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モブキャラに転生したけど死にたくない  作者: 左京ゆり
第二章 世界は金と欲と〓でまわる
21/53

21.ロリコンと推しと桂冠詩人(前)

寝室の窓から、波の打ち寄せる音が聞こえる。


静かな夜の部屋の中で、ロックウッドは今にも掴みかからんばかりの形相で俺の前に立ちはだかっていた。



「なにをしてるって……あんたが撮った写真を回収してるに決まってんだろ!」

「はっ、この泥棒め!」


がばっと手を伸ばしてきたロックウッドを避けて、俺は両手に写真を抱えたまま後ろに飛び退いた。


「俺が泥棒だって?!」

「私のコレクションを奪う輩を泥棒と呼ばずして何と呼ぶのだ!!」

「コレクションって……ビーは嫌がってただろ!!」

「彼女は恥じらっていただけだ! おまえは彼女の何なんだ?!」


写真を奪い返そうとするロックウッドをぴょんぴょん避けながら、俺はドアをチラと見た。


半開きのドアの外では使用人たちが待ち構えている。主人の命令があれば、今にも部屋に飛び込んできそうな様子だった。



(なにって……幼なじみだよ!)



なんて正直に言えるわけがねえ。

言葉に詰まった俺を嘲笑うように、ロックウッドが部屋の壁際に追い詰めてくる。


「なにって……そりゃあ……」

「ふん、どうせあの貴族にロンドンで雇われたのだろう。おまえを見れば分かる。村の子どもを装ってはいるが、その垢まみれの肌やすえた臭いはスラム街の奴らのものだ」

「………………」



図星を指された俺は黙り込む。


一応、ワイト島に来る前に服は着替えてきたが、そりゃそうだよな。このアトスの身体は多分年に1回も風呂に入っちゃいねー。

船の客たちも宿の主人も気付いてたけど、ブラックリー卿の手前、見て見ぬふりをしたんだろう。



「あの男に端金で頼まれたか? 私のコレクションを奪って来いと。ふん、丁度良い。社交界とタブロイドに新たな話題を提供してやろうじゃないか」

「は?! どういう意味だ?!」

「伯爵家のご子息様が、他人の婚約者を奪った挙句にスラムの孤児を使って盗みまで働いたとな! はは、法的に罰することは出来なくとも、あの男の評判はさらに下がるだろう」


冗談じゃねえ!

これ以上ブラックリー卿の名誉が傷付けられたら、さすがの小鳥遊もショックで屋敷に引きこもっちまうかもしんねーぞ?!


「違うっ!! 俺はあいつに雇われたんじゃねー! 自分の意思で付いてきただけだ! その……ビーが心配だから……」

「はっ、まさかおまえもベアトリクスに恋しているのか? スラムの子どもの分際で?」


嘲笑する目の前の男に、俺は無性に腹が立ってくる。

自分のことはどうでもいい。

(てかそもそも龍太に恋してねーからな)

トムの恋心を嘲笑われたような気がしたんだ。




俺はロックウッドと睨み合ったまま、後ろ手で壁をなぞった。


カチャ。


ノブの感触が右手に触れる。




俺はこっそりノブを回して--

身を翻して、その小部屋の中に飛び込んだ!!!




明かりをつけると、小部屋がぱっと明るくなる。


俺は中から鍵をかけて、ドアの側にあった箪笥を押してドアを塞いだ。


ガチャガチャとノブを回す音がしたが、諦めたように静かになる。扉の前からロックウッドが離れる気配がした。鍵でも取りに行ったんだろう。



はあ、と息を吐いて、俺は室内を見渡した。

おまけ程度の小さな部屋だ。

壁にはコートや上着が吊り下がり、箪笥の上には帽子や靴らしき箱が積み重なっている。さながらウォークインクローゼットってとこだろう。


ロックウッドの自室に続き部屋があることは、あらかじめ図面で確認していた。だけどここに隠れた所で、一時しのぎにしかならない。



(……どうすっかな)



俺はスマホを取り出した。

画面を左にスワイプしながら考えこむ。



俺の存在がブラックリー卿の足を引っ張るんなら、無関係だと言い張ってシラを切り通した方がいい。

いくらヴィクトリア時代でも、まさか窃盗で死刑ってことはないだろう。


いや--

でも俺はスラムのガキだからな。


馬車でブラックリー卿が言ってたように、俺の命なんてティッシュ1枚程度に軽い。警察に突き出されてロクに取り調べもせずに殺される……なんて可能性もあるんじゃねーか?



『なあ、D。ヴィクトリア時代に窃盗で捕まったら』


俺はぴたりと手を止める。

だけど--

ブラックリー卿は小鳥遊静香だ。


小鳥遊がこのまま俺を見捨てるなんて、絶対に考えられない。

ビー、いや……龍太もだ。

あいつらなら--こんなモブの俺を助けるために、わざわざ戻って来るに違いない。



カチ。

ガチャガチャ。

ドンドン。



「おい! 小細工をしても無駄だ。大人しく出てこい!」


ドアの外でロックウッドが叫んでいる。

使用人たちと力ずくで押されたら、箪笥で塞いだドアなんて簡単に開いてしまうだろう。




考えろ。

考えろ。

考えろ。



俺がすることは--

こいつに捕まって足手まといになるんじゃなくて--

こいつの気を変えさせることだ!!!



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