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「とこしえに神の家に住む、ね。苦しく死ねば、そうも思うさ。だがこいつらはどうだろう」

 皮肉げな調子を取り戻し、ユッタは炎の中を指す。

「殺人、殺人、窃盗。あと何だっけ、詐欺……利子取って金を貸したんだったかな。敗残兵も人殺しだね。悪事の挙げ句におっ死んで、あらゆる人間から見放されて、弄ばれて。そんな自分のまま、辺獄とやらで神の審判を待ったり、神の側に生き続けたり、なんて、果たして嬉しいものかね」

 ユッタは悠然と炎を見上げた。

「綺麗さっぱり焼き尽くされて、なあんにもなくなって……。どうしようもない自分なんて、忘れ去ってしまうほうが幸せじゃないかね。人に愛され、街に愛され、おまけに神にも愛されて生きてる旦那がたにゃ、こんな気持ちは分からないだろうが」

「それは……」

 セシルは言葉に詰まった。今でこそ、セシルは愛を感じて生きている。だが、始めからそうだったわけではないのだ。

「……人の愛を肯定するつもりがあるのなら、神の愛もまた、自然と肯定することになる……私の場合は、そんな感じです……」

 ユッタは端から相手にせず、嘲笑の息とともにセシルから目を背けてしまった。

 そのせいだろうか、じっと自分を見つめる視線が別にあることに、セシルはやっと気がついた。

 隊長ユッタの背後、荷物や桶を積み上げたところで仕事の手を止めて、少女がセシルをじっと見ている。戸惑いや驚きの混じる、何か深刻な思いにふけるような眼差し。

 そうでなくても目を引く、特別な美しさを備えたあの少女は、修道院でも見かけた少女だ。隊長は随分彼女を重用しているらしい……

 思索を遮って足音と声がした。すぐに役人たちの、司祭さま(プファラー)、という畏まった声が続く。 若い司祭を数人従えて丘を昇ってきたのは、セシルたちの師、フレーベルだ。

 ユッタはゆっくりと瞬いた。

「……新市街、聖マリーエン教会主祭、フレーベル様のお成りだね」

 あららあ、まあまあと、フレーベル司祭は世間話に勤しむ婦人のような感嘆詞を並べた。

「こんな何もないとこでよくここまでやったねえ。櫓はまあ、パゴダ型かな? 火は高くしてやればやるほどよく焼けるのを知ってるんだね。さすがは兵隊さんだ」

 そして、辛辣な舌とは対照的に、にっこり微笑んだ。

「まるで焼き魚か、魔女の火炙りみたいだねえ」

 警戒の面持ちを、ユッタは一瞬歪めた。怒りか、驚きか。

「けれどこれじゃさあ、十人焼けないんじゃない? この焚き火を何百も並べるわけに、いかないんでしょう? 薪もたくさん要るし、実用的じゃないよねえ」

 楽しげに微笑みながら、老司祭は滔々と論述する。

「どうせやるなら、教会がいいよ。広くても大聖堂(ドーム)よりは、小さくても尖塔とかがあるの。高ければ高いほどね、温度が上がる」

 師の背後に退いて司祭たちに並ぶセシルは、師の危なっかしい演説に慣れていて、表情を抑えることができる。キュリルもメトーデも息は止まっているが、大人しく瞠目している。だが役人は顎を落とした。ひとつの教会の主祭が何てことを言うのだと言わんばかりだ。

「門扉を開けておいてね、風を入れる。すると丁度登り窯みたいになってね、温度が上がる。よく焼ける。風の出口が必要だけど、薔薇窓が溶けて、天井が勝手に落ちてくれる」

 機嫌良くフレーベル司祭が指を天に上げるのを、募兵団長ユッタは鋭く見つめている。

「相当綺麗に焼き尽くせるんじゃないかなあ。数百人は一気に焼ける。千人でもいけるかも。やったことないけどね、そのはずだよ。お勧め。やってみて」

 できるものならね。

 などとフレーベル司祭は言わないが、勝者が敗者を略奪するにしても、人の志を傷つければ、戦局を揺るがすほどに人は怒るのを、傭兵なら理解していることを知っているのだ。

「……ご助言、痛み入る」

 隊長ユッタは愛想程度に口をねじ曲げた。

 ユッタは小僧たち少女たちを一瞥して指を振る。その合図で、全員が背後に積んであった桶を取り、白い砂の混じる粉を一斉に火に投げかけた。火柱が押し潰されるようにぺしゃんと消え、残りの炎もすぐに踏み潰される。

 もうもうと消火剤の粉を含んだ煙が上がり、ほとんどの者がむせて咳き込んだ。

「手際がいいねえ、訓練されてる。私も消火剤、運ばせたけど、要らなくなっちゃったねえ」

 後を部下に任せて立ち去ろうとするユッタに、老司祭は無遠慮に問いかけた。

「大がかりな準備だよね。どこで戦うの?」

「……軍事機密につき、ご寛恕願う」

「この後、一度本隊の宿営に戻るんでしょう? 兵隊さんたちから聞いたよ」

「そう」

「遠いのにお忙しいことだね、次はいつ会える?」

 関わりたくない様子で淡々と返事をしていたユッタが、自らの感情の重さに耐えるように、ゆっくりとフレーベル司祭を見据えた。

「じきに」

 その感情はどうやら憎しみのようだと、セシルには思われた。だが、彼女が何を憎むのか、見当がつかない。

 ユッタが踵を返すと、少女たちがそれに従った。セシルを見つめていた少女もユッタを追う。消火剤を運ばせたという人足だろうか、入れ違いに上がってきた男が、消えた焚火をぽかんと眺めた。

 フレーベル司祭が子弟を振り仰ぐ。

「セシル。帰って、チェス(シャッハ)をやりましょうか」

 三人の僧侶が、息の止まったまま青ざめる。辺獄の火責めより恐ろしいことが始まるからだ。

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