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「街に守られて暮らしてる旦那がたじゃご存知なかろうが」
ユッタは皮肉げな憫笑を崩さない。
「醜い野ざらしを始末してやるのは、むしろ慈悲じゃないかね。あたしら傭兵は、勲功まばゆく討ち死にしようが、腸炎と喧嘩で野垂れ死のうが、どっちにしろ荒野に捨て去られる身さ。狼に食われても蝗に食われても、惨めな死に様よ」
それから視線を、僧侶から外し、燃えさかる炎へ向ける。
あるいはその目は、炎の中で炭化する亡骸の、生きて動いていた頃を見ている。
「ただ打ち棄てられるのでもましな方だね。銃なんて金になるものならともかく、下着まで全部引っぺがされて、裸で積み重ねられ、捨て置かれるってのは……哀れなものさ。敗残兵ってのはね、獣でもそんなことはしないほど、人間らしさを奪われた亡骸よ……」
そして再度僧侶を、今度は、セシルを見据える。
「そう、奪ったのは、同じ人間さ。なあ旦那がたよ。文句を言うより先に、こいつらに弔いの祈りでも捧げてやったらどうだい? それが僧侶の筋ってもんだろう?」
司祭セシルは瞬き、微笑んだ。
「そうですね。仰るとおりです」
失敬と小声で呟き、懐から折り畳んだストラ、聖書、ロザーリウムを出して手早く身につける。
刑場には祈ってはいけない罪人がいたのではないかと恐れた使者が、思わずセシルに手を延ばす。しかしセシルは微笑とともにその手を制する。教会が断罪した種の罪人が近々にはいないことを、彼はちゃんと知っている。
セシルが進み出る間にもう、キュリルとメトーデも、ロザーリウムを戴き、ストラを斜めに掛けている。
炎の前。聖は合掌し、跪く。
主は私の牧者、私は何一つ不足ない。
彼はみどりの草地に私を横たえ、
憩いの水場へ私を導く。……
火は歌を吸い上げて天へ昇る。
火と人の心とともに、気配として渦巻いていた恐れと怒り、人心と世界との不和が、音律とともに、調和へと導かれる。
闇の谷を惑わねばならずとも、
私は災厄を恐れない、あなたが私のもとにあるから。… …
純粋な善と慈愛が我が生命の間に続き、
主の家に私は長久に住まいできる。
聖が聖二人を従え、祭祀を遂げる。
バサッ、と大きな音をたてて炎が揺れた。薪の櫓が崩れたのだ。
炎は一度膨らみ、猛然と火の粉を吹き上げながらしぼんで、気流が止まると同時に落ち着きを取り戻した。消えはしないが、確かに小さくなっている。
役人どころか、薪を投げ入れていた小僧や少女も、ユッタも、驚いてほとんど飛び退いている。
そして、畏れの眼差しでセシルを見る。
それはまるで、祈りを聞き届けた死者たちが、怒りを解いて真に力尽きたように見えたから。
「……火葬をすると、来たる復活の日に主と共に蘇れなくなる、というのは、俗信に過ぎないのですが……」
火の周囲の緩やかな上昇気流に、セシルの僧衣も、裾をなびかせる。
「先のマクデブルクの合戦後、生者は夥しい数の死者を、焼いて葬ったと聞いています。恐れ、泣きながらそうしたのだと」
セシルはユッタを見る。
「罪人でもないのに殺された人々を焼くのは、まるで死者に鞭打つようだと……貪られた死者たちに心を寄せ、神の贈り物である身体を焼き滅ぼさねばならない不安に戦き、咽び泣きつつ、火に遺骸を投じたと、そう聞いています」
「その通りだ」
ユッタの声が怒りを帯びた。
「だからあの街は生き残った」
皮肉気で、端から馬鹿にした色が、彼女の声から消えた。
「兵士と非戦闘民を合わせて数万が死んだ。埋葬する側の人間が生き残ってない。野戦なら狼や犬が食ってくれるが、都市の中で死体が腐れば……土と水が汚染される。何年後なら人が住めるのか、誰にも分からない。火に巻かれた後に、火で死体を焼くのは辛かったろうが、あっぱれだ。その恐怖に耐えたからあの街は残った」
ユッタに宿った炎のような怒りの色が、不意に、皮肉げに醒めた。
「今後も残るだろう。……負債があるからね」
ふと、セシルはユッタの言葉に違和感を覚えた。
火で死体を焼くのは恐ろしい。そう、セシルも他の人々も思っている。
だが、この人物は、火で焼かれることを恐れていないのではないだろうか?




