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魔法使いと皇の剣  作者: 123
2章 戦乱の序曲
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光日の安らぎ

 ジンは「光日の安らぎ」に向かう道すがら、街の賑わいは少しずつ落ち着きを見せていた。夕暮れが近づくにつれ、活気ある市場は徐々に店じまいの準備を始め、人々は家路を急ぐようになっていた。


 宿の看板を目にしたジンは、疲れた体を引きずるように入口へと足を進めた。「光日の安らぎ」は思ったよりも立派な建物で、玄関には丁寧に磨かれた木製の扉があり、中からは暖かな明かりが漏れていた。


 ジンが中に入ると、すぐに笑顔で迎える宿の若い女性が声をかけてきた。


「ようこそ!旅の方ですね?ここは安心して休める場所ですよ。お部屋をお探しですか?」


 軽く頷きながら、持ち合わせた硬貨を取り出した。


「はい、3名と馬2頭と馬車で一泊お願いしたいのですが、これで足りますか?」



 若い女性はジンが差し出した硬貨の束を見て、穏やかな笑顔で頷いた。


「ええ、十分ですよ。この金額なら夕食と朝食も含めたお部屋をご利用いただけます。お疲れでしょう、すぐにお部屋をご案内しますね!」


 そう言うと、彼女はカウンターの奥から鍵を取り出し、ジンに手渡した。


「お部屋は2階の階段を上がって右手にあります。それと、今夜の夕食は一階の食堂でお召し上がりいただけます!馬は此方で裏手の小屋に繋いでおきますので、ゆっくりお過ごしくださいね。」


 ジンは礼を述べ、鍵を受け取った後、宿の静かな廊下を歩いて部屋へ向かった。


 部屋に入ると、清潔感のある木製の家具と、柔らかなベッドが目に入った。窓の外からは夕焼けに染まった街の景色が見え、どこか懐かしい温かみを感じさせた。


(ここは悪くないな…少し休めそうだ。)


 ジンは荷物を置き、軽く息をついた。体の疲れを感じながらも、今後のことを考えずにはいられなかった。


(んーとりあえず、風呂で体を洗い流してから考えるとしよう)


 そう決めたジンは、宿の浴場へ向かった。


 宿の浴場は小さくも快適で、湯気が漂い、旅の疲れを癒すには十分な温かさだった。湯船に浸かり、静かなひとときを過ごす中で、ジンは少しずつ気持ちを落ち着けていった。


(この町ではどれだけの時間を過ごすことになるのか…。次の一歩を慎重に決めないといけない。)


 風呂を上がり、部屋に戻ろうとしたジンは見慣れた顔が宿の女性に話しかけているのが確認できた



 見覚えのある人物——ミエラとアイリーンだった。ミエラは穏やかな笑顔を浮かべながら、宿の女性と何かを話している。


 少し離れた場所にはアイリーンも立っており、周囲を物珍しそうに視線を走らせている


(無事合流できたな)


 ジンは2人に声をかけ


「ミエラ、アイリーンおかえり」


 ミエラはその声に気づき、振り返ると驚いた表情を見せた。


「ジン⋯!服⋯買ったんだ、うん似合ってる」


 ミエラは嬉しそうに微笑みながら一歩近づいてきた。その横でアイリーンも手を腰に当て、にやりと笑った。


「ずいぶんリラックスしてるじゃない」


 ジンは苦笑しながら軽く頷いた。


「お先でごめん、少し疲れが溜まってたから。おかげでだいぶ体が軽くなったよ。それに資金も調達できたしね。2人ともやっぱりアルベストは通貨が違うみたいだ」


 ミエラはジンの話を聞き、安堵したように微笑んだ。


「やっぱりそうなのね…。アルベストの通貨って本当に特殊だもの。準備してくれて助かったわ。」


 一方で、アイリーンはジンをじっと見つめた後、軽く肩をすくめて笑った。


「助かったわ、食事どころか宿もどうするか悩んでたところよ。」


 ジンは苦笑を浮かべながら答えた。


「俺も偶然助けてくれた人がいて、どうにかこうにか稼げた感じだよ。でも、これで一晩はゆっくりできるはずだ。」


 ミエラが少し首をかしげながら問いかけた。


「助けてくれた人って、どんな人だったの?」


「そうだな⋯ちょうどいい頃合いだし、俺の話しもそうだけどミエラ達の話しも聞きながら食事にしようか?」


 ミエラとアイリーンはジンの提案に頷き


「そうだね。私たちも色々あったし、お互いの話をゆっくり共有しよう」



「確かに、こうして集まれたんだから話すべきことは山ほどあるわ!それに食事を抜いたら旅の疲れなんて取れないしね!」


 三人は宿の一階にある食堂へ向かうことにした。食堂は適度に賑わっており、旅人や町の住人たちがテーブルを囲んで談笑している様子が見えた。暖かな明かりと、美味しそうな香りが漂う空間は、三人の疲れた心を少し和らげた。


 ジンがテーブルに案内され、席につくと、宿の若い女性が注文を取りに来た。


「暖かなスープに焼き立てのパン、そして肉の煮込み料理等ありますよ!飲み物は麦酒に薬草を取り入れた物も多数あります!オススメは⋯!」


 ジンが軽く考えた後、苦笑いで女性に


「そしたらオススメの料理と飲み物をお願いします」


 ジンの言葉に、宿の若い女性は嬉しそうに頷いた。


「はーい!それじゃ、本日のオススメをご用意いたしますね。他にご希望があればどうぞ!」


 ミエラとアイリーンもそれぞれ同じ注文をすることにし、三人は料理が運ばれてくるのを待つ間、今日の出来事について話し始めた。



 ミエラは、王城での出来事やアーベン王子との面会について静かに語り始めた。


 会話をしているうちに、湯気を立てるスープと煮込み料理、香ばしいパン、そして爽やかな薬草入り麦酒が運ばれてきた。宿の女性は満足げに微笑みながら言った。


「お待たせしました!どうぞごゆっくりお召し上がりください。」


 三人は目の前の料理を見て思わず笑顔になった。アイリーンが真っ先にスープを口に運び、感嘆の声を上げる。


「おお、これ、思った以上に美味しいわね!」


 ジンも一口スープを飲み、穏やかな表情で頷いた。


「確かに、これはいいな…。こういう食事が旅の疲れを癒してくれる。」


 ミエラも静かにスープを口にしながら微笑み話しを続けた。彼がオステリィアへの同行を希望していること、そしてその背景にある政治的な問題や陰謀についても触れた。


「王子は私たちと一緒に旅をすることで、王族間の内紛を避けたいと言っていたわ。でも、旅が平穏に進むとは限らないとも感じたの。」


 ジンはミエラの話に耳を傾けながら、少し考え込むような表情を見せた。


「王族が絡むとなると、確かに面倒事は増えるだろうなぁ⋯」


 アイリーンはパンをちぎりながら、不満そうな口調で口を挟んだ。


「でもさ、あの王子が本当に協力してくれるかどうか、まだ分からないじゃない? それに、アタシたちを利用するだけ利用してポイ捨てされたらたまったもんじゃないわ!」


 ジンはアイリーンの言葉に軽く頷き、冷静に答えた。


「確かに。利用される可能性がある以上、常に距離を保ちながら進めるべきだろうな。ただ、オステリィアへの旅を進める上では、王子の力が役立つ場面もあるかも」


 そんなジンの反応を聞いたミエラは心配そうに


「ジンは反対じゃないの?」


「んー、反対と言えば反対だけど⋯俺の目的はミエラやアイリーンとちょっと違うからなぁ、それこそオステリィアに行くまでなら別に何でもいいかなぁ」


 ジンの率直な言葉に、ミエラは少し驚いたように目を見開いた。


「そう言えばジンの目的…船でノストールに聞いてた事だよね⋯ごめん、謁見の際に嘘ついてたけど聞いてもよかった?」


 アイリーンも興味を引かれたように身を乗り出した。


「アンタ、前からちょっと言葉を濁してたけど、何を考えてるの?」


 ジンは少し間を置き、二人の視線を受け止めながら静かに口を開いた。


「俺の目的か…。船で話した通りだよ。アスケラと神の肉を探してる」


 彼は一度スープを口に運び、視線をテーブルに落とした。食堂のざわめきの中、少しだけ重い沈黙が流れる。


 ミエラはすぐにその意図を探るような視線を向けた。


「ジンの探し物は知ってる⋯何でそれを探してるのかが聞きたい事だったんだけど」


 ジンはスープをゆっくりと飲み干し、穏やかながらも真剣な眼差しで二人を見た。


「何でかは話せない。それこそ俺がオステリィアに行くのは目的へ向かう為に通らないとだし、オステリィアに行った後は別れだと思う」


 ジンの言葉に、ミエラとアイリーンは驚き食堂のざわめきが遠くに感じられるほど、テーブルを囲む三人の間には静寂が流れた。


 ミエラが先に口を開いた。


「別れるって⋯もしかしてベイルガルドにいくの?」


 その声には驚きと心配が混じっていた。アイリーンもミエラに続けて驚いたように


「別れるなんて、急に言われるとびっくりするわね、まぁ元々なりゆきだったけど」


 ジンは二人の反応に苦笑いをして正直に答えた。


「まぁ⋯通り道みたいなものだし、ベイルガルドに行くのがアスケラに一番近い道だと思う。それに神の肉に関しても⋯オーデントとベイルガルドの戦が本格的に開始されたら難しいだろうから」


 ジンが申し訳なさそうに言うとミエラは静かに聞きながら、真剣な表情で問いかけた。


「ジンの目的は分かった。覚悟を持っているか分かるけど、一緒に旅をしてる仲間として、助け合いたいって思うの。何かあったら頼ってくれると嬉しい」


 ジンはミエラの言葉に一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに微笑みを浮かべた。


「ありがとう、ミエラ。でも、俺の旅はもともと一人で始めたものだ。ミエラ達にリスクを背負わせるのは本意じゃないんだ。」


 アイリーンはそんなジンの様子に呆れたようにため息をつきながら、軽く肩をすくめた。


「ったく、一人でカッコつけるわね。ジン、アタシらはもう十分危険な目に遭ってきたの。今さらリスクが増えたってどうってことないわよ。頼るだけタダ何だから」


 ジンはその言葉に感謝して静かに頷いた。ミエラとアイリーンはその様子に微笑みながら頷き、テーブルを囲む空気が一気に和らいだ。


 三人は再び料理に手を伸ばしながら、次の旅程について語り合い始めた。


 その夜、宿の部屋でそれぞれが静かに休む中、ジンは窓の外に広がる星空を眺めていた。


(そう言えば今まで俺は仲間達⋯守るべき部下と一緒だったなぁ)


 ジンはゴリョウ大陸での仲間達を思い浮かべていた其々大切な仲間だったが、あくまで部下として接しようと言葉や態度で線を引いていた


 海賊達やミエラ達と過ごし、立場等忘れて刀を振るっている自分をみたら、かつての仲間はどう思うか⋯思案にふけっていたジンは微かに感じる気配に意識を戻された


 宿の外、既に遅くなり賑やかだった食堂も閉めた頃合い


(酔っ払いや通りすがりじゃないな⋯上、屋根か)


 ジンは気配を探るように静かに動いた。窓を少しだけ開け、風の音に紛れてその存在を確かめる。


(確かに上だな。足音を抑えている…)



 相手がただの酔っ払いでないことは明白だった。ジンは素早く手近な布を取り、腰に巻いて刀の柄を確認した。


(こんな時間に屋根で動き回るなんて、何か目的があるんだろう。)


 そっと部屋を出て、廊下を歩く。


 宿の明かりは控えめに灯され、他の宿泊客たちの気配も感じられるが、皆深い眠りに落ちているようだった。


 ジンはミエラ達を起こそうか一瞬悩んだが気配の目的が自分達でなければ迷惑だろうと一人で様子をみることに決めた


 階段を降りる代わりに、ジンは裏手の窓へ向かい、そのまま器用に窓枠を掴んで外へと身を乗り出した。

 軽々と地面に降り立つと、宿の側面にある屋根へ続く道を探す。


(さて…どんな相手が待っているか。)

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