神は何度でも子を産み落とす~世界を創る子どもたち~
詩という区分ではありますが、童話のようなダークファンタジーのような話です。
ぜひお読みください。
この世は神のいたずらだと、人は言う
神が思い立ち、余興として創ったと、人は言う
新しい世界を創れと、軽薄に吐く
人は、簡単に世界を捨てる
――
ある日、ひとりの子どものいたずらで、世界が消えてしまいました
その世界に生きるものは、みな無くなってしまいました
あとには何もない空間だけが残りました
神さまは、新しい世界を創る時を、ただ待ち続けます
やがて何もない空間は
自然と黒く染まっていきました
空間が完全に黒く染まったとき
何億年もの時を待った神さまは
新しい世界を創るために動きます
真っ黒で真っ暗な空間に
神さまは一人の子を産み落としました
子は暗闇をどこまでも落ちていき、やがてどこかに行ってしまいました
神さまはさらに子を産み落としました
二人目も三人目も同じでした
暗闇を落ちてどこかに行ってしまいます
四人目も五人目も同じでした
百人目も二百人目も同じでした
何万人もの子が同じように落ちていき
遂に空間を漂える子が生まれました
その子はただ空間に浮かび
やがて、空間に充満する黒い虫に食われ跡形もなくなりました
神さまはさらに子を産み落としました
あるとき、双子が生まれました
その空間はまだ、双子に耐えられるほど成長していませんでした
双子はどちらも空間に葬られました
神さまは一人ずつ子を産み落としていきます
あるとき、光り輝く子が生まれました
その光には黒い虫も近づけません
しかし、光を嫌う暗黒神により心臓を貫かれ、闇に呑まれました
あるときの子は、静かに空間のすみに座り込んでいました
そしてやがて、黒い虫と同化して闇に解けていきました
ある子は黒い虫を丁寧に排除していきました
しかし、黒い虫となった子に負けて喰らわれました
ある子は黒い虫をすべて排除してしまいました
何もなくなった空間で、生きられるものはいませんでした
空間はまた長い長い時間をかけて、黒い虫を繁殖させました
そのときまで、神さまは待たねばなりませんでした
空間が黒く染まらねば
子を産み落とすことさえ難しい
神さまはじっと、そのときを待ちます
時が経ち、空間はまた黒く染まります
神さまは子を産み落としました
何万人、何十万人の子が、何も成せず無くなりました
神さまは子を産み落とし続けます
あるとき、は体を黒く染めた子が生まれました
黒い虫は彼を長と崇めたてました
長は長い時間をかけて黒い虫を操り
空間を、かろうじて世界の形をするものまで成らせました
しかし、ついには黒い虫が反乱を起こしました
長は逃げ
食われる前に世界の礎と成りました
礎は、像の形を成しました
その像は、無くなった者たちの集いの場になりました
今までに無くなったすべての子の命は
像に還りました
長によって創られた世界には
輪郭もなく色もなく
ただ、空間が世界という名になっただけ
神さまは変わらず、世界に子を産み落とします
その次の子は世界に降り立つと
興奮のままの黒い虫により、またたくまに殺されました
その次の子も、その次の子も同じでした
すぐに百人が殺され、二百人が殺されました
彼らの命は同じように、像に還りました
神さまは変わらず、世界に子を産み落とし続けます
あるときまた、双子が生まれました
空間は世界になっていたので
なんとか降り立つことができました
ともに戦い背中をあわせ
黒い虫を散らしました
彼らは世界を渡り歩き
世界に輪郭を縫っていきました
あるときたった一歩分、線引きを急いでしまいます
世界は痛みで大きく揺れ動き
彼らは振り落とされ狭間へと落ちてしまいました
彼らの命もまた、像に還りました
彼らが縫えた輪郭は
大きな紙に刺した一本の針のごとく
点のように小さい空間
あれを足掛かりにして、生命をつくるのだ
その点のような世界は
生命にとっては十分すぎる大きさでありました
世界に色を置き、世界をさらに広げるため
神さまは子を産み落とします
ある子は自ら手首を切り
その血を始まりの地に置きました
自らの血のすべてを使い、赤をその地に置きました
やがて血が絶え、干からびて骨となりました
そして像に還りました
始まりの地は真っ赤に染まりました
赤を嫌い、黒を求め
黒い虫は始まりの地から逃げ出しました
ある子は臆病者でした
双子の引いた世界に籠り
その場だけをただ守り続けました
境界に釘を打ち
その輪郭を確かなものにし続けました
その地を始まりの地と名付け
平穏な生涯を終えました
その命も像に還りました
ある子は始まりの地に色をつけました
黒い虫もいない安全なその地は
またたくまに色とりどりに染まっていきました
そしてすべてを染めつくしたとき
使命は終えたというように
安らかに眠りにつきました
その命もまた、像に還りました
ある子は始まりの地から出ていきました
もっと大きな世界を見たい、と口に出しました
一歩外へ出た瞬間、餌を待っていた黒い虫に
跡形もなく食い尽くされました
その命もまた、像に還ります
あるとき生まれた三姉妹は
順に始まりの地へ降り立ちました
自らの水分をたらし
始まりの地に水をもたらしました
自らの水分のすべてを使い
干からびて骨となりました
始まりの地に、三つの池ができました
世界に点のようにある始まりの地の中に
点のようにある池ができました
彼女らの命もまた、像に還りました
また水と成った子たちも、
また色と成った子たちも、
また外に旅出た子たちも、
また輪郭を縫った子たちも、
植物を生み出した子たちも、
動物を生み出した子たちも、
ただ黒い虫に食われた子たちも、
世界に降り立つことすらできなかった子たちも、
彼らは全員、自らの役目を成し遂げていたのです
そしてみな、像に還りました
始まりの地はより生命が過ごしやすい環境になり
木々が立ち、森ができました
花が咲きました
像は森の中心に、穢れを知らず立っていました
神さまは依然、子を産み落とし続けます
世界が完成するそのときまで
――
どれだけ時が経ったものか
どれだけの子がその命を
世界のために散らしたものか
幾億人目かの双子が
世界についに降り立ちました
彼らは始まりの地で生を得ると
木を伐り草を刈り
動物を狩って暮らしました
やがて子どもが生まれました
彼らは短い一生を終えました
しかし子どもは気丈に生きます
四人の子どもが八人の子を産み
八人の子どもが十六人の子を産み
家を建て、植物を育て
文明は発展していきます
それは神の目で見たら
とても短い閃光のようなひと時
神は依然、子を産み落とし続けていました
第二、第三の「始まりの地」を創るために
それは着々と進んでいました
第二の始まりの地には常に
黒い虫と戦い命を散らしている子がいました
また何億の命が散ることか
輪郭が成るまでに
生命が成るまでに
第一の始まりの地には
もう還る者もいない像が残っていました
それはすでに苔にまみれ
醜く成り果てていました
あるとき、その地に住む皆の決定で
像は倒され、粉々にして破壊されました
その瞬間、世界が消えてしまいました
みな消えてしまいました
「始まりの地」も、第二の「始まりの地」も
神さまは、新しい世界を創り始めました
――
この世は――
幾億の屍の上に成り立った
幾億年を積んで成り立った
幾億の子の死を
侮辱するなかれ
幾億年の積み重ねを
否定するなかれ
実態も知れぬ神ではなく
我らのために生きた子を想え
彼らの創ったこの世界を
決して気軽に捨てるべからず




