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魔法使いと皇の剣  作者: 123
1章 出会い
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酒場の会合

 夜になり、ルスメリアの町は日中の喧騒から一変し、静かながらも艶やかで幻想的な顔を見せ始めていた。


 昼間の太陽の下で活気に満ちていた長く整理された一本道。


 その通りは今、柔らかな光に照らされ、昼間とは異なる表情を見せていた。


 日中に食材や日用品を売っていた商店や露店はその役割を終え、夜にはまた別の顔を見せる。アクセサリーや手作りの装飾品、そしてどこか異国めいたガラクタに見える品々が並べられた夜市が、通りを鮮やかに彩っていた。


 町中に敷き詰められた光石は、暖かい輝きで辺りを照らしている。その光はどこか温もりがあり、昼間とは違う雰囲気のルスメリアを演出していた。


 ミエラはそんな町の中を歩きながら、昼間とは違う穏やかな賑わいに目を奪われていた。


 見知らぬ土地で、自分が場違いだと思っていたはずなのに、この光景を目にすると、不思議と自分がここにいることを許されているような感覚が湧き上がってきた。



 ミエラは夜のルスメリアを歩きながら、昼前に訪れた酒場へと向かっていた。


 酒場の主人から、「夜に来い」と言われたためだった。昼間に彼から聞いた話では、大陸を渡る者たちは、単独ではなく必ず何人かでまとまって行動するものだという。


 その人数が揃ったときに、船乗りを雇い、大陸へ向かう。だから、まずはそういった連中を探せと言われた。


「特に、魔法使いなら引く手あまただ。あんたの力があれば、困ることはないだろう。」


 主人のその言葉を胸に、ミエラは目に映る数多くの商店や露店の誘惑に足を止めそうになる自分を律しながら、酒場へと向かい続けた。



 酒場の前にたどり着くと、昼間の様子とは全く異なる光景が広がっていた。昼間は酔い潰れた人間が転がり、静かな薄暗さが漂っていたその場が、夜には別世界のようだった。



 外で飲む者たちの騒がしい喧騒が通りに響き渡り、笑い声や歌声が夜の空気を賑わせていた。通りを歩く人々も楽しげに振る舞い、その賑やかさが酒場の中からも漏れ出している。光石の暖かな光が建物全体を照らし、闇夜の中でも明るく輝いていた。


 ミエラは、その光と声に満ちた光景を目にして、まるで夢を見ているかのような錯覚に陥った。それほどに、夜の酒場の雰囲気は非日常的であり、現実離れしていた。


 しかし、不安が心の隅を掠める中、ここに来た目的を胸に秘めて意を決し、酒場の扉を開けた。



 酒場の中を見渡すと、そこには様々な種族が入り混じり、互いに肩を組みながら笑ったり、時には怒鳴り声を上げたりして騒いでいた。


 ミエラはその賑やかな人混みを掻き分けながら、昼間会った酒場の主人を探していた。ふと、その主人を見つけた瞬間、彼女は思わず目を見張った。


 昼間はテーブルに足を投げ出してだらしなく寝ていた男が、今や酒場一番の労働者と化していたのだ。


 次々と厨房からカウンターに出される料理を器用に手に乗せ騒がしく動き回る人混みをまるで小さな妖精のようにかわして、テーブルにおき、空いた手で空の皿を持ち動き回る身体に次々とだされる注文を、返事のみで暗記していた。


 忙しく動き回る主人に話しかけるタイミングを掴めず困っていると主人は目敏くミエラに気付き、皿を運びながら声をかけてきた。


「魔法のねぇちゃん、上に登ってすぐ手前から二つ目のテーブルに行きな。」


 それだけ言うと、またすぐに業務へと戻っていった。その手際の良さと効率的な動きは、もはや芸術的ですらあった。


 ミエラは感謝の気持ちを胸に抱きながら、彼の指示に従い階段を登ることにした。


 二階に足を踏み入れると、そこは一階の喧騒とはまるで別世界のようだった。


 静かな空気が漂い、テーブルに座る人々は声を抑えながら各々の話に集中し、酒をゆっくりと楽しんでいた。誰一人として隣や後ろのテーブルに声をかける者はいない。その静けさのおかげで、ミエラは労せずに目的のテーブルへ向かうことができた。


 主人に言われたテーブルに目を向けると、そこには異質な雰囲気を放つ二人組が座っていた。


 一人は口から顎まで濃い髭に覆われた30代前後の男性で、髪は癖っ毛で少し青みがかった色をしていた。その無骨な風貌に加え、高級そうな鎧で身を固め、腰には立派なロングソードを差している。


 しかし、ミエラが驚いたのはその隣に座るもう一人だった。


 髭面の男性よりも頭二つは大きいその人物は、物語の中でしか見たことのないような「ドラゴン顔」をしていた。身体全体は重厚な鎧で覆われているが、露出している肌は青く、硬そうな鱗に覆われている。その存在感は圧倒的で、ただそこにいるだけで空間を支配するようだった。



 さらに、武器を見てミエラはまた驚愕した。



 隣の椅子に置かれているのは巨大な弓。その形状は特殊で、ただの武器ではなくまるで芸術品のようだった。その弓は立てた場合、間違いなくミエラの身長を超えるほどの大きさで、使用するには尋常ではない膂力が必要だろうと思われた。


 ミエラは少し躊躇した。


 この二人組に話しかけるという行為が、果たして正しいのかどうか。だが、酒場の主人が彼らを示したのだから、彼らはきっと何かを知っているに違いない。意を決して、ミエラは静かにテーブルへ歩み寄った。



「はじめまして……私はミエラと言います。船を探している旨を酒場の主人に話したところ、こちらを案内されました。」


 ミエラはどちらに声をかけるべきかわからず、二人の間に立ち、自然に両方へ向けて話しかける形を取った。ミエラの声は少し緊張を含んでいたが、しっかりと聞き取れるものだった。



 一瞬の静寂の後、驚くべきことにドラゴン顔の人物が応えた。その声は高く、澄んだ女性の声だった。


「あら?あなたがそうなの?大丈夫、緊張しないで!ある程度話は聞いてるから」


 そう言いながら、鱗に覆われた鋭い爪を持つ手を軽く振った。その仕草は意外なほど優雅で、鋭い外見とは対照的に穏やかな雰囲気を感じさせた。


 その声は――とても可憐だった……。


 ミエラは挨拶を済ませると、誘導される形でドラゴン顔の女性が座る隣の席に腰を下ろした。


 隣の椅子に置かれていた巨大な弓は、ミエラのために壁に立てかけられたが、その存在感は凄まじく、今にも倒れてきそうで少し緊張させるものだった。


「やだぁ~、アタシ、本当に嬉しい!だって、大陸を渡る話になると女性なんて全然いないのよ。だから、このままだと船に乗る女性がアタシ一人かと思って、すっごく不安だったの!」


 ドラゴン顔の女性――アイリーンの言葉は弾んでおり、嬉しいのか怒っているのかわからないような表情で早口に語り続けた。その見た目と声のギャップがさらに混乱を誘う。


 しかし、そんな彼女の勢いを遮るように、髭面の中年男――エイランが軽く咳払いをして口を挟んだ。


「あー、アイリーン、一旦落ち着いたらどうかな?まだ自己紹介の後でミエラ嬢も困っているようだからね。」


 エイランの助け舟に感謝しつつ、ミエラは二人を見た。


 アイリーンはミエラが声をかけた直後から自己紹介を始めてくれた。その積極的な姿勢には助けられたが、エイランが自己紹介をしている間も、いそいそと隣の席を片付けてミエラの座る場所を整えるなど、落ち着きがない。


 それが沈黙を埋める形にはなっていたものの、ミエラにとっては精一杯の笑顔を返すのがやっとだった。


 その間、エイランの配慮やミエラの戸惑いもお構いなしに、アイリーンはなおもマイペースに話し続ける。



「なによ、エイラン!最初の印象ってすごく大事なのよ?その時の雰囲気次第で、もう『あなたたちと一緒にいるのは無理!』なんてことになるかもしれないんだから。」


 彼女は身振り手振りを交えながら、どこか楽しそうに語る。そのまま、ミエラに向かって続けた。



「ミエラちゃん、最初に見た時にわかったわよ。きっとすごく嫌な目にあってきたんでしょうね……。可哀想に、礼儀正しさの裏で自分を押し殺してきたんだわ。大丈夫!安心して。ミエラちゃんが楽しく過ごせるよう、アタシがしっかりサポートしてあげるから!」



 アイリーンの勢いに圧倒され、ミエラはもはや何も言わず乾いた笑顔を向けるだけだった。


 そして、視線をテーブルに落とし、先ほど運ばれてきたライムジュースを静かに口に運んだ。


 エイランはそんな二人を横目で見ながら小さく溜め息をつき、苦笑を浮かべたが、特に何も言わずアイリーンの言葉を流していた。



 ミエラは、途切れることのないアイリーンの勢いある会話を聞きながら、心のどこかで期待していた。


 いずれ話の流れで、この場が何なのか、アイリーンたちが一体何者なのか、そして自分の目的である「大陸を渡る船」の話題に触れてくれるのではないかと。


 しかし、その気配は一向に訪れず、アイリーンは楽しそうに話を続けるばかりだった。ミエラはやむを得ず、意を決して自分から切り出すことにした。


「あっ、あの……私はその……大陸を渡る船を探していて!それでこの場に来たんですけど、そもそもここが何なのか、どうやって大陸を渡るのかを聞きたいんですけど……」



 緊張しながら発したミエラの言葉に、待ってましたと言わんばかりにエイランが口を挟んできた。


「その通り!いやぁ、説明がまだだったね。ミエラ嬢、うん、うん!では、そのあたりは私から説明するとしよう。」


 エイランの声には妙な自信があり、まるで事態をまとめるのを楽しんでいるようだった。


 その瞬間、アイリーンは話の主導権を奪われたことに不満を感じたのか、低くグルグルと喉を鳴らしながら抗議の仕草を見せる。


 しかし、ミエラとエイランはお互いに視線を交わし、無言の了解のもとアイリーンを無視することに決めた。


 エイランは微笑みながら手を組み、芝居がかった調子で話し始めた。


「まず、私たちは皆、『呪われた大陸』と呼ばれるアルベストを目指している者たちだ。もちろん、君も含めてだよ、ミエラ嬢。それぞれ目指す理由や目的は違うだろうが、そこは船旅の途中で親睦を深めながら聞いていくとしてだ。」


 そう前置きをした後、エイランは少し声のトーンを上げて続けた。


「しかしな、アルベストに渡る船なんてものは、通常はどこにもないんだ!だが、君は幸運だよ、ミエラ嬢。なぜなら、君がここに来る前から、私は既に船乗りや船そのものを確保していたからさ!」


 ミエラはその話を聞きながら、エイランの力強い語りに引き込まれるというよりも、むしろ芝居じみた彼の話しぶりに心の中で苦笑していた。


「ただし、大陸に渡るには厄介な問題がある――そう、結界だ。あの忌まわしい結界をどう突破するか、こればかりは見当もついていなかった。そこで私は、この町で大陸に渡りたいという者を探していたんだ。そして、その中で出会ったのがアイリーンだ!」


 隣のアイリーンは、話の中に自分が登場すると「当然でしょ」とでも言いたげに鼻を鳴らし、得意げな表情を浮かべていた。


「だが、結界をどう突破するかは依然として問題だった。それでも出発は急ぎたい。そこでだ、多くの人に『船を探している者がいたら、夜の酒場で待つ』と伝えて声をかけ続けた。そしたらどうだ、奇跡の神アイミュリスに感謝だよ!朝、酒場に魔法を使う可憐な女性――君だ、ミエラ嬢――が現れたと主人が教えてくれた。そして今に至るわけだ!」


 エイランの語りがひと段落する中、ミエラは彼の話しぶりと、隣で同調して相槌を打つアイリーンを見ながら、二人は話し出すと止まらない点で似ているな、と感心半分に思っていた。


 エイランはさらに身を乗り出し、熱を帯びた声で続けた。


「そこでだ、ミエラ嬢。君が私の船に乗りたいという話なら、大歓迎だ!ただし、結界の問題についてはまだ解決策が出ていない。命の保証ができるかと言えば正直――」


 その言葉を遮るように、ミエラは静かに、しかし確信に満ちた声で口を開いた。


「あの……結界なら、大丈夫です。私が何とかできます。」


 その一言が場の空気を変えた。エイランは驚きと期待の入り混じった声を上げた。


「……何だって?本当か、ミエラ嬢?」


 ミエラはゆっくりと頷いた。その瞳には、確かな覚悟と自信が宿っていた。


 驚いた顔したエイランとアイリーンは顔を見合わせ二人同時に奇跡の神様に感謝を述べていた。


 ミエラは、結界についてエイランとアイリーンに冷静に説明を始めた。


「結界と言われていますが、大陸ごとに性質が異なります。例えば、私たちがいる『グランタリス』では、大陸を出る際には結界に阻まれることはありません。しかし、この大陸に入る際には霧に覆われます。この霧は、一度迷い込むと永遠に抜け出せなくなるため、外部からの侵入を防いでいるのです。」


 母から教えられたこの情報は、エイランやアイリーンも耳にしたことがあるようで、彼らは頷きながら真剣に聞いていた。


「ですが、私たちが目指す『アルベスト』は異なります。そこでは、出る時にも入る時にも強力な結界があります。」


 ミエラは一息つき、間を置いて続けた。



「アルベストの結界は非常に恐ろしいものです。結界を越えようとすると、乗船している者たちは疾病や呪いに侵され、最終的に死に至ります。船員が全滅する一方で、船そのものは大陸に流れ着くことがある。そのため、それを目撃した者たちは、この地を『呪われた大陸』と呼ぶようになったのです。」



 エイランとアイリーンは、知っている話であっても表情を崩さず真剣に耳を傾けていた。その態度に、ミエラは彼らが真摯にアルベストを目指していることを感じ取り、話を続けることができた。



「結界の起源は、その地に宿る神々の力です。かつて神々は眷属たちと共に争い、自らの大陸を守るために他の眷属が容易に侵入できないよう、結界を張りました。アルベストでは、病の神の権威がその結界を維持しています。」


 その言葉に、二人の表情がさらに引き締まった。ミエラは静かに結論を述べる。


「この結界を突破するには、セイクリッドランドと呼ばれる神聖な結界を船に施す必要があります。これにより、疫病の神の権威が船に及ぶことを防ぎます。複雑な術式ですが、私にはその力と知識があります。」



 エイランは腕を組み、じっくりと考え込んだ後、真剣な声で口を開いた。



「待ちたまえ、ミエラ嬢。いまの話だと、神々は他の眷属が侵入できないように結界を作ったわけだ。それなのに、セイクリッドランドを作れば入れるというのは、結界そのものにあまり意味がないように思えるんだが……?」


 その鋭い指摘に、ミエラは一瞬だけ考える素振りを見せた後、冷静に答えた。


「はい、その通りです。ですが、ただのセイクリッドランドでは駄目なのです。」


 エイランとアイリーンはその言葉に目を細め、次の言葉を待った。


「神々は、自らの権威が及ぶ土地にしか結界を張ることができません。そして、既に存在する結界、つまりその地に宿る神の権威を破るのは非常に難しいのです。」

 

 

 ミエラの言葉は重く響き、二人は真剣な表情で耳を傾けていた。しかし、その顔には次第に困惑の色が浮かび始めていた。


「だからこそ――」


 ミエラは間を置き、二人を見つめながら、力強く続けた。


「結界を作った神の権威と同じセイクリッドランドを作る必要があります。そして、その術式を施すことができるのが、魔法使いです。私にはそれができます。」


 エイランとアイリーンはミエラの話を聞き、驚いた様子で彼女を見つめた。


「ちょ、ちょっと待ってよ!ミエラちゃん、なんでそんなことがあなたにできるの?」


 アイリーンが声を上げると、エイランも真剣な表情で付け加えた。


「ふむ、すまないが、私も命を預ける身として聞かせてもらいたい。いざ向かって死にました、では笑えないからね。」


 二人の疑問に応じるように、ミエラは一呼吸おいてから説明を始めた。



「私たち魔法使いは、世界の根幹にある事象の力を利用しています。それは、秩序と混沌という二つの魔法に基づいています。疫病の神の力は、元を辿れば混沌の神に由来します。同じ混沌の力を使ってセイクリッドランドを作れば、疫病の神の権威と対等な力を持つことができます。これにより、その影響を無効化することが可能です。」


 ミエラは慎重に言葉を選びながら続けた。


「ただし、セイクリッドランドの作り方を言葉で説明するのは簡単ではありません。それは感覚的なもので、詳細を全て伝えるのは難しいのです。」


 エイランは眉をひそめ、探るような目つきで彼女を見つめた。


「まあ、細かい技術の話はいい。ただ、私が引っかかっているのは、秩序と混沌の魔法を使えるという点だ。魔法は世界そのものへの信仰だと認識している。確かに、世界に溶け込んだ事象の力を使うものだとは聞いているが、それでも秩序の神や混沌の神の力を直接扱うなんて話は……」


 エイランの指摘に、ミエラは少し困ったような表情を浮かべながら答えた。


「すみません。その点で認識に違いがあるかもしれません。例えば、火の魔法を使う場合、それは火の神の力ではなく、火の神を生み出した混沌の力を使っています。」


 ミエラは一呼吸おき、さらに言葉を重ねた。


「ただし、魔法で全てが可能というわけではありません。精神力が必要ですし、神々が起こした権威そのものを再現することはできません。例えば、疫病を流行らせるような神の力は私には扱えません。でも、防御に特化したセイクリッドランドを作ることなら可能です。それであれば、結界を通るまで十分に持つはずです。」


 ――だからこそ、神々は魔法使いの身体を欲する。魔法使いの存在そのものが、彼らの権威を揺るがしかねないから……。


 思考にふけるミエラの様子を見ていたアイリーンは、急に楽しそうに声を上げた。


「何だかワクワクするじゃない!こんな奇跡のような出会い、まるで物語の中にある魔法使いケンニグと慈愛の女神オルフィーナみたいじゃない!」


 その言葉にエイランも微笑み、彼女の意見に同意するように頷いた。


「うむ、確かにその通りだ。それに、私は魔法使いではない。ミエラ嬢に何度同じことを聞いたところで、理解できないこともあるだろう。何より、我々ができないことを『できる』と言うミエラ嬢に、結果以外で答えを知る術はない。」


 エイランは優しく微笑むと、力強く言葉を続けた。


「共に行こう、ミエラ嬢。我らが今日出会ったことは、まさに奇跡の神アイミュリスの導きだ。共に渡ろう、呪われた大陸へ!そして、聖なる都の解放のために!」



 そう言って、エイランは高々とグラスを掲げた。アイリーンも同じようにグラスを掲げ、朗らかに笑っていた。



 ミエラは二人の姿を見つめながら、少し前までの自分を思い返していた。


 森の中では、母⋯レミアと二人で隠れるように生き、父を奪った神に対抗できるよう鍛錬の日々を過ごしていた。森を出て、小さな村に買い出しに行くことはあっても、人と深く関わることはなかった。



 それが今、年齢も種族も性別も異なる者たちと旅をすることになり、驚くほど悪い気はしていなかった。それどころか、不思議な高揚感さえ覚えていた。


 昂った気持ちに心を委ねていたミエラは、エイランが滑らせた言葉の些細な違和感にも気づかないまま、笑みを浮かべながらグラスを手に取った。そして、自分の船旅の仲間たちに向けて、力強くグラスを掲げた。

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