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3-4 銃だって、ある種「レベル差無視」のアイテムだ

「はあ!」

「やあ……!」



コロッセウムでは魔導士たちがそんな叫び声とともに、魔法の光弾を撃ち合う。



「兄さま……」



試合前はニヤニヤとトリアにちょっかいをかけていたが、試合が始まるなりグロッサは真剣な表情で兄を心配する妹の顔になった。



……それはそうだ。

魔導士同士の『戦争』は命の奪い合いだ。

相手側が降参をしない限り、相手の死以外の手段によっては勝敗が決まらない。


そして『戦争』の内容によっては、国側が降参を認めてくれない状況すらあるし、運が悪いと勝った側も命を落とすことがある。



「お願い、死なないで……!」



実際に、僕の周囲の貴族たちも家族を『戦争』で失ったものは数多くいる。

そしてその中の数人は、心痛から未だに復学できていない。



彼ら貴族は、僕のことを快く思っていない。

けど、彼らの悲痛な想いを聴くたびに、僕は魔導士として『殺すことも殺されることもしない戦争』をしたいと思っていた。



「グロッサさん……」



正直グロッサさんは、トリアのことをいじめるから大嫌いだ。

……けど、彼女のそんな苦しそうな表情を見て僕は声をかける。



「大丈夫だよ、グロッサさん」

「え?」

「……お兄さんは絶対に勝てるから」

「気休めでしょ、それ」


彼女はそう答えるが、きちんとした根拠がある。


「そんなことはないよ。……相手はさ、動きが悪いよ。魔法弾を撃った後に反動で耐えられない。……多分、だいぶ足腰が弱ってるんだと思う」

「え? ……そうなの?」

「あ、確かに。少し動きが変だよね」

「あんたには聴いてないよ」



横からトリアもそう答えるが、グロッサさんはあまりいい顔をしなかった。



「それにさ、この戦争は……政治家さん達の顔を見れば分かるよ。相手側はもう諦めた顔をしているから。逆にこっちは余裕な顔をしてる」

「え? ……ほんとだ。よく見てるね、ラウルは」

「多分だけどさ、この『戦争』はあまり相手にとって、何が何でも勝ちたい戦いじゃないんだよ。だから、有力な魔導士を温存しているんだろうね」



そう、当たり前だが政争というのは彼我の熱量が異なるものだ。

こちらとしては『何が何でも達成したい悲願』であっても、相手側から見れば『出来れば達成されたくない』程度のものであることも多い。



「相手の魔導士も実力差が分かってる。さっきから防御魔法をずっと使ってるでしょ?」

「そう? なんで分かんのさ?」

「心臓や肝臓、頭みたいな急所でもないところにまで障壁を展開しているからだよ。……とにかくケガを避けようと戦ってる。勝つための戦いじゃないよね」



相手側も、恐らくは『逃げずに戦い抜いた』という証明をしたいのだろう。

観客がしらけない程度にそういう素振りをしている。


「それにさ、あの歳まで魔導士として戦えているっていうことはさ。きっとそういう『死なない負け方』を熟知しているってことだと思うよ。だから、お兄さんは負けないし、殺してしまうこともないはずだよ」



それを聴いて、グロッサさんは感心したような顔をした。



「はあ……すごいね、あんたは……さすが天才ってことか」

「そ、そうかな……」

「そこの化け物が狙うわけだ……。そりゃ、欲しいよね、こんな凄い奴の魔力をさ?」



今のは僕の洞察だ、魔力は関係ない。

そんな風に、何かにつけて文句を言ってくるのを見て、僕はムッとした。



「あのさ、グロッサさん。そうやってトリアのことを悪く言うのやめてよ?」

「悪い奴を悪く言って何がいけないのさ? ……ま、今回はあんたに免じてやめてやるけどさ。……ありがと、ラウル」

「お礼言われても嬉しくない。謝ってよ、トリアに」

「はいはい、分かったよ……。ゴメンね、トリア」



前よりは誠意がこもった謝罪かな。

そう思いながら、僕は少しだけ納得した。




それから少しして。


「終戦! 勝者は、ジェイク~~~~!」



わああああ、と歓声とともに声が響く。


「よかった……兄さん、勝ったんだ!」


そう、グロッサは安堵で少し涙ぐんでいた。

……よかった、相手側の魔導士も大きなけがはないようだ。

グロッサは僕のほうを向いて、涙のせいか顔を赤らめる。



「あの……さっきはありがとね、ラウル」

「だったら、もうトリアに酷いこと言わないで? 僕は、グロッサさんとも友達でいたいから」

「あ……ああ……」


やっぱり、まだトリアのことを怖いのだろう。

……けど、今ここでこれ以上問い詰めても頑なになるだけだろう。僕はそれいじょう問い詰めないようにした。



「悪いけどさ、これから兄さんのところに行ってくるから、ちょっと待ってて?」

「うん、その間に荷物まとめておくね?」



僕らの仕事はまだ残っている。

応援のために用意したものや、周囲に落ちているゴミを片付けないと行けない。

グロッサが控室の方に走っていったのを見て、僕はトリアに話しかける。



「それじゃ、後片付けを始めないとね」

「うん……その……ありがと、ラウル……」


トリアは、そう呟いた。

そしてゴミの片づけをはじめながらトリアはたず円る。


「あのさ……。今日は大丈夫だったけど……魔導士との『戦争』って……人が死ぬことも多いよね?」

「うん……」

「そんな危険でも、君は魔導士になりたいの?」


そのことは、魔導士を目指した時から覚悟している。

僕はうなづいた。



「うん。……『戦争』で勝てば、困っている人の力になれるし……それにさ」

「それに?」

「僕の代わりに誰かが死んだり……。逆に、人殺しを代わってもらうのは嫌なんだ。そういう辛い役を人任せにしたくない。……それに、出来れば相手を殺さないで勝負を決められるような魔導士になりたかったからね」


そういうと、トリアはフフ、と可愛い笑顔を見せてくれた。



「……そう……優しいんだね、ラウルは」

「そうかな……」



……ただ、今日の試合を見ていて思った。

もしも僕がトリアに魔力をあげたら、トリアが代わりにあそこで戦うことになるのだろう。


トリアはレベルドレインで無限に魔力を高められる。

だから、僕を皮切りにいろんな人から魔力をかき集めて強くなれば、きっと負けないはずだ。……だが魔力差を無視できる魔法も数多いから、絶対安全にはならない。



もしそれで、トリアが死ぬことなんて考えたくもない。

そう考えると、トリアに魔力を渡すのが少し怖くなってきた。



「ううん……。僕は、優しくなんてない……」



けど、それは卑怯だ。

僕はトリアに何もしてあげられていない。……その癖、彼女に醜い性欲を向けてしまっている。


それなのに彼女が僕を慕ってくれているように見えるのは、僕の魔力が目当てだからだろう。



そもそも、僕のような平民が魔導士になるには、※莫大な税金を出してこのスフィアの街に移住する権利を買わないといけない。


(※農民が勝手に移住することを防ぐためである)

そんなお金を集めるには10年はかかるし、それまで待ってくれなんて言えるわけない。



……魔力を渡す気もないくせに、その素振りを見せて愛だけ受け取ろうなんて浅ましい。

だから、未練も不安もあるけど……僕はトリアに恩返しとして魔力をあげるべきなんだ。そう思うことこそが、トリアの策略でも構わない。



そう考えながらポケットからハンカチを取り出そうとすると、手に何かが当たるのに気が付いた。

……そうだ、すっかり忘れていた。



「あ、そうだトリア? これ、渡しておくね」

「これは何……?」


それは、金属の筒に木製の持ち手、そして弩に使うような引き金がついたものだ。



「ザックから行きがけに貰った『銃』って武器なんだ。引くと、凄い勢いで鉛の弾が出てくるんだ」

「そうなんだ? ……凄い発明だけど……これもザックがくれたの?」

「うん。これがあれば、トリアも自分の身を守れるかなって思って、譲ってもらったんだ」



彼は、ここ最近もずっと様々な兵器の開発をしている。

本人曰く『ぶっ壊すため』と言っているが、そこまでして壊したいものがあるのだろうか。



「ありがと。……ごめんね、私が魔法が使えないから気を使わせて……」

「何言ってるのさ。ザック君も『使ってくれる人がいると嬉しい』って言ってたからさ! 気にしないでって!」


僕がそう答えると、トリアも少し嬉しそうな顔をした。



「それなら、この銃でラウルのことを守ったげる! バーン! ってね!」


そうトリアは銃を撃つ仕草をしてニコニコと笑う。

……僕を『大事な餌』として、守ってくれるという意味だろう、それでも僕は嬉しかった。

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