表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いと皇の剣  作者: 123
2章 戦乱の序曲
50/179

アーベン・オーデント

 サイスルとの話を終え、城内の廊下を進むミエラたちとバスバの前に、一人の従者が静かに現れた。彼は整った身なりに身を包み、洗練された動きでバスバに一礼をした。


「バスバ様、少々お時間をいただきたく。」


 その声には、ただならぬ緊張感が漂っていた。従者はバスバの耳元に何かを囁いた。その表情は真剣で、ただの用件ではないことを伝えていた。


 バスバはそれを聞くと、眉をひそめ、静かにミエラ達に呟いた


「急ぎの中で、すまないが時間をくれないか?」



 ミエラとアイリーンはただならぬ雰囲気に顔を見合わせて


「何かありましたか⋯?」


 バスバは一瞬躊躇した後、静かに頷いた。


「どうやら少し厄介な事態が起きたらしい。詳細は話せないが、君達に会いたいと言う方がいる」


 ミエラとアイリーンは顔を見合わせミエラは不安げにバスバを見つめた。


「そちらは構いませんが⋯どなかは言えないと言う事でしょうか⋯?」


 バスバは少し困ったように眉をひそめた後、静かに言葉を続けた。


「すまない。」


 その言葉に、ミエラとアイリーンの表情が緊張感を帯びた。ミエラは深呼吸をしてから、慎重に答えた。


「分かりました。その方にお会いします。」


 アイリーンは腕を組みながら少し警戒した様子でバスバを見た。


「でも、アタシたちを狙ってる連中とかじゃないでしょうね?」


 バスバはその言葉に苦笑いを浮かべながら首を振った。


「それなら私が君たちをここに連れて行くわけがない。城内の安全は保証されている。何かあれば私が守る。」


 その頼もしい言葉に、アイリーンは少しだけ表情を和らげた。


「まあ、そこまで言うなら信じるけどさ⋯でも、警戒だけは怠らないようにしないとね!」


 バスバは微かに笑みを浮かべると、従者に向かって短く指示を出した。


「案内してくれ。」


 従者に導かれる形で、ミエラたちは城内の別のエリアへと向かった。廊下の装飾はさらに豪華さを増し、重要な部屋へ向かっていることを示していた。


 やがて彼らは、厳重に守られた扉の前で足を止めた。従者は扉の前で一礼し、静かに言った。


「こちらです。中でお待ちの方がいらっしゃいます。」


 バスバは扉を見つめながら、軽く頷いた。


「君たちが会う相手だ。私は外で待つが、何かあればすぐに声をかけてくれ。」


 その言葉に、ミエラは頷きながら扉の前に立った。そして、少し緊張しながら手を伸ばして扉を開けた。


 ミエラたちが部屋に入ると、燃えるような赤い頭髪が美しく揃えられた長身の男性が彼女たちを待っていた。


 年の頃は40代ほどで、健康的ながらも細身の体つきをしている。彼の顔には髭ひとつなく、整った容姿が印象的だった。


 その男性は、数時間前にミエラたちが謁見した王、ケイオス・オーデントにどこか似ている。


 しかし、彼が醸し出す雰囲気は柔らかく、威圧感の代わりに落ち着いた知性と品格を感じさせた。身に纏う衣類は簡素ながらも、細やかな装飾が施されており、彼の地位と洗練された趣味をうかがわせる。明らかに戦士として鍛えられた体ではなく、むしろ思索や交渉に長けた人物であることを物語るような細い身体つきだった。


「初めまして、ミエラ、そしてアイリーン。」


 低く落ち着いた声が部屋に響いた。その口調には、確かな自信と威厳が込められていた。ミエラは少し緊張した様子で答えた。


「初めまして。失礼ですが、あなたは…?」


 男性は微かに微笑むと、自らの名前を告げた。


「私はアーベン・オーデント。ケイオスの兄にして、この国の王子だ。」


 その言葉に、ミエラとアイリーンは驚きの表情を浮かべた。


「ケイオス殿下の兄…!」


 アイリーンが声を漏らすと、レオンは軽く頷いた。


「そうだ。そして今日は、君たちに少し話をしたいと思っている。」



 アーベンは静かに席を勧め、ミエラとアイリーンに目を向けた。その目には観察するような鋭さがありながらも、どこか温かみを感じさせた。



「まず、我が国の次期王⋯弟との謁見はさぞかし疲れただろう?すまないね⋯あれでも可愛い所が昔はあったんだ」


 アーベンは微笑みを浮かべ


「君たちが時間を割いて来くれたのも嬉しいよ。いや⋯すまない拒否権なんて無いものだったね」


 その言葉に、アイリーンは眉をひそめ


「わかってるならアタシたちを呼んだ理由を話してほしいわね」


 アーベンはアイリーンの礼儀ない言葉を真剣に受け止め、怒ることなく微笑みを浮かべ静かに頷いた。


「すまない。謝りつつ時間を割いていたね⋯ここに呼んだのは、君達に頼みがあったね⋯この国の人間には頼めないお願いさ」


 ミエラはその言葉に慎重な表情を浮かべながら問いかけた。


「私達にですか⋯?」


 アーベンは優しい目で彼女を見つめた。


「ああ、お願いというのは、私もオステリィアに行く旅に同行させてほしいのだ。」


 その言葉に、ミエラとアイリーンは一瞬言葉を失った。王子であるアーベンが、自分たちと共に旅をしたいと言い出すなど、全く予想していなかったからだ。


 アイリーンが真っ先に口を開いた。


「ちょっと待って。それってどういうこと?あんた、国の王子なんでしょ?勝手に旅なんてしていいの?」


 アーベンは苦笑を浮かべながら軽く肩をすくめた。


「確かに、私の立場を考えればそう思うだろう。しかし、この国の未来を考える上で、オステリィアに行くことが必要になってね⋯正確にはオステリィアを支える賢者達の力が必要なのだ」


 ミエラは慎重に彼を見つめながら問いかけた。


「ベイルガルドに対抗する為でしょうか?」


「ですが、どうして私たちと一緒に行きたいのですか?王子であれば、専属の護衛や部隊を連れて行くことも可能なのではないですか?」


 アーベンは静かに頷きながら答えた。


「その通りだ。しかし、あまりに大きな動きは、この国や他国に余計な警戒心を抱かせることになる。また、私が調べたいのは公式な記録や資料に載らない“真実”だ。それを見つけるには、目立たず行動する必要がある。」


アーベンの言葉に、ミエラは少し考え込んだ表情を浮かべた。公式な記録に載らない「真実」という言葉が、彼女の興味を引いたからだ。


アイリーンは腕を組み直しながら、疑わしげに口を開いた。


「で、その真実ってのは何なの?わざわざ王子が目立たずに行動しなきゃならないほどのこと?」


アーベンは一瞬視線を落とし、慎重に言葉を選びながら答えた。


「私は一連の流れが仕組まれた物だと考えている。そして弟もそれに気付いているが⋯それでも我が弟は歩みを止めないだろう」


ミエラは息を呑み、真剣な眼差しでアーベンを見つめた。


「仕組まれてるですか?」


アーベンは静かに頷き


「あくまでも考えのだがね⋯我が父が床に伏せ、弟が王の座につき⋯今やベイルガルドとの戦が始まる。大まかな動きだけで言えばこれらが推測なのだがね⋯細々起きてる事案もいれたら相当な数になる」


アーベンはそこから少し考える素振りを見せたあと

話を続けた


「ともかくだ、私の今の立場は⋯知っているね。弟と私は争っていないが、どうも我らの立場を理由してる者もいてね、彼らは私や弟どちらが王位に就くかどうでもいいのだよ、自分達が立場や目的を達成できればね」


アーベンの言葉に、ミエラは眉をひそめた。その話には、聞いていた。


ただの兄弟間の問題だけでなく、背後に暗躍する者たちの影が見え隠れしている事も


「ですが、騎士や護衛を使えば動きが分かりやすいからと言っても、私達と共に行っても同じではないでしょうか?それに王子からすれば素性の分からない私達に命を預ける事になります⋯もし王子の命を狙うものがいたら私達が助けると何故⋯」


ミエラの慎重な問いかけに、アーベンは微かに頷いた。


「その通りだ。それどころか君達を危険に合わせることになる。もし襲撃者がいて私が命を落せば⋯責任に問われ更に悪循環になるだろうね」


アイリーンはアーベンの返答を聞き苛立ちを隠せない様子で言葉を発した。


「結局、あんたたちの問題に首を突っ込まされてるじゃない?それって、この国の王族としてどうなのよ?」


アイリーンの率直な言葉に、アーベンは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに苦笑を浮かべた。


「君の言う通りだ、アイリーン。」



「私の行動は王族としての規範に外れるかもしれない。だが、この状況を見過ごしていれば、私の役割はただ王家の飾り物になる。それでは何も解決しないし、この国の未来を守れない。」


その言葉に、アイリーンは


「ふん、きれい事を並べてるけど、結局あんたが危険を冒す覚悟があるかってだけの話じゃないの?アタシ達の事情はお構いなし?」


アーベンは静かに目を伏せ、低い声で応じた。


「返す言葉もない。先程の返答を返せば、君達に対する信用は弟との問答や腕前で確かめている。その上でお願いしたのが君達の目的の裏に探してる、一連の真実がちらついていたからだ」


ミエラはアーベンの言葉に困惑しながらも、その真剣な眼差しに目をそらすことなく問いかけた。



「私たちの目的と、王子の言う真実が繋がっている…その確信があるのですか?」



アーベンは微かに微笑み、頷いた。



「確信というには足りないかもしれないが、私の父が病で床に伏せているのは知っているね⋯?あれは恐らく神の力によるものだ。サイスルの魔法によって一命を取り留めているが長くはない。だがね都合が良すぎる⋯皆ベイルガルドに顕現したと言われてるアスケラの力だと言うが⋯あくまで噂でしかない。」



アーベンはその言葉を皮切りに真剣な声で続けた。


「何より、王が弟の政策⋯信仰者狩りと呼ばれてる事を許したからと言うが、それがベイルガルドに何の損があるのか、弟はあくまで自国ないでその政策を行っているだけだ個人的には容認できる物ではないが、それをしている弟ではなく父を狙えば、ますます勢いを増すだけだ。」



アーベンの言葉に、ミエラは深く息をついた。


彼の話す内容は、この国の王族が抱える問題だけではなく、彼女たちの旅路とも交錯し得る可能性が感じられたからだ。


「つまり、王子様はお父上の病と、弟君の政策に背後から関与している何かがいると疑っているのですね?」


ミエラの静かな問いかけに、アーベンは頷いた。


「その通りだ。私がオステリィアを目指す理由は三つ。オステリィアの魔法使いに協力の要請。もう一つは父の病を調べる。最後は弟と私の関係を利用させない為」


アーベンの言葉に、部屋の空気がさらに緊張感を帯びた。


語る三つの理由、二つは分かった


オステリィアの協力については、母から魔法使いを他国に派遣していたと聞いていた。


父の病⋯真実の追求も含めて、本当にアスケラによるものかと調べる為


しかし最後だけがミエラにはわからなかった。


自分達を同行者に選んだ理由だろうか


ミエラはその言葉を受け止め、慎重に口を開いた。


「父上の病や、魔法使いの要請はわかります。ケイオス様とアーベン様の関係を理由されない為にが分からず」


アーベンは少し考える素振りを見せた後、静かに答えた。


「君達と一緒にいく理由だね⋯先程も話したが真実に近づくためもあるが、何より私が死した時だ。騎士を護衛に使い命を落せば、護衛についた騎士達への疑いがいくだろう、必然的に弟への疑いだ。仮に生き残り襲ってきた連中が弟の指示で動いてる等嘘を言えば、戦争を控えたこの国で不和を生む」



アーベンの説明に、ミエラは考え込むように視線を落とした。彼の言葉には確かに一理あるが、王族としての重圧が絡む複雑な事情が見えてきた。


「つまり、私たちが同行することで、王族間の内紛に巻き込まれる危険性を避けられるということですね?」


ミエラの冷静な問いかけに、アーベンは真剣な表情で頷いた。


「その通りだ。君たちは外部の者として、私の行動に対する中立的な立場を持っている。それに、謁見の際にこの国の核となる者がそれを聞き。この目でみている。仮に私が死んでも弟が狙った襲撃者に消されたと思う者はいても、わざと私が命を落とすように護衛に指示を出したと思うまい。だからこそ君達を選んだのだ⋯弟が信じてると言った君達を」



アイリーンは腕を組んだまま、苛立ちを隠さずに吐き捨てた。


「ふん、要するにアタシたちは便利な外部の盾ってわけね。まあ、あんたが正直に話してくれるのはありがたいけど、こっちの負担が増えるのは勘弁だわ。」



アーベンは苦笑を浮かべながらも、目の奥に揺るぎない決意を宿してアイリーンに応えた。


「そう思われても仕方がない。だが、君たちの助力なしにこの旅を成功させることは難しい。それだけは理解してほしい。」


ミエラはアイリーンをちらりと見やり、静かに問いかけた。


「もし、私たちが同行を拒否した場合、王子様はどうされるつもりでしたか?」


その言葉に、アーベンは一瞬沈黙した後、真摯な声で答えた。


「その時は、私一人でも向かうつもりだった。だが、それでは私の命運は尽きるだろう。私は君たちを利用している。だが旅が成功すれば、この国の未来にとっても重要な意味を持つ。そのために協力を求めている。」


ミエラはその言葉を受け止め、しばらく考え込んだ。彼の誠実さは伝わるが、その決断がもたらす影響の大きさが心を揺るがせる。


「私たちも命がけで旅をしています。ですが、王子様のお願いがオステリィアへの同行だけでしたら私は構いません」


そう言って、ミエラは頷いた。


「まあ、ミエラちゃんがそう言うなら仕方ないわね。ただし、王子様、くれぐれもアタシたちの足を引っ張らないでよね。」


アーベンは微笑みながら深く頷き、二人に感謝の言葉を述べた。


「心から感謝する。君たちの決断が、この国に光をもたらすと信じている。」


ミエラはその言葉に静かに首を振り


「ですが、もう一人私達の旅の仲間に聞かないといけません。なのでそのお言葉はまだ頂けません。本日中にこの国を出ることはないので、確認して再度お伺いしても大丈夫でしょうか?」


アーベンは頷き


「勿論だ。私も旅の準備をしたいからね。恥ずかしながら闘う身ではない。それでも邪魔にはならないようするつもりだ」


アーベンは改めて二人に頭を下げた。その真摯な態度が、彼の誠意を物語っていた。


ミエラは王子と言いながらも何処か親しみやすく、柔軟な姿勢を持つ王子が何故王位で指示されていたのか分かった気がした

ミエラはそんな王子に頭を下げ、アイリーンと共に部屋を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ