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3-3 将来の夢を決めるのにドラマチックな過去はいらない

それから数日後。

僕たちはスフィアの街に到着していた。



「ったく、やっと運び込み終わった? 本当に遅いんだな、トリアは!」

「ご、ゴメン……」

「ま、サキュバスと言っても体力は人並ってことだね……。ま、お疲れさん。ラウルに感謝しなよ?」



てっきり『荷物持ち』というから、彼女の私物を運ぶだけだと思っていた。

しかし実際には、試合に必要な物資を運び込む仕事も含まれていた。

それでも、なんとか荷物の運び入れは終了し、僕らは一息ついていた。



「うん……ありがとう、ラウル」

「いいよ、元々僕のほうがいっぱいお金貰っているしさ」



てっきりサキュバスは人間よりも筋力が強いものと思い込んでいたが、どうやらそうではないらしい。


そのこともあり、持久力はあるが、やや非力なトリアの分は僕がサポートした。

……まあ、本音をいうとトリアの前でかっこつけたかっただけだったのだが。



グロッサさんは、僕のほうを向いて尋ねる。


「それでさ、これから兄さまの応援をするんだけど……ラウル、あんたも来る?」

「え、いいの?」

「ああ、枯れ木の山の賑わいっていうだろ? 応援してくれんなら入れてあげるよ」



正直、その提案は魅力的だ。

僕らの村はあまり大きくないので、今まで魔導士の『戦争』の開催地に選ばれたことがない。


そのため、実際の戦いがどのように行われるのかを一度見たいと思ったからだ。


……けど、トリアを仲間外れにするなら行かない。

だが、グロッサさんはそんな想いを見透かしたように答える。



「どうせあんた、トリアを誘わなかったら行かないっていうんだろ? ……ま、しょうがないからさ、二人とも誘ってやるよ」

「え、いいの? ありがと、グロッサさん!」

「…………」



だが、トリアは不快そうな顔をした。

……まあ、グロッサに誘ってもらうのはあまり気持ちのいいものではないのだろう。



「トリア、行こう?」

「うん……グロッサとラウルって」


……けど、トリアもレベルドレインで魔力を手に入れたら、きっとここで見た経験が役に立つはずだ。……そうなったら、逆に僕にとって意味のないものになるけど。


そう思いながら試合場に入っていった。





試合場では、多くの人が歓声をあげながら、その様子を眺めていた。


「うわ……結構な人がいるね……」

「ああ。ああ見えて兄さまは人気の魔導士だからさ」



元々は、政治における紛争を解決するための『戦争』だったが、現在では見世物的な側面も大きい。


これは、土地はあるが金がないような弱小国が、試合場を経営することによって観光資源とするためのものなのだが。



「それでさ、今回の戦争では、勝ったら何が決まるの?」

「ああ、小麦の関税引き下げさ。ま、ここの人たちにとってはあまり関係がないことなんだけどね」



見ると、確かにあまりここにきている観客たちは、戦争に勝利して得られるものについてはあまり関心がなさそうで、魔導士や魔法の話ばかりしている。


真剣な表情をしているのは、最前列で必死の表情をしている政治家と思しき人たちくらいだ。



「あ、そうそう。さっきそこの売店で買ってきたんだ。食べなよラウル。……ついでにトリアも」

「え?」


そういうとグロッサさんはパニーニのようなものを取り出して僕たちに振舞ってくれた。


「そんな、悪いよグロッサさん……」

「何言ってんのさ! あんたたちの食事代は、あたしが面倒見るって言ったろ? はい」

「あり……」

「ありがとう、グロッサ」

「ち……。トリア、あんたはラウルのついでだよ?」



トリアは会話を遮り、僕とグロッサさんの間にぐいっと割り込むように入ってきた。

なるほど、トリアは凄い可愛いから、となりのお客さんにセクハラをされることを恐れたのだろう。


そう思った僕はそれを見て、横に少しどいた。

そして僕のほうを向いて、腕に少しもたれかかるように座る。


……正直、これをやられると、僕はドギマギしてしまう。



「ねえラウル? ……ラウルもここで働く魔導士になりたいの?」

「うん。……ここで頑張って、国に尽くしたいと思うんだ」

「へえ……。なにかきっかけがあったの? 魔導士に命でも救ってもらったとか?」



そういえばトリアにはまだ話していなかったっけ。

そう思うと僕は答える。



「昔から僕の家ってさ。野菜をずっと作ってるでしょ?」

「うん、ラウルの作るお野菜、すっごい美味しいよね!」

「だけどさ、干ばつが起きたせいで、水を撒くことが出来なくなった年があったんだよ……」

「ああ、10年前に起きた干ばつのことね?」


グロッサさんも、トリアの向こうから声をかけるがトリアは嫌な顔をした。

彼女は普段から僕もいじめてくるが、それ以上にトリアに対してのあたりが厳しい。



……もう少し、二人には仲良くしてほしいんだけどな。



「うん、そうなんだ。……それで、隣の国を流れている水を少し使わせて欲しいってお願いしたんだけど……法外な利用料を請求されたんだ」

「分かった! それを『戦争』で解決してくれたのが、その時の魔導士さんなのね?」

「うん。……おかげでその年を過ごすことが出来たんだ。それで僕も、そんな風に国の人たちが幸せに暮らせるように、魔導士になりたいって思ったんだ。……なんていうかさ、ドラマチックなきっかけじゃなくてゴメンね?」



戯曲などでは、魔物に襲われた時に助けてもらったとか、そういう過去があって目指すものが多いのだろう。


だが、僕はそもそも魔導士に直接会ったことがない。……けどその時には、本当に彼らに心から感謝したことを思い出した。


それを聴いてトリアも納得してくれたようだ。



「ううん! ラウルの気持ち、凄い分かるから……」

「ありがと……」



そんな風に思っていると、グロッサさんが横から声をかけてきた。


「ほら、始まるよ、試合! 兄さま、頑張って~! ほら、あんたたちも応援して!」

「うん! 頑張って~!」

「頑張れ~」


試合場からは、グロッサさんに雰囲気の似た赤い服の男性がふらりと現れた。

対する相手は、どうやら中年の女性のようだ。


その二人が正面を向き合い、そして、



「開戦!」


という叫びとともに試合が始まった。

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