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4-4 不良がキューピッドになるなんて、おかしいと思わないのか?

そしてしばらくして、僕たちは雨が上がったことに気が付いた。

随分と長いこと、お互いに抱き合って涙を流していたようだが、そのおかげですっかり頭は冴えた。



「ごめん、トリア……」

「私も……落ち着いた、ラウル?」

「うん……」


そういうと、トリアはゆっくりと立ち上がった。


「……いったん、帰ろうか?」

「そうだね。……戻ったら、グロッサに、一言言ってやりたいしね……あの魔法弾、グロッサのものだから」

「やっぱり……。……あの女だったの……」



僕が気を失った時に受けた魔法弾は覚えがある。

考えたくないが、あれはグロッサによるものだ。


よほど彼女は、トリアのことが気に食わないのだろう。……だが、トリアをこんな目に合わせたことは絶対に許せない!


そう想いながらも、僕は平静を保ちながらトリアに尋ねる。



「けど……本当に、よく無事だったよね、僕たちは……トリアは凄いよ」

「す、凄いわけじゃないよ……。ただ、あのアサシンはあまり強くなかっただけだから……」



確かにそれは思う。

はっきりいって、わざわざ姿を僕たちに見せてから攻撃を始めるなんて、愚の骨頂だ。


もしも立場が逆だったら、最初の一撃で喉首を斬っている。

それにアサシンは、自身のナイフを回収しないで去っていった。


今の段階ではあまり役立たないが、犯人像が絞れた時には決定的な証拠になるはずだ。



……アサシンが仕損じても、問題なかったからか?

そこに少し違和感を感じながらも、僕は路地から抜けて、市街地に戻った。



「ねえ、ラウル……? ラウルは私のこと、好きだったって言ったの……嘘じゃないよね?」

「当たり前じゃない。小さい時から、ずっと僕はトリアが好きだったよ」

「私も……。だからさ、その……手、繋いでいい?」

「勿論!」



皮肉なことに、アサシンに狙われたことで僕たちは互いの気持ちを知ることが出来た。

……まったく、不良や悪党の手によって恋愛関係が進展するような、まるで三文芝居だ。そんな展開が起きるなんて、正直思わなかった。



そしてしばらく歩くと、警察官たちが何人か周囲を警戒しながら歩いているのを見かけた。

……助かった、まだ近くにアサシンがいるかもしれない。


そう思って僕は警察官達に近づいて口を開こうとした。

……だが、彼らは僕を見るなりギロリと睨みつけて僕を取り囲む。



「お前がラウルだな?」

「え?」




「そうか……では、グロッサ嬢に対する暴行未遂の容疑で同行していただこう」





え?

僕はそれを聞いた瞬間、驚きのあまり内容を理解できなかった。



「ど、どういうことですか?」


警察官はこちらに対して犯罪者を見るような目でこちらを睨みつけながら答える。


「先ほど、グロッサと名乗る少女が交番に駆け込んでな。そして話を受けたのだ。……自分を路地裏に連れ込み、暴行を加えようとしたとな」

「そんな……! 僕はそんなことしません!」

「そうだよ! ラウルは……!」



だが、トリアの釈明を聴こうともせずに警官は後ろに回り込み、僕の腕を抑えながら答える。



「じゃあ、そのナイフはなんだ!? それを使って、グロッサ嬢に何をしようとした?」

「え?」

「彼女は、荷物運びの賃金が安いことに腹を立て、暴行を試みたと言っていたぞ?」

「だから僕は……!」


しまった、そのためだったのか?

僕が手に持っているのは自前のものではなく、アサシンのナイフだ。

だが、それを言っても彼らは信じないだろう。



ひょっとして、アサシンはこのためにわざとナイフを落とした?

いや、それにしてはやり方が回りくどすぎる。

だが僕は、それについて考えをめぐらせる余裕はなかった。



「とにかく、話の続きは署で聞かせてもらおう。……抵抗するなら、どうなるか分かるな?」



僕が魔力持ちなことをグロッサから聴いているのだろう。

警察官たちは、こちらをあからさまに警戒するような表情でそう答える。



「一つ教えてください」

「許可する」

「……僕があなた方に同行したら、彼女……トリア・トライルは見逃してくれませんか? 彼女は、なにも関係ない、ケガをした僕を介抱していただけなんです!」

「違う、ラウルは……!」



だが、僕はトリアに目くばせした。

これは明確に嘘だ。

そんなことは彼らも分かっているのだろう、フンと笑って答える。



「いいだろう。……これは取引だ。君が抵抗しないなら、彼女はここで解放する」



一見、僕の魔力を恐れているような発言をしているが、警察の組織力はもっと恐ろしい。

彼らが本気で僕を捕える気になったら、逃げ切ることは不可能だ。

だから普通に考えたら、こんなおかしな取引をするとは思えない。



……彼らが、僕だけを捕えようとする本当の理由は明白だ。

僕が平民で、トリアは弱小とはいえ貴族だ。トライル家から何か言われるのを恐れてということは一瞬で分かった。


彼らがそう答えると思って、僕は彼女が貴族であることが分かるよう、先ほどフルネームを答えたのだ。



「分かりました……。では、一緒に行きます」



それを理解してもらえた僕は抵抗をやめ、手を挙げた。



「ラウル!」

「大丈夫だよ、トリア? すぐに戻ってこれるから」



あくまで今回の嫌疑は暴行『未遂』だし、彼らは僕を『逮捕』するとは言ってない。

それに、アサシンが逃げていった先は繁華街だったから、誰かしら彼を目撃したものがいるだろう。


だから恐らくだが、事情を説明すれば刑務所行きは免れるだろうと思った。



……まあ、疑惑を持たれた段階で何かしらのペナルティは学校から来るだろうし、グロッサさんの狙いはそれだろう。

だが、トリアが巻き込まれないならそれでいい。



そう思いながら僕は警察官に連れられて馬車に乗った。



「……許せない……あの女……!」



だが、トリアがそんな風に呟いたのを聞いて、僕は猛烈に嫌な予感がした。

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