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プロローグ1 ラウル視点『レベルドレイン』をするための罠だとわかっているけれど

「はあ、はあ……まだ、やる……? レクター君……」

「ぐ……くそ、平民の分際で、なんて力だ……!」



僕の目の前には大きなクレーターが開いていた。

これは、僕の魔法によって、落とした隕石によるものだ。



そして、そのすぐ近くではクラスメイトの貴族『レクター君』が悔しそうな表情で腰を抜かしていた。



「そこまで! 今回のクラス対抗戦は、ラウルの勝ちだ!」

「くそ……また、ラウルの勝ちかよ……!」



この世界には、軍隊というものがない。

その理由として、この世界には『魔法』が存在し、この魔法を操れる『魔導士』の個人戦闘力が、軍の力を凌駕しているためだ。


そのため、一般的に国家間のいさかいは魔法を操れる魔導士が1対1で戦うことによって、勝敗を決めることとなっている。


この学園でも、将来の魔導士を養成するために、魔力を持つものはある種の部活動のような形で参加することを義務付けられている。



「やっぱラウルは天才だよな。……平民じゃなかったら良かったのにさ」

「だよな。けどなんで、ラウルは平民なのに魔法が使えるんだろうな」



一般的に魔力は遺伝するため、殆どの場合魔導士は貴族の専売特許となっている。

……だが、僕は平民でありながら、なぜか非常に高い魔力をもっていた。そのこともあり、周囲の貴族からは煙たがれている。




「はっ! 調子乗んなよな、ラウル? 魔導士になれない癖に、戦いの技術を磨いても意味ねーってのによ!」

「いたっ!」



そういって、レクター君は僕を殴ってきた。

領主の息子であり、学園では僕に次ぐ成績を誇っている彼は、僕を目の敵にしている。



……まあ、彼の言う通り、僕の住むこの街では平民は『魔導士』になれない。

だが、レクター君たちの鍛錬の手助けをする名目で、僕はこの授業を受けることを義務付けられている。



(はあ……。まあ、羨ましいけどね……レクター君みたいに、将来魔法を使って活躍できる人……)




そう考えていると、僕の大切な『友人』である女の子、トリアがニコニコと笑ってやってきた。



「凄かったよ、さっきの試合! その……よかったらこれ食べて、ラウル?」

「これは?」

「昨日、青果市場で買ってきたレモン。はちみつに漬けておいたんだ、美味しいよ!」



そういって、彼女はレモンのはちみつ漬けを渡してくれたので、僕は口にする。

レモンの甘さがはちみつと相殺されて、とても美味しい。



「うん、ありがと! 凄い美味しいよ!」

「えへへ、よかった!」



だが、それを見ているとレクター君と、彼の親友であるグロッサさんは不機嫌そうな顔をした。



「あんたさ、よくそんな化け物……『サキュバス』の作ったものなんか食えるね」

「だよな……。ま、嫌われ者同士馬が合うってことだろ?」

「そうよね! 精々あんたらは、二人で傷でもなめ合ってなよ! ほらみんな、行こ行こ!」

「む……ちょっと二人とも!」



僕が、彼らから嫉妬されるのは当然のことだ。

だから、僕のことはどういわれても構わない。



けど、トリアのことを悪く言うことは許せない。

そう思って僕は、去っていく彼らに抗議しようとした。



「待って……。私は気にしないから……止めて?」

「トリア……?」



……だが、トリアは立ち上がった僕の服の裾を掴んで止めた。




すぐにグロッサさんやレクター君たちは去り、僕らは二人っきりになったあとに、彼女は寂しそうに呟く。



「私がさ……呪われた『サキュバス』だから……。レクター達が私を嫌う気持ちは分かるし……だから、いいんだ……」



この世界における『魔力』は基本的に先天性のものであり、生涯に渡って増減することはない。


……だが、ただ一つ例外がある。

牙を使って相手にかみつくことで、そのものの持つ魔力を永続的に奪取出来る『レベルドレイン』を行える種族『サキュバス』はその限りではない。



「魔力を持たない貴族は、廃嫡されるからさ……怖いんだよね、私が……」

「トリア……」



そして、トリアの家系『トライル家』には、100年に一度、そのサキュバスの血が覚醒するものが現れる。彼女がその一人であり、18歳になると口から牙が生え※レベルドレインが可能になるのだ。


(※読者にイメージしやすいよう『レベルドレイン』という名称を採用しているが、この世界において一度奪われた魔力は、絶対に元に戻らないため、世間一般のそれとは微妙に異なる)



そのことを貴族のレクター君達は大変恐れているのだろう、ことあるごとに彼女をいじめてくる。



「けど、ありがとね、ラウル。……君が怒ってくれたの、嬉しかった」

「うん……」



彼女はそういって、凄い可愛い笑顔を向けてくれる。

グロッサさん達は、僕が目を合わせただけで凄く不愉快そうな顔をする。


……けど、彼女は僕の目を合わせたらいつも微笑んでくれる。そんな彼女の笑顔が、僕は大好きだった。




「……ねえ、ラウル?」

「……なに?」



そう思っていると、彼女は僕の腕をきゅっと掴んで呟く。




「私はさ……。まだ『レベルドレイン』は出来ないよ? だから、安心して一緒に居られるから……だから、まだ傍にいてくれる?」




彼女は、口癖のように僕にそれをいう。

正直、その言葉を聞くたびに『もう少しだけ、今の関係で居られる』と思い嬉しくなる。



「うん……教室に戻るのはさ、もうちょっと後にしようか……」





僕は彼女に何もしてあげられていない。

それなのに彼女みたいに素敵な人が、僕のことを本気で慕ってくれるわけがない。



……彼女は、僕が好きなんじゃなくて、僕の魔力が目当てのはずだ。



「そういえばさ、この間貸してくれた本、面白かったよ?」

「え、もう読んだの? さすがラウル。早いね」

「あの主人公のイルミナって子さ。凄いけなげなんだね。ただ、勇者ニコラを裏切ったときの気持ちってどんなだったんだろう……」

「うん。そこは私も、少し泣いちゃったんだ。彼女は……なんか私みたいでさ……」



彼女はいつも、平民の僕が※買えないような本を貸してくれる。

(※この世界は『魔法』が中心に技術が進んだため、冶金技術の成長が遅い。そのため活版印刷の技術が浸透しておらず、高価な写本のみとなる)



そして一緒に感想を言い合うのが僕の楽しみだ。



(トリアがこうやって笑ってくれるのも……演技なのは分かるけど……)



……僕は少しでもこの時間を長く過ごしたいと、いつも思っている。

だけど、今こうやって僕と一緒に笑ってくれるのも、こんなに優しくしてくれるのも、僕のことを油断させるための発言なのは、頭では分かっている。




「ねえ、ラウル? 今度、続きを貸すから……また読んでくれる?」

「勿論! トリアの貸してくれる本って、本当に面白いから嬉しいよ」

「……それなら、私も嬉しいな」



彼女はきっと、18になったら僕から魔力を根こそぎ奪うつもりだ。


それが済んだら、きっと用済みになった僕に対して、掌を返したように捨てるのだろう。

そんなことは分かっている。けど……。



もうちょっと、もう少しだけでいい。

彼女と一緒にいる幸せをかみしめていたい。……そして、恋人……なんておこがましいけど、せめて友達として一緒に居させてほしい。




(このまま、ずっと子どものままでいられたらな……)



彼女の笑顔を見るたびに、僕はそう思っていた。

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