、どう考えても無理。自力でも還れないなら、もうどうしようもないんだろうか?
「自信がないのか?」
「ないわ」
惚れさせる自信なんてあるわけない。
はっきり言い切った私を、魔王は一瞬驚いて見て、次の瞬間、楽しそうに笑った。
…そんな風に笑われると、惚れさせる前に私が惚れてしまいそうな錯覚に陥る。
いやいや、こいつは女を子供を産む道具としか思ってないような鬼畜なのよ。むっつり魔王なんだよ。騙されてはダメだめ。むっつり鬼畜魔王、むっつり鬼畜魔王…
「はぁ…」
ぶつぶつ自分に暗示かけてたら魔王にため息をつかれた。
失礼な。
「そうだな、ここは魔族の国だが、精霊も存在している。
それら精霊の力を借りられるようになれば、俺様の魔力なしでも元の世界に還れるんじゃないか?」
「……精霊?」
たぶん魔王からの譲歩なんだろうけど、精霊って、何???
次回、精霊の説明入ります(たぶん…)
メガネの話はまたその後で。