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 朝課と祈り、そして朝早い人たちの前で少し歌うと、若い僧侶たちは神の家であり彼らの勤めの場である教会を整える。

 冬の朝であれば、つまり、雪かきである。

「ああぁ、働きたくないぃ」

 若い僧侶に相応しくない文句を垂れる旧友にも、セシルは微笑みを絶やさない。身体を動かしたまま、ふふと笑みだけで相槌を打つ。

「しんどーい。雪重ーい。疲れたー」

 雪かきの手を止め、キュリルがシャベルの柄にもたれかかるので、弟のメトーデがその隣にやって来て、雪にシャベルを突き刺しながら忠告する。

「文句を言うな」

 キュリルは反論する力も無く、眉をひそめつつ唇だけ尖らせる。

「僕も休みたくなる」

「参ってるんじゃん」

 セシルは耐えかねて噴き出した。その吐息にも、淡い音階が宿る。

「では、休憩にしましょうか」

 白く光る雪の山にシャベルを刺して、セシルは息を白くして言った。

「お前さん、何かお菓子でも持ってねえの」

 キュリルがつまらなそうに言う。

「今日はありません」

「おや、マリーの事は毎度せっせと餌付けするのに、我々にはお構いなしか」

 茶化すメトーデにもセシルは堂々と微笑みを返す。

「彼女の喜びようを見たら、あなたたちもあげたくなってしまうでしょう?」

「なる」

「なるな」

 シャベルに体重をかけながら、三人の司祭は、幼馴染みの、ちょっと澄ましたところのある顔と、プロテスタントに改宗したついでで褐色に染めたという長い髪を思い浮かべた。

「……もうひと働きするか」

「……だな」

 キュリルとメトーデ、双子の兄弟は文句をやめ、シャベルを引き抜き、雪を掬い始めた。

 だが、黙々と手を動かしていても、しばらくするとむずむずと口を動かしたくなる。鳶色の瞳に鳶色の髪を短く刈り、僧侶らしく黙っていれば篤信の志厚そうに見えるのだが、残念ながら彼はそういうことができない。それを知るのは、昔馴染みのセシルだけでも、双子の片割れメトーデだけでもなく、この街壁の中に住む者なら大体誰でも知っている。

「寒いしさあ、重いしさあ」

「うん」

「俺雪嫌いだけどさあ」

「うん」

「嫌いだけどさ……」

「ああ、そうだな」

 メトーデが双子の兄キュリルに相槌を打つのは、聞いていてその調子が心地よい。お喋りな兄に対して弟の彼は多くを語らない、が、兄の下らない冗談にはついつられてしまうらしく、関わりたくもない戯れに付き合わされると常に不満げだ。

 しかしキュリルの不安を、一番理解しているのはメトーデなのだ。オルガンを奏でる手や肩は兄より少し細いが、同じ鳶色の瞳と、少し長めに切り揃えてある鳶色の髪で、いつも兄の隣に立ち、その心の揺れを受け止める。

 そうすると、兄弟二人で会話が終わってしまうことがある。セシルが手を止めて小首をかしぐと、メトーデがああと得心して、説明を加えた。

「キュリルは戦争がまた始まるだろうと思っているんだ」

 なるほどとセシルは納得する。

 雪がなくなれば、道が現れる。すると軍隊が通る。その連想が、雪かきに働いたのだろう。

「あなたは真面目ですからね。一度考え出したら、止まらないのでしょう」

「んー」

「クソ真面目だからな、合理的に割り切れんのだ。人間は戦をするものだと」

「んー」

 キュリルはシャベルをとろとろ動かしながら、曖昧な返事をする。

「クソ真面目は否定しないのだな」

「しなーい。俺、とってもいい子だから」

「いい子は仕事中にお喋りしませんよ」

「口閉じたら手も止まっちゃーう。寒くてもー、寒いのにー、歌っちゃうー。歯ぁキンキンする」

 いい加減な節をつけたいい加減な兄の文句に、双子の弟は、はぁと落胆の息を吐いた。それがしらじらと宙に漂い、風に流れる。

 セシルはふと思いついた提案をする。

「では、マリーに占ってもらいますか? 今年は軍隊が動くかどうか」

「えー、やだ。あいつ、当てるから」

「当たるも何も、誰が考えたって動くだろう……」

「ええ、まあ、そうでしょうね。どこまで近づくかは分かりませんが」

「あー、嫌だ。俺は悲しい。悲しいですよ。また葬式ですか。葬式も出ませんか。ああ」

 そう言ってキュリルは悶えるが、上背があって体格の良い彼が、きちんと僧服を整え、持ち前の生真面目さを顔に出せば、それは荘厳で見栄え良く、祭祀には喜ばれるのである。

 キュリルは信徒にとって辛いことを言わない。言えない性格だ。本当なら教え導く立場として、正しいことを説いていいのに、つい求められる以上に安心やら心の平穏やらを力説してしまう。葬列で泣く婦人たちなど見たら、手を抜けない。力一杯祈り、一緒に悲しんでしまう。

 そのぶんセシルに愚痴を言う。メトーデには怖いので言えない。

「シュヴェーデンからも増援が南下してくるだろうからな。どのような素性の兵を連れてくるのか知れないが」

「あー嫌だ。どうせその軍、プロテスタントさん半分もいないんだろ?」

「略奪をためらってくれるほど敬虔、という意味なら、そうでしょうね。シュヴェーデン軍は精鋭らしいですが」

「ええー、マグデブルクじゃ皇帝麾下の大将の軍が街潰したじゃん」

「結局どの勢力でも、傭兵団が危険なのには変わらんな……」

 お喋りに付き合いながら勤勉に雪を運んでいたメトーデが、不意に手を止めた。

「通るだろうか。グロッケンシュタット」

 その問いにはセシルも、青の瞳を陰らせる。

「どうでしょう。まだ何とも」

 剽軽なのが売りのキュリルも、重い息を吐く。

「通るだろ、河と街道があんだぜ」

 白い息が宙を降りながら消えていく。

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