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魔法使いと皇の剣  作者: 123
1章 出会い
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ジン 5

 ジンが暫く状況の打破に思案していると、見知った気配が近づいて来るのを感じまさかの思いと、現状を打破できる存在に歓喜した。


 その助けは直ぐにきた、仲間三人は飛び入るように空間に入ってきて状況の確認を行っていた。


 もはや痙攣してるのみのムカデと片腕がないバルド、そして全身緑の液体だらけのジンをみて、結論本人に聞いたほうが早いと考え3人ともジンの近くにきた。


 ジンは説明を行い今の状況は自分も困っている事をつげると。


「とりあえずバルドを切っちまう選択肢はないのか?」


 バショウが口を開いた。眉間にしわを寄せたまま、面倒そうに続ける。


「このまま話を聞いて、切りにくい状況が出てきたらめんどくせぇしな。」


 その言葉に、キョウが少し考え込みながら反論する。


「いや、まずは話を聞くべきだろう。ジンの予想によれば、ムカデの供物――と表現していいか分からないが――ムカデの腹の中以外に手下がいないと限らない。何より、そもそもどうしてそんなことをしたのかも気になる。」


 それを受けて、ランも静かに賛意を示した。

「私も同感です。まずは話を聞きましょう。それにジンも、話を聞きたいから私が来たのを喜んでいたのでしょう?」


 ジンは二人の意見に頷き、バルドへの語りかけをランに託した。


「ラン、頼みます。」


 その短い言葉に、ジンの意図が込められているのを感じたランは、小さく返事をしてからバルドに向き直った。


 ランが柔らかな声で語りかけると、バルドはゆっくりと口を開いた。


 その声は低く抑えられており、感情の起伏を一切感じさせないものだった。


 対照的に、ランの表情は変化に富んでいた。驚いたり、考え込んだり、時折視線を落として何かを思案するように沈黙する。だが、バルドはまるで彫像のように無表情のままだった。


 二人のやり取りを、ジンやキョウ、バショウがそれぞれの思惑を抱えながら見守っていた。場の空気は静寂に包まれていたが、重々しい緊張感が漂い始めていた


 キョウは、内容が完全に理解できているわけではないにもかかわらず、真剣な表情でバルドとランの会話に耳を傾けている。だが、その目線は常にバルドの動きを捉えており、警戒の色を隠さない。


 一方で、バショウの興味は既に別の方向へと移っていた。ムカデの巨大な死体に釘付けになり、その異様な姿を観察している。やがて、ジンと共にムカデの亡骸を眺めながら話しかけてきた。


「流石我らが長だなぁ。よく仕留めたもんだな?こんなデカブツ、しんどかったろ?」


 バショウの軽い口調に、ジンは苦笑交じりに答える。


「正直しんどかったですね…結果が全てですが全員で来たら直ぐに終わったと思いますし、バショウが弓でムカデを、バルドの相手は俺が、キョウが上手くムカデの囮をしつつ弓で交戦、ランがトドメの魔法って流れで…助けに来てくれて本当に有難うございます。」


 ジンは下手したら死んでいた状況だったのを反省して

 バショウと並んでムカデの食事や溶岩の中でも生存できる理由を考察していた。


 話の中でムカデがジンに放った液体の場所をみると、液体自体は既に乾いていたが周辺が変色して溶けていた事から毒液だったのを確信して本当に命があって良かったと噛み締めていた。


 時間が過ぎランの呼ぶ声でジンとバショウは二人の元へと駆け寄った。


「話を聞きました、質問等あるかも知れませんがまずは会話から知り得た状況を3人に伝えます。」


 ジン達は頷き、確認したランは話を続けた、その間もバルドはただ無表情に立ち尽くしていた。


「そうですね。」


 ランは静かに語り始めた。その声には、これから話す内容の重みを感じさせる慎重さがあった。


「まず、300人ほどいるとされていたバルドの眷属たちについてですが、予想の通りムカデのエサになったようです。ただ、そもそも最初からそんなに多くはいなかったみたいで、実際は100人に届くかどうかの数だったようです。」


 その言葉に、場の空気が少しざわつく。ランは間を取らず、続けた。


「これに関しては、国の調査能力に疑問を感じざるを得ませんが……。それと、エサにした理由については、ジンの考えとは違うようです。」


 ジンの眉が僅かに動いたが、口を挟むことはしなかった。ランの話を最後まで聞こうという姿勢を貫く。


「そもそも――」

 ランは少し息を整え、核心を口にする。



「あのムカデこそがバルドだったようです。」




 その瞬間、ジンたちは一斉に驚きの表情を浮かべた。先ほどまで激しい戦いを繰り広げていた相手が、まさかその正体だったとは。


 ジンも言葉を失ったが、心の中では疑念が膨らんでいた。


(確かにあのムカデからは古代語や理念の魔法を使う攻撃を受けた。しかし、それがどうしてバルドだと言えるのか……。)


 心の中で反論の言葉を探しつつも、ランの続きを待つことにした。


「ジンの話を聞いていて、私も最初は嘘をついているのではないかと考えました。」


 ランの声は落ち着いていたが、確固たる決意が滲んでいた。彼女の視線が鋭くジンを捉える。


「では、ジンが受けたあの魔法は何だったのか。そして、今ここで古代語を使って話している“あなた”――その正体は一体何者なのか。」


 彼女の言葉は場に重苦しい沈黙をもたらした。誰もが息を殺し、次の言葉を待つ。


「彼は……バルドから生まれた“神”のようです。」


 その一言に、空気が一変した。驚愕と困惑が混じり合い、全員の視線がランに集中する。ランは話を続けた。


「かつて、バルドは戦いに敗れ、その身体を失いました。ここまではジンの話とも一致しています。しかし、その後のことが重要です。バルドは“神の世界”――そう表現すべき領域へ移り、そこで他の神々がしたように、自らの一部を使って新たな神を生み出しました。それが、彼の正体です。」


 ジンは思わず拳を握りしめた。


(神……それもバルドから生まれた存在が、あのムカデだというのか……?)


 ランの話はさらに続く。

「長い年月をかけて、バルドを信仰する眷属たちは神を顕現させる儀式を行いました。しかし、その顕現の器として選ばれたのが――ムカデだったのです。」


 ジンは目を閉じ、深く息を吐いた。だが、どう考えても納得のいかない思いが心の中を駆け巡る。彼は頭を振りながら低い声でつぶやいた。


「神を顕現させるのは、そんなに簡単なことじゃないはずだ……。」


 ランが彼の言葉を拾い上げたように頷く。


「その通りです。神が顕現するには、信仰が完全に一致したとき、そして顕現させる器が“神自身が生み出したもの”である必要があります。それ以外の方法は、例外的に“誓い”によるものだけです。誓いを交わした相手に限り、神は顕現できます。」



 ジンはその説明を静かに聞きながら、さらに深い疑問を抱いた。


 ランは視線を遠くに向けながら語り続ける。


「神々が新たな生命を創造することはできないのです。なぜなら、全ての始まり――秩序の神と混沌の神――その二柱によって世界が作られたときから、神々は“新たな存在”を創り出す力を封じられているからです。」


 キョウが小さくつぶやいた。

「秩序と混沌……全ての神々の始まりか。」


 ランは頷き、さらに続けた。

「秩序の神だけが存在していたなら、世界の全ての生命は同じ形、同じ性質を持っていたでしょう。しかし、混沌の神――その存在が秩序の対極にあり、多様性をもたらしました。そして、その力によって、神々は他の神と“同じもの”を作ることができなくなったのです。」


 バショウが首を傾げながら口を挟む。


「作れないってのは、物理的に無理ってことか?それとも、なんか作る気が湧かないとかそういう話か?」


 ランは微かに微笑んだが、その答えははっきりしていなかった。


「それを知る者は誰もいません。ただ、だからこそ神々は新たな生命を自ら作り出すことができないのです。だから、“神は神を創る”――自らの一部から神を生み出し、それによって世界に変化をもたらそうとするのです。」


 ランの語りは、まるで深淵を覗くような壮絶な内容だった。神と人、そしてその狭間にいる者たちの歪んだ歴史が次第に明らかになっていく中、ジンたちは言葉を失いながら話を聞き続けていた。



「バルドが昔作ったムカデは、ほとんどがすでに息絶えていたそうです。そして、この地にいる個体を偶然見つけた眷属たちは、より強力な存在として神を顕現させようと良かれと思って行動したようです。」


 ランは静かに言葉を紡ぎ続ける。


「バルド自身も最初はそれを気にしていなかった。自分の身体ならば、後でどうにでもなると思っていたようです。けれど、次第に状況が変わっていったのです。」


 ジンは眉をひそめ、耳を傾けた。ランの話から、バルドの苦悩が伝わってくるようだった。


「バルドは、自分が作り出した神を顕現させようともしたようです。しかし、この地は既にバルド自身が支配する“セイクリッドランド”。この土地で彼を顕現させることは叶いませんでした。そこで、別の場所で顕現を試みたのですが……その結果、隠れて力を蓄えようとしていたところを見つかってしまったのです。」


 ジンたちは沈黙の中でランの説明を受け止めていた。彼女の言葉には、神と眷属たちが陥った悲劇が色濃く映し出されていた。



「彼が作り出した生命体は非常に弱く、すぐに死んでしまったようです。それで、別の身体が必要となり、ナーベル族の男性と“誓い”を立てたのです。」


「誓い……」ジンが小さく呟く。


「そうです。」ランは頷く。


「その誓いの内容は、彼が身体を得ることと引き換えに、ナーベル族の男性は一族の繁栄を願ったものでした。しかし、戻ってバルドの前に現れたとき、バルドは怒り狂ったそうです。なぜなら、彼が使っていた身体は、バルドの眷属の身体だったからです。」


「バルドは暴れ、その怒りの中で眷属たちを食らい始めた。なぜそうなったのか――もしかすると、ムカデと同化しつつあったことが原因かもしれません。その姿を目の当たりにした信者たちは次第に信仰を失い、ついには、バルドそのものではなく、ムカデとなった彼を新たな“神”として崇めるようになったのです。」



 ジンはその言葉を飲み込みながら、立ち尽くしている“彼”に視線を向けた。



「そして、彼自身もまた、ナーベル族の男性の願いを果たすため、あるいは同化してきた自身の意思に従って行動するようになりました。けれど、バルドが望んでいたのは闘争。その結果、狼族の軍勢が集結し、進軍を開始したのです。バルドはそれに応じ、多くの眷属を力で歪め、戦争に備えました。」


 ランは一息つき、目を伏せた。



「しかし、ナーベル族の男性が願ったのは、戦いではなく一族の繁栄でした。彼は何とかしてバルドを止めようと、残りの信者や眷属を使ってバルドからムカデを引き離そうとしました。しかし、時すでに遅く、バルドは完全にムカデと同化してしまっていたのです。」



 ジンたちは黙ったまま立ち尽くしている“彼”を見つめていた。ランの話が紡ぎ出した物語が、どれほどの悲劇を内包しているのかを誰もが理解していた。


「彼が最初にジンと会ったとき、すでに諦めていたそうです。」ランの声が少し震えた。


「“ここには神はいない”――そう言ったのは、バルドの中に残っていた自分自身を知っていたからでしょう。そして、彼はバルドのために戦うことを選びました。しかし、ジンに敗れたことで、自分が戦う意味を見失ってしまったのです。」



 ジンたちはランの話を聞きながら、目の前に立ち尽くす神を見つめていた。その姿はどこか儚げでありながら、底知れない力を秘めているようにも見えた。ジンはふと考えた。


(もしかしたら、バルドも望んでいなかったのかもしれない。ただ呼び出され、自らムカデと同化し、最初は繁栄させていたはずの眷属たちを自ら食らう。自分の一部であり、親でもあるバルドを見て、彼は何を思っていたのだろうか。)


 そう思ったとき、ジンの中で一つの答えが浮かび上がった。


(神が人を使うのではなく、人が神を都合よく使っているだけなのではないか……。)



 ランの話が終わり、ジンは一つの質問を口にした。

「ここまでの顛末はわかったが……彼はどうしたいんだろう?戦う意思はないと言っているが、今はただナーベル族の男性の願いに従って生きるだけなのか?」


 その問いを受けて、ランは神に向き直り、ジンの言葉をそのまま伝えた。


 神はしばらく沈黙したまま動かず、無表情で佇んでいたが、やがてランに返答を返した。その声は低く、響くようでありながらどこか空虚さを帯びていた。


「ナーベル族の男性の願いを叶えたい。そして、もし戦いが避けられるのならばそうしたい。しかし、戦うことが避けられないのなら、その願いのもとに戦う。」


 ランがその言葉をジンたちに伝えると、沈黙を破ったのはバショウだった。



「虫が良すぎるだろ。」



 バショウは腕を組み、どこか呆れたような口調で続けた。


「まあ、神様にこんな感情を抱くのも失礼かもしれんが……正直、憐れみを感じてるよ。それでも周辺の村や町は黙ってないだろうし、狼族も許すはずがない。」


 キョウも口を開く。


「確かに。俺たちがここで見逃しても、狼族は絶対に許さないだろう。それに、今回の任務内容を思い出せ。国が討てと命じた“バルド”は、間違いなくこの彼だ。それが誤りだったとしても、俺たちが見逃した結果、狼族との関係が拗れれば、不浄の神だって黙ってはいないはずだ。」


 ジンは静かに頷いた。

「そうだな。」


「俺たちは、ただ得たい情報のために話を聞いただけだ。そもそも、さっきは命のやり取りをしていたんだ。俺が死ぬ可能性だってあった中で、見逃すなんて発想にはなれない。」


 ジンの言葉には強い意思が込められていた。戦うことを避けたいという神の願いと、それを許さない現実。彼らはその間で決断を迫られているのだと、全員が感じていた。


 ジンは深い息をつき、決意を固めランに向き直り、冷静な声で語りかけた。


「ラン、彼に伝えてほしい。見逃すことはできない、と。俺は貴方を切る……だが、もし貴方がこの世から離れることで、残るのがナーベル族の男性だけになるのなら、戦う必要はなくなる。だが、このまま戦えば、そのナーベル族の男性も死ぬだろう。そして、その願いも叶わなくなる。」


 ランは頷き、ジンの言葉をそのまま彼に伝えた。しばらく沈黙が続いた後、初めて彼の顔に感情が浮かんだ。悲しみがその表情を覆い尽くしていた。そして、ランに静かに返答する。


 ランはその返答を、ジンに伝えた。


「できないそうです。一度誓いを立て依り代とした身体を出ることは、たとえその誓いがなくなったとしても、不可能だと……。」



 その言葉に、ジンは目を伏せた。深い落胆が胸を突き抜ける。


(結局、俺の選択肢は一つしかないのか……。)



 彼は静かに名もなき神を見つめ直した。そこに立つ神は、自身の運命をすでに悟っているかのようだった。だが、その瞳の奥には僅かな覚悟と諦めが混ざり合っているように見えた。



 ジンは思い浮かべる――自分が守りたい大切な者を。そして、何度も誓いを立ててきた自分自身の決意を思い出す。


(同じ結末にはさせない……。)



 話し合いは終わり、ジンはバショウ、キョウ、ランに下がるように指示した。


「三人とも、ここからは俺一人でやる。」


 三人が退くと、ジンは静かに刀の鞘に手をかけた。その一方で、名もなき神もまた、静かに太刀を構える。互いに一言も発しないまま、場にはただ緊張感だけが漂っていた。



 ジンは歩み寄るように、静かに近づきながら鞘から刀を抜いた。そして、太刀の間合いに入る。



 その瞬間、名もなき神が渾身の力を込め、太刀を振り上げた。その動きには洗練された技術は感じられなかったが、生きたいという一心から放たれた渾身の一撃だった。しかし、ジンは半歩横に避け、太刀は彼の身体を掠めることすらできなかった。


 神はそのまま太刀を横に振り抜いた。しかし、その一撃もまた、ジンが深く身体を沈めたことで頭上を過ぎ去った。その刹那、ジンは刀を強く握りしめた。


(もし、神に生まれ変わりがあるのなら――次こそ幸せになってくれ。)


 ジンは心の中でそう願いながら、一閃を放った。その一撃は静かに、しかし確実に名もなき神を切り裂いた。


 神の身体は静かに崩れ落ち、その姿は消えていった。あまりにも静かな最期だったが、その場にはどこか神聖な余韻が残っていた。

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