4-3 ラウルがトリアのことが好きな理由
僕は必死で体を起こす。
「ラウル、まだ寝てなきゃ!」
「大丈夫……。それより、話は聞いたよ、トリア……」
「どこから……聞いてたの?」
「……アサシンを銃で撃った時……あの大きな音で起きたから……」
「うん……」
ザック君の銃声は、凄まじいものだった。
あの衝撃で目覚めることが出来なかったら、僕はトリアの想いを聴くことも出来なかった。
そう思うと、改めて彼に感謝しながら、呟いた。
「……ありがと、トリア。それと、今まで本当にゴメン……」
「え?」
「今まで、僕と友達でいてくれたのは……君の本心だったんだね……」
「…………」
「僕は……トリアは僕の魔力が目当てで、一緒にいてくれたと思っていたから……ゴメン、今……凄い嬉しくって……なのにトリアに申し訳なくって……」
トリアが本心を打ち明けてくれた以上、僕も自分の醜い本心を打ち明けないといけない。
……正直、僕はトリアに失望されることを覚悟した。
だが、トリアはそれを聞いても怒らず、僕を抱きしめてくれた。
「ゴメンね、ラウル……」
そういうと、トリアはますます語気を強めて、僕を抱きしめながら呟く。
「どうしたの?」
「ゴメンね、ラウル……。私もさ……ラウルが私に優しくしてくれるのは……私から魔力を奪われるのが怖いから、見逃してもらうためだと思っていたから……。本当に、私のことを好きでいてくれていたの? 友達として?」
……異性に性欲を向けることは悪だ。
そんなことは分かっていた。……けど、それでも僕は、はっきり答えた。
「ううん。トリアのことは……異性として好きだったよ」
「……ラウル……私、ラウルに迷惑かけてばっかりだったのに、どうして!」
「迷惑なんかかけられたことないよ? トリアはいつも……優しかったじゃないか……」
……けどトリアは、僕のその想いを否定しないでくれた。
死ぬなら、今日がいい。
そんな風に想いながら僕はトリアを抱きしめ、呟く。
「あのさ……。トリアが、覚醒したら最初に僕のところに来て? ……僕の魔力、トリアにあげるから……それで、魔力を貰ったら、僕のことは忘れていいから……」
「嫌! 絶対嫌! 絶対にラウルから魔力は貰いたくない!」
そういうと、トリアは僕のことを思いっきり抱きしめた。
……痛い、先ほど魔法弾を撃たれた痛みもあるが、凄い力だ。
けど、その痛みからトリアの悲痛な想いが伝わってくる。
トリアは泣きながら叫んだ。
「もう一度言わせて! 私はラウルが好き!」
「……トリア……僕も……好きだよ……?」
『もう一度』じゃない。
その言葉は、何百万回だって言ってほしい。
「……今のこの想いが……ラウルの魔力に惹かれているからだなんて信じたくないし、信じない! けど……魔力を奪った後、それでラウルを嫌いになるなんて、そんなことになるなんて……考えたくないよ!」
「トリア……けど、トリアはトライル家のために魔力を持たないと……」
「それだったら、ラウルだって本当は、魔導士になりたいんでしょ!? それなのに、その夢を奪う資格なんて私にはない!」
そして僕も、トリアを抱き返す。
……そっと優しく抱きしめるつもりだったが、加減が出来ない。
「……僕はさ、トリアからあれだけいろんなものを貰っていたのに、トリアのこと、僕の魔力が目当てだと思ってたんだよ? ……そんな汚い僕のことを本気で友達と思ってくれてたなら……それだけで、十分だよ……」
「それなら私だって! ラウルはあれだけ素敵な思い出をくれたのに、ラウルは私を怖いから、媚びを売ってるんだと思ってた! そんな自己中な私が、ラウルから魔力を奪う資格なんてない!」
「……トリア……痛い!」
そういうと、トリアは僕に歯を立ててきた。
痛い……本気で食いちぎろうとするような痛みだ。……だけど……魔力を吸われている様子はない。トリアの歯は普通の糸切り歯だ。
トリアは、僕に全力で歯を立てながら、ボロボロと涙も拭かず、絞り出すような声で呟く。
「ねえ……私はさ……まだ、レベルドレインが出来ないでしょ?」
トリアの口癖だ。
今日の噛みつきはいつもよりも更に強い。けど、痛みなんてどうでも良かった。
「だから……! だからさ! 安心して、ラウル! ……私は君から魔力を奪えないから! ……だから、お願いだから一緒にいてよ、ラウル! ……私が大人になるまででいいから!」
最後は、本当に叫ぶような声で、僕の心を揺さぶるようにトリアは叫んだ。
僕も、もう自分の気持ちを抑えることが出来なかった。
トリアにかまれた歯を更にぐい……と自分のクビに食い込ませながら叫ぶ。
「僕だって……僕だって、トリアが好きだよ! 魔力だって全部あげていい! ……けど、本当はトリアに嫌われたくないし、魔導士にだってなりたいんだ!」
「それなら私も、トライル家を継がないといけないよ! ……でも、ラウルを嫌いになりたくないし、ラウルの夢だって奪いたくない! ……だから……このままずっと、子どもでいたいよ、ラウル……!」
「……うん……僕も……! ずっと、歳を取らないで……子どものまま、一緒に居られたらいいのに……!」
そして……僕もトリアと一緒に泣いた。
幸いなことに、僕たちの叫び声は雨がかき消してくれた。