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5-1 トリア編 オーバルの言動に疑問は持たないのか?

結局、件のアサシンが繁華街で目撃されたこと、そして何よりグロッサの魔法弾の跡がラウルの背中から発見されたことなどもあり、彼は逮捕されることなく釈放された。



……だが、グロッサはそれに納得いかなかったらしく、学校側に『ラウルが自分を疎ましく思い、暴行を企んだ』としつこく直訴したそうだ。



さすがに領主の息子レクターの腰ぎんちゃくということもあり、彼女の権力は大きい。

そのため、ラウルは五日間の停学処分となった。



(なんでラウルがこんな目に遭うことになるの……?)


当然その理不尽な仕打ちを受けて、私は酷い怒りを覚えた。

……と同時に、ある思いが頭に浮かんだ。




そもそも、なぜ私はレベルドレインをラウルから行おうと思っていたのか、だ。



よく考えたら、ラウル以外にも魔力を奪われて然るべき相手がいるのではないか。

そんな風に思いながら数日が経過し、ラウルの停学も後1日で解けるようになったある朝。



「痛!」



私は、突然自分の口の中を傷つけるような痛みとともに目を覚ました。

最初は口の中に何かとげが入ったのかな、と思った。



……だが、鏡を見て私は信じられないものを見つけた。



(どうして……! まだ、私は16歳なのに……!)



自分の口から牙が生えていた……つまり『覚醒』していたのだ。

その瞬間に、私はラウルのことが頭に浮かんだ。


「どうしよう……。覚醒したことを知ったら、私のこと……ラウルは絶対に怖がって近づかなくなるかも……!」


この牙をラウルに突き立てれば、ラウルから魔力を奪い取れる。

だが、ラウルはそれを恐れて私に近づかなくなるだろう。


……だから、私はこの事実は隠しておこう。

そんな風に思いながら身支度を始めるべく部屋に向き直る。

そこで私はある違和感に気が付いた。



(あれ、ラウル人形が1体足りない……?)



私は、ラウルの髪の毛やラウルから貰ったものについて、彼を模した人形に縫いこむことを習慣にしている。

だが、154体いるはずの私の『ラウル人形』が1体足りないのだ。


……オーバルが持っていった?

そう思いながら私はドアを開ける。




「ねえ、オーバル? あのさ……」

「はい、お嬢様?」


だが、それについては質問する必要はなかった。

オーバルが、私のラウル人形を1体抱えていたからだ。


私は、それを見て思わず怒りを覚えて尋ねる。……ただし、牙が生えたことは悟られないように、口を開けないように気をつけながらだ。


「どうして、私のラウル人形を勝手に持ち出したの?」

「すみません、少しこの子に埃が被って苦しそうだったので、掃除していたんです」


そういうと、オーバルは人形を返してくれた。

……そういう言い方をされると、正直私としても言い返せない。私はその人形を受け取った。



「ところでお嬢様……その……お嬢様は、レクターという男はご存じですか?」

「え? ああ、幼馴染だし、知っているけど?」


すると、彼女は急に表情を曇らせた。


「そ、そうですよね……。あの……」

「なあに?」

「あ、あの男には気を付けてください……」



そういいながら彼女は足早に去っていった。



(なんだったんだろう?)


そう思いながら、私は部屋に戻ろうとした。

だが、その時、サイドテーブルにオーバルのものと思しき日記帳を見つけた。



(あれ、どうしてこんなところに……?)



人の日記帳を見るのは本来やってはならないことだ。

だが、彼女も私のラウル人形を勝手に持ち出したし、そもそも彼女は何か言いたそうな目をしていた。


それを考えると、彼女の日記帳を開くことは問題ないと思い、私は開く。

……だが、それを開き内容を読むにつれ私の頭の血が湧き上がるような思いに襲われた。


(嘘……!)



そこには、今までレクターから受けてきた様々な仕打ちについて書かれていた。

……レクターは、今までオーバルに対して、


「トリアが学校に通い続けられるようにしてほしいなら、いうことを聞け」


とばかりに、様々な嫌がらせを受けており、それにオーバルは従わされていたということだ。



……その仕打ちの数々は、私が思いつく限りの行為が書かれていた。

特に先日の日記に書かれている内容が酷い。



ちょうど私がスフィアの街に行っていた時に、レクターが彼女に行った内容は、思わず反吐が出るようなことだった。



(許せない……! 私だけじゃなくて、オーバルにまでこんなひどいことを……!)



それを見て、私は頭の中で火がつくのを感じた。

……レクターとグロッサ。あの二人はこの国の癌だ。


むしろ、彼らから魔力を奪い廃嫡させることは、国益ですらあるだろう。

私は、最後の一線を超えることを心に決めた。





「行ってくるね、オーバル?」

「ええ、お気をつけて」



私はオーバルの書いた日記を元の場所に戻すと、可能な限り自然な表情を装って出かけた。

まだ私がレベルドレインが出来るようになったことは、誰も知らないはずだ。



……だからこそレクターは、私の手で魔力を奪い、そして社会的に抹殺する。


そう胸に秘めて。

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