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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
08 ダンジョン探索編
97/302

097話 C級とB級


(冒険者パーティ【炎帝】の視点)


我らは【炎帝】という。

パーティランクはB級だ。


リーダーは俺。C級冒険者ジョアン。火魔法を扱う魔術師。

サブリーダーはC級冒険者シルバ。火魔法を扱う魔法剣士だ。


我らはハーフォード公爵領出身で、クエストを失敗したことは一度も無く、メンバーを失ったことも無い。

パーティの評判は良く、稼ぎも金払いも良いパーティとして知られている。

ハーフォード出身のパーティとしては最も技量が高く、信用もある。



今年の炎帝の活動は例年と異なる。

いつもなら、この時期は年貢を運ぶ隊商の護衛任務のため、領内各地を行ったり来たりしている。

だが今年はイルアンから動いていない。

理由はここイルアンにダンジョンが見つかったからだ。



ダンジョン。

冒険者を志すものなら誰でも一度は踏破を夢見るだろう。


やがてダンジョンの現実と、己の実力が見えてくると踏破は諦める。

それでも一度は探索してみたい。

低層階だけでも良い。

ダンジョンの雰囲気を味わってみたい。

あわよくば希少なアイテムなどに触れてみたい。

そう思わない冒険者などいないだろう。


そのダンジョンがイルアンで見つかったという。

ハーフォード公爵領で初めてのダンジョンだ。

しかも処女ダンジョンだという。

誰も足を踏み入れたことの無いダンジョン。

この情報に接して血が沸かない冒険者は一人もいないだろう。


我々も真っ先に駆け付けて一番乗りを果たしたかった。

だが作物の収穫時期が近づいていた。

我々は涙を呑んで得意先を訪れ、今年の隊商の護衛クエストをキャンセルして回った。

事情を説明すると、全ての得意先から激励を頂いた。

来年はよろしく頼むと言われた。

嬉しかった。



結果的にそれが良かったらしい。

いくつものパーティが我先に押し寄せ、一斉にダンジョンに挑んだ。

そして全てのパーティが撃退され、傷ついた。


装備を失って逃げ帰ったパーティの話など序の口で。

メンバーの大半を失ったパーティがいる。

帰ってこないパーティもいたという。


ダンジョンとはこれほどのものなのか、と目を見張る思いだった。

ダンジョンで鍛えられた他領の冒険者達がデカイ顔をするのも理解できた。



尊い犠牲によって得られた情報に基づき、我々は万全の準備をしてダンジョンに挑んだ。

それでも当初は2層を突破するのも難儀していた。


だが3層に安全地帯があることが判明してから少し流れが変わった。

安全地帯を拠点にしながら3層で魔物討伐に励んだ。

3層の魔物は強く、擬態が上手いので、魔物を見つけるのも難儀、倒すのも難儀した。

しかしその分我らの腕は目に見えて上達した。



各メンバーの技量が底上げされたことを感じる。

パーティとしてのレベルも上がった実感がある。

まだ3層ボスを倒していないが、これだけ研鑽を積んだら、俺 (ジョアン)とサブリーダー(シルバ)はB級冒険者の実力を持ったのでは無いか?


ここで俺とシルバがB級冒険者に昇格すれば、メンバー全員の励みになる。

リーダーとサブリーダーがB級冒険者になれば、パーティはAランク相当のクエストを受けることが出来る。

実入りの良いクエストを受けることが可能になる。


B級昇格試験を受けようと思う。



◇ ◇ ◇ ◇



(私・ビトーの視点)


マロンを含め、ウォーカー全員でアドリアーナの元へ行った。

ホッとするアドリアーナ。


「『炎帝』の皆さんが来ております」


炎帝のメンバーと初めて顔を合わせた。


炎帝は爽やかなイケメン達と紅一点で構成されている。

いや、美男子という意味では無いよ。

化粧っ気は無い。

美容整形もしていない。

眉毛も整えていない。

いわゆるスポーツ万能の好男子だ。

性格の悪そうな、一癖ありそうな奴はいない。

もしいたら冒険者はやめて役者になるべきだ。


リーダーのジョアンとサブリーダーのシルバがB級昇格試験を受けたいという。

ジョアンはクロエと同じサイズ感。

180cmくらい。

魔術師の格好をしている。


シルバはジークフリードと同じサイズ感。

190cmくらい。

剣士の格好をしている。



アドリアーナが我々を炎帝に紹介した。



「炎帝の皆様。こちらは冒険者パーティ:ウォーカーの皆様です。ジョアンさんとシルバさんがB級昇格試験を受けたいとお聞きしましたのでお呼びしました」



お互い尋常に挨拶し、簡単な自己紹介をして、単刀直入に本題に入った。



「儂はB級までなら鑑定できる」


「それは何故ですか?」


「儂がB級だからだ」



そう言ってウォルフガングはB級冒険者証を見せた。


その威力は目を見張るほどだった!!

B級冒険者証を見た瞬間、炎帝のメンバーの背筋が「ビシッ!」と伸び、視線はウォルフガングに固定された。



「硬くならなくて良い。ではB級昇格試験の内容を説明する」



ウォルフガングの課すB級昇格試験はこうだった。


シルバは魔法剣士なのでクロエとソフィーと順番に模擬戦をして貰う。

ジョアンは魔術師なのでソフィーと模擬戦をして貰う。

勝つ必要は無い。

技を見させて貰う。


指名されたクロエは困った顔をしていた。



「え~ わたし? わたしC級のペッペーだよ~」



◇ ◇ ◇ ◇



ウチの庭に場所を移動した。

こっちの方が広いからだという。


アドリアーナも一緒にきた。


最初に立ち会うのはシルバだった。

シルバも複雑な表情をしていた。

女性剣士のクロエにどれほどの力で撃ち込んで良いのか、迷っているようだ。


ウォルフガングの前で対峙する2人。


ウォルフガングから注意。



「これは勝ち負けを計るものでは無い」


「対人と対魔物でまた異なる」


「双方とも大きな怪我を負わさぬように」


「始めっ!」



すかさず5分から6分の力で剣を撃ち込むシルバ。



「お手柔らかにお願いします」



どこかほんわかした感じで言いながら、剣戟を受けるクロエ。

クロエが無理なく剣戟を受けるのを見て、徐々にシルバの剣戟が力強くなる。

剣戟の回転も上がる。


だがクロエの受けが破綻する気配は無い。

そしていつの間にかクロエの方から撃ち込むようになった。

シルバの受けは安定していた。


ウォルフガングから声が掛かる。



「お互い魔法を乗せてみよ」


「ファイヤー」



シルバが剣を持つ右手から火球を出す。

詠唱はかなり省略している。



「ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー」



ガンガン火球を放つシルバ。

最初は躱していたクロエだが、シルバが回転数を上げると躱し切れなくなる。

躱し切れなくなったクロエは刀身に風を纏わせて、剣で火球をどんどん切っていく。



「火球を・・・剣で・・・」



ショックを受けるシルバ。



「魔法で切ってますよ~」



ほんわかと言うクロエ。

そう言われて目を剥いたシルバだったが・・・



「無詠唱なのかっ!!」



理解した途端、魔法を操るスキルの差がわかったようだった。



「そこまで」



ウォルフガングが終了を宣言したとき、シルバはどこかスッキリした表情をしていた。



◇ ◇ ◇ ◇



「次。ソフィーと魔法を撃ち合いなさい。シルバは思い切り撃ってみなさい」


「思い切りって・・・ 火槍まで撃って良いのか?」


「かまわん。 いいな? ソフィー」


「ああ。大丈夫だ」



ソフィーの今日の装備は革鎧の上にローブ・・・ のみ。

剣は下げていないので、魔術師のように見えなくも無い。

でも手ぶら。

魔術師の必須アイテムの杖を持っていない。



「おい・・・ あんた魔法使いなのか?」


「まあ、そうだ」


「思い切り魔法を撃っていいのか?」


「かまわん」



シルバはクロエと対峙したときより間合いを広く取った。

そして「いくぞ」と一声掛けて、剣を杖代わりにして連続して火球を撃ち始めた。


ソフィーは無言で、面倒臭そうに、水の壁で火の玉を受け止めていく。


埒があかないとみたシルバは、あまり省略していない呪文を詠唱し、火槍を撃った。


ソフィーはシルバの呪文を聞きながら、やっぱり面倒臭そうに、無言でひょいと氷壁を出した。

ソフィーは一応貴族の妻女なのではしたない行為はしないが、おっさんだったら鼻くそをほじりながらやっていそうな雰囲気だった。



渾身の火槍をあっさりと氷壁に阻まれ、呆然としているシルバ。

ソフィーが “ちょいちょい” と上を指差した。

シルバが上を向くと、氷槍が3本、シルバに槍先を向けて漂っていた。

シルバは腰を抜かした。



◇ ◇ ◇ ◇



呆然とパーティに戻るシルバと入れ替わり、ジョアンが出て来た。

シルバの戦いを見ていたジョアンは、最初から顔が強張っている。



「あまり根を詰めるな。これは力試しだ」



そうウォルフガングが言うが、ジョアンの耳に入っていないようだった。


ジョアンは魔法使いなのでソフィーとだけ手合わせをする。


ウォルフガングの「始め」の掛け声と同時に、ジョアンは3種類の魔法を撃ち始めた。


最も速い火矢。

火矢より遅いが、最も破壊力のある火槍。

速度は遅いが曲射ができる火球。


特に曲射が出来る火球が曲者で、火魔法によるオールレンジ攻撃を可能とする。

火矢と火槍に気を取られている隙に、背後から迫る火球の餌食になる。

これを防ぐのは並大抵ではない。

少なくとも私は無理だ。


ソフィーは氷壁を半球状にしてイグルーを作り、全ての火魔法を受け止めて威力を確認した後、氷弾を撃ち始めた。

ジョアンも火の壁を出して氷弾を受け止める。


だがソフィーも氷弾のオールレンジ攻撃を行う。

ジョアンは周囲に火の壁を出して氷弾を受け止めるが・・・


しばらくするとジョアンは魔力切れを起こし、ギブアップした。

火壁 (ファイヤーウォール)は想像以上に魔力を必要とするらしい。


ジョアンは両手をついて下を向いたまましばらく動けなかった。

がっくり度合いはシルバよりも酷いようだ。



「火が水に負けるなんて・・・」



どうやら魔力に差が無ければ水より火の方が強いのが通説らしい。



◇ ◇ ◇ ◇



ジョアンが炎帝のメンバーに取り囲まれて、気を散り直したところで、初めてソフィーがジョアンに声を掛けた。



「まあ、なんだ。あんたは素晴らしい火魔法使いだぞ。このまま精進しな。

 それから全員無詠唱で魔法を出せるようにしな。

 あと魔力量は倍に増やせ。

 剣士の私より魔力量が低いのではイカン」



炎帝一同顔を見合わせた後、



「剣士って、あんた、剣士なのか?」


「ああ、剣士だ。 『今日は魔法使いをやれ』って言われたからこの出で立ちだが」



ウォルフガングが補足した。



「あれが正真正銘のB級上位ランカーだ。腕は魔法よりも剣の方が確かだ」


「・・・」


「どうだ、目指しがいがあるだろう?」


「・・・」



炎帝一同、泣きそうな顔でウォルフガングを見た。



「クロエさんもB級ですか?」


「いや、クロエはC級だ」


「わたしはまだまだC級よ~。B級になれそうな気配は無いわね~」


「クロエさんはC級。でも魔法は無詠唱だったな」


「ああ。しかも剣戟しながら使っていた」


「何だって!?」



◇ ◇ ◇ ◇



B級昇格試験の結果など誰も話題にしなくなり、本日何度目かの茫然自失の後、炎帝のメンバーが聞いてきたのは、



「どうしたらそんなに強くなれるんだ」


「どんな訓練をしているんだ」



だった。


ほほう。

炎帝のメンバー。

気持ちの方もイケメンだな。


ソフィーが悪魔の囁きを言う。



「何なら私らのトレーニングに付き合うか?」



顔を見合わせる炎帝のメンバー。

ヤバい雰囲気は感じ取っているらしい。

さすがはB級パーティ。


だが、悪魔の囁きは続く。



「3層でトレントが出るよな。トレントは魔法で倒すと素材の価値は無い。だが剣で倒せたらギルドが高値で買い取る。かなりの収入になる」



急にやる気に満ちる炎帝のメンバー。



「やります」


「お願いします」


「ご一緒させて下さい」



ウォルフガングが「まず君達の訓練を見せてくれ」と言って、炎帝の普段のトレーニングを見せて貰った。


炎帝は魔法に特化した訓練をしていた。

総魔力量を引き上げる訓練。

一度に解放できる魔力量を増やす訓練。



「君達のトレーニングは良いと思う。同じ事を筋肉にもしよう」



地獄の訓練が始まった。



◇ ◇ ◇ ◇



イルアン郊外の草原で口から魂が抜け出ている炎帝のメンバー。


さっきまで死んでいたジョアンがムクリと起き上がり、聞いてきた。



「ギルドは情報を隠しているみたいだけど、ウォーカーは3層を攻略したんでしょう? なにかアドバイスを頂けませんか」



珍しくソフィーが丁寧に教えた。



「お前たちは3層でトレントとストライプドディアーに不意打ちを受けるだろう? その結果、魔法を撃ちすぎて魔力不足になるだろう?

 3層は魔法はサポートだけにとどめ、前衛の剣士だけで倒せるようになれ。

そのためにはトレントとストライプドディアーを正確に感知出来るようになれ。

つまり斥候の索敵能力を磨け」


「前にも言ったがトレントを剣だけで倒せばカネになる。

ストライプドディアーは角と毛皮がカネになる。

やはり剣だけで倒せ。

 魔力量に余裕を持って3層を踏破できるようになるまで、斥候の索敵と前衛の剣士の剣の研鑽を積め。そしてパーティの財政を潤せ。

 後衛は魔法攻撃以外で前衛をサポートする方法を考えろ。

 3層の階層ボスには魔法では手に負えぬ奴が出てくる。ボス部屋に挑む前に剣の腕を徹底的に磨き上げろ。 命に関わる」



魔法では手に負えぬ、というくだりで炎帝メンバーはショックを受けていた。



◇ ◇ ◇ ◇



翌日から気合いの入った表情で草原を走る炎帝がいた。




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