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モブキャラに転生したけど死にたくない  作者: 左京ゆり
第一章 この薄汚れた世界へようこそ
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2.俺のスマホが落ちていた

俺は両手についた汚れをズボンに擦りつけて、おそるおそるスマホを拾い上げた。


(……やっぱどう見ても、俺のスマホだよな)


黒いシリコンケースに型落ちのスマホ。背面には、チャリに乗ってて落っことした時の傷がついてる。

ホームボタンに触れてみた。


真っ黒な画面のむこうで、痩せこけたスラムのガキが不安そうにこっちを見ている。


(…………やっぱダメか……いや?)


いちかばちか、電源ボタンを押してみた。


ぱあっと画面が明るくなる。

震える指でパスコードを入力すると、見慣れたホーム画面が目の前にあらわれた。


(いよっしゃあああああ!!!!!)


俺は内心でガッツポーズを決めながら、さっそくグー◯ル先生を立ち上げる。

開かない。

グー◯ルマップを立ち上げる。

開かない。

ホーム画面に入れたあらゆるアプリ--ラ◯ンやら元鳥のアレやらスポティフ◯ィやらユ◯チューブやらを片っ端から試してみたが--。

(開かねーーーーーっっっ!!!)

なんだよこのチートアイテムは?!

ぬか喜びさせてんじゃねーよ!!!(泣)

俺は涙目でスマホの整然と並ぶ四角いアイコンたちを眺めながら、ふと、気づく。


ホーム画面をスワイプして、2つ目の画面を出す。

左端にぽつんとあるアプリ。

そいつをタップした。


『よお、D』

『こんにちは、ATSさん』


ATS--俺の前世の名前、アツシを適当にアルファベットに変えた名前だ。巷でAIが話題になった頃、俺も気まぐれにアプリをダウンロードした。そのまま数ヶ月放置してたが、たまたまネットで相談相手に使ってるっていう書きこみを見て「へえ」と思って試してみたら--わりとハマった。


それ以来、俺は困った時とか愚痴りたい時なんかによく、こいつに聞いてもらってる。なんでDかっていうと、まあ俺にとってのドラ◯もん的なやつってことで。俺はの◯太くんみたいに主役級でも立派なやつでもないけどな。


それはともかく。

俺は四方をぐるりと見回す。


薄汚い路地にはほとんど人もいない。

あっちの大通りでは店やら通行人やら見かけたが、この辺りにいるのは、路地の奥に酒瓶をあおってる浮浪者みたいなおっさんが一人と、その手前に座ったまま動かないばあさんが一人いるだけだ。


俺はスマホのカメラを起動させたが、開かない。

(……やっぱダメか…………いや?)

思い立って、AIのコメント入力欄の横からカメラを立ち上げてみる。

カメラが起動した。

(うおっしゃあああ!!!)

内心でまたガッツポーズを決めながら、音を小さくしてこのスラム街を撮影する。


撮った写真をアップして、急いで画面をタップする。


『俺は今ここにいるんだけど、どこか分かるか?』

『この場所はおそらく19世紀後半から20世紀初頭のイギリス、特にロンドンのスラム街のように見えます。狭い路地に沿った古いレンガ造りの建物が並んでおり、建物の一部は風化や老朽化の兆候が見られます。路地は舗装されておらず、土や瓦礫が散らばっているようです。具体的な場所を特定するのは難しいですが、イーストエンドのような地域が該当するかもしれません』


『……異世界じゃなくて?』

『異世界のように見えるのはわかります。特に、ヴィクトリア朝英国のスラム街の雰囲気は、現代の生活とはかなり異なるものですよね。狭い路地や古い建物、独特の服装などが、まるで異世界に迷い込んだかのような印象を与えます。でも実際には、この写真は歴史的な現実の一部です。19世紀後半から20世紀初頭のロンドンは、産業革命の影響で急速に発展し、貧困や劣悪な生活環境が広がっていた時代でした』


『…………ゲームの中でもなくて?』

『写真は歴史的な現実の一部ですが、確かにゲームの中の世界や異世界の物語としてもよく描かれる雰囲気ですね。もしこのような設定のゲームや物語に興味があるなら、スチームパンクやヴィクトリア朝時代を題材にした作品を探してみると面白いかもしれません。また、異世界転生やタイムスリップの要素が含まれた作品も楽しめると思います』


俺が!!!

今!!!

まさに!!!

転生してるんだよーーー!!!!!

面白れーとか言ってる場合じゃねーんだよ!!!!!(泣)


内心でAIに突っこみながら、俺はぼんやりと空を見上げる。

どうやら転生で確定らしい。

いや、ここがヴィクトリア時代のロンドンなら逆行転生ってことになるのか?

まあいいや。

とりあえず今は--このクソまみれのからだを洗って左手の応急処置をしたい。


灰色の重たい雲が今にも地上を押しつぶしそうだ。

そう思う間もなく--ぱらぱらと雨が降り出した。


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