第12話 条件その2
正直、耳を疑った。
「俺様の子供を産めば、元の世界に還してやる」
マジで、俺様発言もいいところだ。
なんで好きでもないやつの子供を産まなければならないんだ!! そのための行為すら絶対にお断りだし!! だいたい、女性を子供を産む道具としか見てないような発言に腹が立つ。
「私は好きなヒトとの子供しか産む気ないし、それくらい好きなヒトとならずっと同じ世界にいたいと思うし。 っていうか、なんであんたの子を産まなきゃいけないのさ!!」
そりゃ、王様なんだし、跡取りが必要なんだろうけど?
けどさ、王様なんだから、ゼヒ私が!!って姫様がいっぱい居るでしょうに。なんで私がその相手にならなきゃいけないのさ。
王様は王様らしくハーレムでウハウハしてたらいいじゃん!!
「そう言うと思ったよ。
ま、それもひとつの条件だ。俺様は魔族の王。俺の后の座を望むものは多いが、俺の魔力が強すぎるために該当するものが居ないのが現状だった。それで異世界召喚という手段に出たわけだ。
俺としてはお前が気に入っているから、ずっと側にいればその方がいいが、最悪、後継者となる子供がいればお前は還してやってもいい。お前との子なら強い子が生まれるだろうからな」
気に入ってるとか言いながら、なんでそんなモノみたいに扱われなきゃならんのだ!
いい加減イライラしてきた。まぁさっきから腹が立ってるけど。
「ここでは魔力の弱いものは強いものに完全服従だ。お前のように敵意むき出してくるやつは今までいなかった。お前の相手は面白いよ。だからこそ、お前との子を欲しいと思う」
聞きようによってはプロポーズとも取れるセリフ。けど、彼の声音にも表情にもそんな甘さは一切ない。あるのは、どこかこちらを見下したような笑みだけ。
「そんな言葉でごまかされないからね!! 私はあんた相手で全く面白くないし! もっとあんたに従順なヒトを召喚でもなんでもしたらいいじゃん!」
魔力云々はさっぱりわからないけど、私を召喚したように、もっと喜んで魔王との子供が欲しいって思うヒトを呼んだら良いんだ。 顔はいいんだし、王様なんだし、望むヒトもいるだろうさ。
私はムリだ。顔は好みだけど、こんな風にヒトをモノ扱いする奴は願い下げ。
「そうはいかない。 お前の召喚にも、けっこうな準備と魔力が必要だったんだ。
次に召喚の儀をするためにはあと20年はかかる」
「なにそれ! そんなの私の知ったことじゃないし。
……っていうか、私を還すのもそれくらいかかるんじゃないの?」
召喚の準備に20年かかるのならば、私を還すのにだって同じくらいかかるだろう。
20年とか冗談じゃない。還れる頃にはおばちゃんじゃん。
「還すのはそこまで難しくない。対象物も送還場所もわかっているからな」
「じゃあ還してよ。今すぐ!」
「それは出来ないと言っているだろう。そのための条件交渉だ」
「だからあんたの子供なんて産みたくないって言ってるでしょう!!」
淡々と話す魔王にイライラが募る一方だ。交渉も平行線だし。
なんだよ勝手に人をこんなとこ連れてきて条件だの子供だの。冗談じゃない。
「このままお前を還してしまっては、俺様になんの利益もない。
だから、お前を還す代わりに子を残せと言っている。
……が、それも嫌だと言うのであれば、それを覆すくらいのものを…」
言いながら、何やら思案してにやりと笑う魔王。
利益とか知らないし、むしろ私には始めから損失しかないんだけど。
ともかく、魔王の笑みが、それに続く言葉が恐い。
「そうだな……俺を、完全にお前に惚れさせてみろ」
「…はぁ??」
なんて言うか、開いた口が塞がらないってのは意味が違うか? とりあえず、意味がわからない。
そこに何の利益があるというのか。
「本当に馬鹿そうな顔をするな」
「な……!!」
「感情が顔に出過ぎなんだ。意味がわからないと顔に書いてある」
「まぁ…そうね。なんであんたが私に惚れたら還してくれるのさ」
普通逆じゃない? 嫌われたら子供も作りたくないからさっさと還れって感じにならない? なのに惚れたら還すって…好きならずっと側に居て欲しいものじゃない?
「まず、俺は本当に嫌いな奴とは同じ空気を吸うのも嫌だ。そんな奴を俺様の魔力を使ってまで元の世界に還そうとは思わない」
そこで言葉を切った魔王の表情は、冷気をはらんだ笑顔。
言外に、嫌いな奴は殺す、そう言っている。 私も嫌われれば殺される…??
「そ、それじゃあ、なんで…」
「好きな人とは同じ世界にいたいと思う、そうお前は言ったが、それくらい好きな相手がそうは思ってなかったらどうする? 想い相手が元の世界に還りたいと心から望んでいるのなら、それが惚れた相手の願いならば、叶えてやりたいと思うだろう?」
上ずった声で尋ねた私に、魔王はどこか楽しそうにそう答えた。
そうだろうか? 片思いの相手が、一緒に居ることを拒んだら…違う世界を望んだら…私ならどうするだろうか?
ムリにでも一緒に居て、心変わりを待つ?
自分の幸せより、相手の幸せを願う?
目の前の男はそれよりも、無理やりにでも心を手に入れようとしそうだけど、違うのだろうか?
「俺がそんな優しい男には見えないって顔だな」
「う、うん」
「まぁ実際そこまでヒトを愛したことはないし、これからもそんなことはないだろうと思うが、もし俺がお前に惚れて、お前を愛して、それでもお前が心から元の世界に還したいと願うのならば、この命に誓って、お前を元の世界に還してやろう」
そう言う魔王の真剣な瞳に、不覚にもドキリとしてしまう。
「ただし、その時お前に少しでも迷いがあれば、子供でもなんでも孕ませてやるから覚悟しろよ」
にやりと笑って言った魔王に、そんなことあるわけないじゃん、と強くは言い返せない自分がそこに居た。
私、ホントに元の世界に還れるかなぁ…。
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魔王とホタルの話し合い?はまだ続きます。