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3-2 図書室で二人でお勉強、まさに青春だ

それから数日が経過した。

幸いなことに、グロッサさんの言う通り教授は第二校舎にいた。



そして僕は必死に頭を下げて課題を出した結果、なんと最高評価を貰うことが出来た。

教授曰く、


「野生種の『明かりの木の実』を手に入れたのは、お前だけだ。あのバカのザックが生息地を知っているのは意外だった」



とのことだった。

それを聞いたレクター君とグロッサさんは、自分の行為が逆に僕らの成績をあげてしまったことを悔しそうにしていたのを思い出した。



(フフフ……災い転じてってやつか……)



あれは、少し胸がすく気持だった。




「ねえ、トリア? ここ、教えてもらっていい?」

「うん。えっとね……」



僕はあまり理系科目の成績には自信がない。

そのため、僕は図書室でいつものように、トリアから勉強を教えてもらっていた。


トリアは凄く分かりやすく勉強を教えてくれる。

正直彼女には世話になってばかりだ。



「これで解けると思うけど、どう?」

「う、うん……ありがと、トリア」



だが、正直トリアが僕に話しかけるときに、前かがみになるのが少し気になる。

……胸の谷間が見えてしまい、ドギマギしてしまうからだ。


そんな僕のいやらしい目線に気づいているのか、トリアは笑顔を見せてきた。

勿論それが、作り笑いなのは分かっている。

……出来る限り、目を胸元に向けないようにしないと。



「……フフフ、お疲れ様、ラウル」

「あ、ありがと……ところでさ、トリア?」

「え?」

「今日、なんか顔色がいい気がするけど、何かいいことあったの?」


それを尋ねるとトリアは少し嬉しそうな表情を見せた。



「えへへ、実はちょっと化粧品変えてみたんだけど……似合う?」

「うん! すっごい可愛い!」

「それなら嬉しいな。……あれ、ひょっとしてラウルも化粧してる?」

「あれ、分かるんだ?」



トリアはものすごい美人だから、正直僕とは釣り合わない。

……彼女が僕の魔力目当てで近づいているのだとしても、少なくとも僕と一緒にいることが、彼女にとって『恥ずかしい思い出』にはなってほしくない。



そう思っている僕は、最近はメイクをして少しでも顔面偏差値をあげる努力をしている。



「うん、いつもより唇が、その……綺麗だし顔も小さく見えるから」

「へ、変かな?」


男性用の口紅や頬紅は珍しいから、正直いつも難儀している。

だがトリアは首を振った。



「ううん、前より凄くいいと思うよ、ラウル! ひょっとして買ったブランドって……」

「うん、トリアが教えてくれたところ! あそこ安くていいよね」

「……それなら良かったよ……。今度さ、一緒にまたそのお店に行かない? ラウルに似合うクリームとか、探してあげるから!」

「いいの? ……楽しみにしてるね!」



トリアが褒めてくれることがお世辞でも、素敵なお店を教えてくれることや一緒に遊びに誘ってくれることが、策略だとしても僕は嬉しい。


……今の関係がかりそめのものだとしても、僕は少しでも味わっていたい。

だが、その想いはすぐに打ち消された。



「あんた邪魔」

「え?」


突然横から一人の女子生徒が現れて、強引にトリアを押しのけ、僕の正面に座ってきたのだ。


……グロッサさんだ。



「ちょっとグロッサさん! 他人を押しのけるのは酷いよ! トリアに謝って!

「え? サキュバスって『人』なの? へえ意外……ま、一応謝っとくね、ゴメンね、化け物」

「グロッサさん!」

「ラウル、私はいいから……」



明らかに誠意を込めていない謝罪だ。

だが、トリアにも止められたし、これ以上図書室でうるさくするわけにも行かない。


そこでグロッサさんに向きなおる。

するとグロッサさんは急に顔を背けてきた。



「……なあに、僕の顔に何かついてる?」

「……な、なんだよ、ラウル……。今日はなんか男前なんだな……」



いつもトリアをいじめるグロッサさんに言われても嬉しくなんかない。

そう思いながらも僕は尋ねる。



「それで何の用?」

「あ、ああ……。今度あたしの兄さまがスフィアの街で『戦争』するんだよ」

「へえ、スフィアの街か……」


僕の世界では、政治間の問題が発生したときに、魔導士たちが一つのコロッセウムで1対1の殺し合いを行う。

そこで勝利した国がその政争の決着を決めるという、一種の代理戦争を行っている。



確かグロッサさんの兄も魔導士だということは僕も知っている。

言い方は悪いが、彼女とは異なる人格者として知られていた。


そしてスフィアの街は確かこの村の隣にある、大きな街だ。

あそこは平民でも魔導士になれる国らしいので、正直僕は行ってみたかった。



「それで応援に行こうと思ってたんだけどね? 女の一人旅は不安だし、あんたに荷物持ちやってもらろうと思って。勿論、報酬は恵んであげるけど?」



失礼な言い方だ。

……だけど、今年は麦の収穫があまり多くなかったから、わずかでもお金を稼げるのはありがたい。


それに正直、魔導士同士の『戦争』は一度見てみたかった。

そう思っていると、トリアが訝しげにグロッサさんに尋ねた。



「なんで、自分の使用人にお願いしないの?」

「ああ、畑がかき入れ時みたいでね。ちょうど男手が足んないんだよ」

「……嘘……じゃない、それ?」


そうトリアは尋ねるが、面倒くさそうにグロッサさんは答える。



「うっさいな。だからなに? ……つーかラウル、あんたに拒否権はないから。もし嫌っていうならさ。レクターに頼んで嫌がらせしてやるけど?」



ちらりとトリアの方を見た。

……なるほど、『誰に』嫌がらせをするとは言っていない。つまりトリアに酷いことをするつもりというなら、僕は喜んで受ける。



「分かったよ。……けど、現地までの交通費と食費は出してよ?」

「ああ。……その……あ、あたしの手料理でもいいなら、食わせてやるよ」

「じゃあそれで決まりだね。それで時間は……」

「待って!」



だが、そんな風に話していると、トリアも声を出してきた。



「ど、どうしたのトリア?」

「えっと、その……私だって、荷物持ちくらいできるから……! だから私も雇ってよ!」

「……へえ……」



だが、まるでそれを見透かしていたかのようにグロッサさんはニヤリと笑った。



「……報酬はラウルの半分でもいいなら、雇ってあげるけど? ああそうか、あんたんち、お父さんがバカなせいで、貧乏だったよね? もっと欲しい?」

「ちょっと、トリアのお父さんはいい人だよ! そんな……」

「ラウル、いいから……」



トリアのお父さんは僕も会ったことはあるが、決してバカな人じゃない。

お人好しで損することが多いけど、そんな言い方をしていい人じゃないことは僕だって分かる。


だが、いつものようにトリアは僕を制してうなづく。



「それでいいよ。……別にさ、グロッサ。あんたにバイト代なんか貰わなくても、生活費くらいはあるから」



なるほど、僕だけじゃなくてトリアを安くこき使うために、わざわざここで仕事の話をしてきたのか。



……けど、トリアをいじめるようなことは絶対にさせない。

きっと睨むようにグロッサさんを見ながら注意する。



「言っとくけどグロッサさん……。トリアに酷いことしたら、僕はすぐ帰るからね? 報酬も、貰わなくていい。それと、トリアのお父さんを悪く言うのもやめて? あの人は、立派な人だ」

「ラウル……」



トリアが僕の服をぎゅっとつかんでいるのを感じた。

そしてグロッサさんはそれを見ると、少し大げさにため息をついてきた。



「はあ……。ほんっとうにあんた、トリアに操られてるね……早く目を覚ましなよ?」

「だからなんなのさ。……あと5分でいい、寝ていたいんだよ、僕は」



僕は、もうトリアに操られているのは分かっている。

……実際にもう、僕はトリアに魔力をねだられたら断れない。



いつも勉強を見てもらって、遊びについてきてくれて、本を貸してくれて……そしていつも隣にいてくれたトリアには、それだけの借りを作ってしまっている。



けど、それでも……彼女がレベルドレインが出来るようになる時までは、彼女と友達として過ごすような、そんな甘い夢を見ていたい。



泣きそうになるのをこらえながら、そう僕は呟いた。

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