第3章 – 魔王のダンジョン
そういえば……ここはどこだ?なんてボロい場所だ。
この若くてセクシーな美少女悪魔を除けば、他のものは全部、何百年、いや何千年も前のものに見える。
あたりには骸骨や、錆びついて壊れた武器が散らばっていた。黒い大階段の下の方――その階段は上にある祭壇へと続いていて、その上には倒れた玉座がある。
まるで地下にある、忘れ去られた不気味な宮殿のような雰囲気だった。
俺は壁際にいて、遠く離れた地面に散らばる骸骨と向き合っていた。
――俺、どれくらいここにいたんだ?
永遠にここにいたような気もするし、ほんの数秒前に転生したばかりのような気もする。
なんだこの感覚……不気味だ。
「――自分がどこにいるか、分かる?」
答えたかったけど、頭に浮かんだ三つの選択肢、どれも意味不明すぎた。
ここは黙って「分からない」という雰囲気を出すのが正解……たぶん。
……
「ふむ……じゃあ“いいえ”ってことでしょ。知りたい?」
「ご購入ありがとうございます!」
伝わった! よかった!
「ここはね、昔――魔王様が住んでいた場所なの。でも、それは遥か昔のこと。私が生まれる前の話よ。
今ではただの古びたダンジョン……」
彼女は水滴のついた俺のガラスに、指でなにか描き始めた。
「ん~? 年齢が気になるの? 教えな~い! あはは!」
楽しそうに笑ってたかと思えば、ふらふら歩き出した。目が離せない。
「でもね、魔王のダンジョンの遺跡は、地下に47階まであるって言われてるの。
……ま、そんなの知ってて当然よね!」
いつの間にか眼鏡をかけて、ドヤ顔を決めていた。賢そうに見せたかったのか?
でもすぐに外してしまった。
「私、あのしつこい人間の冒険者たちから逃げてたの。だから……ここが一番下、最深部のはずよ」
一瞬、拳を握って怒ったフリをしてたけど、急に真面目な表情に変わった。
「……ここは、彼が住んでいた場所って言われてるのよ? 魔王様……」
赤くなった? それとも泣きそうだった?
表情が変わる直前に、彼女はくるりと背中を向けたから分からなかった。でも、振り返る前のその顔は、なんだか見ていられなかった。
「あ!べ、別に会ったことないけどね!? そんな……私みたいなのが会えるわけないし……」
彼女は背中で両手を組んでいた。
“私みたいなの”?
……どういう意味だよ。彼女ほどの存在が、“会う価値もない”って?
そんなのおかしい。こんな俺みたいな、人生無駄にしたクソニートオタクでも、彼女を一目見れば分かる。
――彼女は、誰が相手でも出会う価値のある存在だ。
たとえそれが魔王だろうと、神様だろうと――いや、それどころか――彼女は――
「……でも、私……本当に彼に会いたいのかな?
軍は全滅しちゃったし……
あの人、ほら……“慈悲”とか、そういうのとは無縁だし……」
「――でも、それが“あのセクシー魔王様”たる所以なんだけどね……!」
彼女は俺の方を向いてくるっと振り返り、そのまましゃがみ込んで、自分の髪を乱暴にぐしゃぐしゃにかき回した。
「うああああああ!! 何言ってんの私!? マジでヤバいってば!!
もう帰れないじゃん!!」
――うん、元気は戻ってきたようだ。
「でも……信じらんないなぁ……
350年以上前のあのクソババアの授業、まさか役に立つなんてね。
古代転移魔法陣研究、しかも“旧・魔王の家”なんて今さら誰も気にしないような時代遅れのダンジョンの話なんてさ……」
「てっきり、マジな転移術教える気ないから、適当に時間稼ぎしてるだけだと思ってた。
……もしくは私たちのこと嫌いだったのかも」
まあ、バスカラやるよりマシだろ……
「アアアアアアアァァァ!!!!!!」
「うわっ!? ビビった!! 心臓止まるかと思った……!」
叫び声がダンジョン中に響き渡った。
「年齢バレたあああ!!」
「聞かなかったことにしてぇぇぇええ!?!?」
「はいっ、了解しましたっ!!」――俺の心の中の叫び。
ガタンッ。
……何か落ちた。おしっこ漏らしたかと思った。
水筒だった。
恥ずかしい!