第11話 還るための条件
聞きたいことと言われて、いろんなことが頭をよぎった。ここはどこなのかとか、私はどうなるのかとか、そういえば魔王の名前を聞いてなかったとか、魔族って人間を食べたりするのかとか…。
ご飯を食べながらも、何をどう聞いていこうか考えたけど、まず、聞きたいこと、というか、訴えるべきことは『元の世界に還りたい』ということ。それが叶うならばいろんな疑問も帳消しになる。変な夢を見た、そう思って終了だ。
けど、魔王様の答えは…
「それには、条件がある」
まぁ、素直に還してくれるとは思ってなかったけど、そう言われて不安になる。
ここに来てからの記憶を消されるとか? そんなの別にかまわないけど、相手は魔族の王だし、生き血を、とか純潔を、とか言われたらどうしよう? 私貧血気味だから、献血も断られるのに… 純潔ってのは――残念ながら十代の頃に純潔ではなくなってるんだけど――そんな私でも有効事項? 純潔でないなら命を取られるとかなったらどうしよう?? 遺体だけ元の世界に戻されるとか!!
「そろそろいいか?」
思考がどんどん悪い方に向かっていくのを止められた。あれ、前にもそのセリフ聞いたことあるような? けど、まだ答えを聞くのが恐い。
「その条件というのは…」
何も答えないのを了承の意味で取ったのか、魔王が話し始めた。待って、まだ心の準備がぁ~~!
あわあわしている私を見て何か感じたのか、魔王が言葉を止めた。
「…お前は本当に元の世界に還りたいのか?」
少し迷って、口にした魔王の顔は、なぜだか少し、悲しそうに見えた。
そう言われて、考える。私は本当に、元の世界に還りたいと思っているのか?
もう28で、若干行き遅れなのに彼氏も居ない。両親は元気だけど、もうとっくに親離れはしている。仕事は張り切ってやってたけど、それだって私じゃなくても代用の利く仕事なのかもしれない。友達もみんな結婚して、家庭が優先で。私は、ひとり…。
本当に、還りたい??
ここに残れば、魔王の后。 どうなるかはわからないけど、悪いようにはならない気もする。
けど…。
「還りたいわ」
ここは、私の居るべき世界じゃない。
どうしてかはわからないけど、そう思った。
太陽が2つある以外は知っている世界と同じに見える世界。料理もおいしかった。伴侶となる魔王は飛び切りのイケメンだ。
けど、魔王のまとう黒い空気が、あたりに漂うもやのような何かが、ここは違うのだと言っている。
私の居るべきは向こうの世界、結婚相手も、向こうのヒト。こんなヒラヒラな服着てキレイにしてるのは私じゃない。私は、ただの地味メガネで充分。
「そうか…」
きっぱりと意思を表明した私に、魔王はやっぱりどこか寂しげにそう答えた。
今までの皮肉な笑みが消えたその顔に、少しばかりの罪悪感を感じてしまう。
けど、仕方のないこと。私はこの世界の人間ではないのだから。
「では、条件を言おう」
魔王は元の感情の読めない無表情に戻っていた。
私も今度は落ち着いて、次の言葉を待つ。
けれど、それに続く言葉に耳を疑った。
「俺様の子供を産んだら、元の世界に還してやる」
…えっと……??
今回ちょっと短め。
主人公が自由すぎて困ってます…。今回ちょっとシリアスちっくになってましたけど、基本楽観的な彼女。
魔王様との条件交渉は次回に続きます。