095話 引き続きイルアンダンジョン5層
オーガウィッチの部屋は行き止まりで、その先に繋がっていなかった。
4層から降りてきた階段のところまで戻り、反対側の通路を進んだ。
通路沿いに部屋がある。
部屋の中にオーガが5匹いる。
マロン、通路の先にオーガはいるかな? いない。
部屋の中で戦っている最中に挟み撃ちにされる可能性は低そうだ。
「やってみるか」
ウォルフガングの合図で一斉に部屋の中に侵入する。
そしてオーガとの戦闘に突入する。
前衛がオーガと叩き合いを始めたのを見た率直な感想。
オーガウィッチを経験した後だと落ち着いて見ていられる。
敵に攻撃魔法が無いとこれほど安心できるのかと思う。
ジークフリード、クロエ、ウォルフガングが隊列を組み、後ろに回り込まれないようにソフィーと私が押さえの位置に立つ。
私が押さえになるのか?
ソフィーの命で私は賢者の格好をしている。
賢者なら押さえになる。
炎杖のお陰で、無詠唱でオーガの顔前に火球を作れるから。
後方の通路の索敵はマロン。
ウォーカーの面々も、オーガ達も、無言で黙々と戦う。
どうやらウォルフガングはジークフリードとクロエが危なくなるまではサポートに徹するらしい。自分に1体引きつけて、殺さずにあしらっている。
ジークフリード、クロエは魔法を織り混ぜながら、じっくりとオーガに向き合う。
ジークフリードは砂を目潰しに使いながら、難なくオーガを2体倒した。
クロエは剣戟をしながら素知らぬ顔をしてウインドカッターを放つ。
オーガからすると目に見えない二刀流の相手をしているようなもの。
クロエもジークフリードから遅れること数分でオーガを2体倒した。
残るはウォルフガングの前の1匹。
突然ウォルフガングの剣から火槍が飛び出してオーガの胸に刺さると、一瞬でオーガは燃え上がった。
南無。
魔石を拾い、部屋を見渡したが、シールドオブオーガは出なかった。
あれはオーガウィッチの部屋が特別に落としてくれたものらしい。
ここでもウォルフガングはジークフリードとクロエに対オーガ戦の研鑽を積ませるべく、局面を解説し、対処法を教えていった。
そしてジークフリードの目潰しとクロエのウインドカッター二刀流を評価していた。
通路沿いに出てくるオーガ部屋を攻略していった。
授業から即実践。
オーガには気の毒だが、素晴らしい授業。
ジークフリード、クロエはメキメキと力を付けていった。
通路沿いに見覚えのある青白い壁があった。
いつ見ても不健康そうな色合いだ。
安全地帯だ。
非常食を摂り、休憩し、仮眠し、ここまでの状況確認。
オーガウィッチには手こずったが、概ね順調に来ている。
食事をし、休憩したことで皆の魔力もかなり回復している。
引き続き5層を探索することにした。
ジークフリードとクロエの育成は極めて順調だった。
ウォルフガング流のB級昇格の判断の目安は、脅威度C以上の魔物を複数種類、安定して倒せることだという。
ジークフリードとクロエはマミーとオーガでクリアしたみたいだ。
だが、できれば魔法を操る脅威度C以上の魔物を入れたいらしい。
どんなのがいるのだろう?
レッサーデーモン、レイス、リッチ、オーガウィッチといったところらしい。
ゴーストでは弱いらしい。
ここまで出会ったのはリッチとオーガウィッチ。
どちらも脅威度Bの魔法使い。
ジークフリードとクロエは、さっきまで自信が漲っていたのに、急に青ざめている。
「リッチだったら行けるんじゃない?」
「無理だ。俺らじゃあ先に魔法を撃たれている」
「先に撃たれるとどうなるの?」
「リッチは火魔法を撃つ。火魔法は他の魔法より速いんだ。先に撃たれると、ずっと先手を取られっぱなしになる。こっちのHPを削られて終わっちまう可能性が高い」
「ウォルフガングのダッシュをマネすれば・・・」
「簡単に言うなっ!!」
「オーガウィッチは?」
「研鑽を積めば攻略の糸口を掴めるかなぁ」
「ウォルフガングみたいに炙っちゃえば?」
「あれは俺らでは無理。違う方法じゃないと・・・」
まあ、考えているようなので良しとします。
5層の階層ボス部屋に着いた。
扉が少し壊れていたので中をチラッと覗く。
部屋は広いがその部屋が窮屈に感じるほど大きな魔物がいる。
オーガキング×1、オーガ×9。
種族:オーガキング
年齢:5歳
魔法:―
特殊能力:人語理解
脅威度:Bクラス
初めて1歳以外の魔物が出て来た。
ダンジョンよりも年上と言うことになる。
どうやってここに入ったのだろう?
身長は2.5mといったところ。
得物を見る。
黒光りする棍棒。
手下のオーガが持つレギュラー品の棍棒に比べると表面が滑らかで、巨大な金属バットのようだ。そしてスパイクが付いている。破壊力がありそうだ。グリップ部分は握り心地が良さそうだ。
正に「鬼に金棒」。
どこかの貴族が着てもおかしくないような立派な鎧を着ている。
あんなにデカい貴族はいないと思うが。
どこかの騎士団長が持っていてもおかしくないほどの立派な盾をお持ちだ。
人間では持ち運びに難儀するほど重そうだが。
兜も立派だ。
兜に付いた角が大きすぎて重心が上にあり、頭を振ったときズレ落ちそうだ。
あごひもは必ず着けようね。
配下のオーガはいつもの奴だが、数がちょっと多い。
ウォルフガングがオーガキングを睨んで、指示を出しあぐねていたので、ちょいちょいと袖を引っ張って通路を引き返した。
最寄りのオーガ部屋の前まで戻ると、まだ部屋にオーガが湧いていなかったので中に入った。
車座になって打ち合わせ。
「悩んでいたようですが?」
「あのオーガキングの強さが読めなくてな」
「あれは普通のオーガキングではないと?」
「いや、以前儂が見た奴が特殊なのか、あれが特殊なのか、わからん。以前儂が見たオーガキングより装備が豪華で体躯も一回り大きいのだ」
「・・・」
「ソフィーはオーガキングと手合わせしたことはあるか?」
「ええ。1度あります。オーガ集落の討伐で、統合作戦に参加したことが御座います」
「それは・・・ 騎士団案件ではないのか?」
「本来はそうでしょう。ですがオーガが60匹以上おりまして、小さな領では騎士団にも限界があって、十分な戦力を確保できなかったのです。統合作戦本部長は騎士団長が務め、騎士団、冒険者パーティが部隊として動きました」
「ふむ。それでどうだったのだ?」
「私のいた部隊がオーガキングを討ち取りました。先ほど見たオーガキングより装備はプアでしたが、大きさは同じです」
「難儀するようなことはあったか?」
「いえ。全て想定の範囲内でした。強さ、耐久は通常のオーガの倍でした。先のオーガキングは装備が良いので、2.5倍と考えて下されば間違いありません」
「ふむ。ではやってみよう」
再度階層ボス部屋の前まで進み、一旦停止。
全員魔力を集中。
そしてボス部屋へ突入した。
突入と同時に前衛の2人 (ウォルフガングとクロエ)が魔力攻撃を行う。
不意打ちで火槍とウインドカッターを喰らったオーガが2体崩れ落ちた。
残ったのはオーガキング×1、オーガ×7。
オーガキングは動かない。
配下に命じているだけ。
何を命じているかというと、一番弱っちい奴を殺せ、という命令。
この感覚は久しぶりだ。
オーガが7匹もいるのでソフィーも前衛に加わり、私を守る防衛線を構成する。
防衛線は安定している。
ウォルフガングの意図は少しずつオーガの数を減らし、最後にオーガキングを袋叩きにするのだと思う。
オーガキングを見ると、私を殺せと言う命令を出した後、何もせずに督戦している。
なので少し嫌がらせをしてやろうと思う。
ヤツデの葉を編んで作った小箱を取り出し、スリングショットで山なりの軌道でオーガキングの兜目がけて打ち出した。
兜にぶつかるかなと思ったが、さすがはオーガキング。素早く棍棒で小箱を払った。
払うと同時に白い粉が飛び散り、オーガキングの頭を白い雲が覆った。
すかさず火を付けた。
オーガキングの顔面で爆発が起きた。
オーガキングは棍棒と大盾を放り捨て、兜をむしり取り、両手で顔を押さえて床の上を転げ回って苦しんでいる。
オーガ共の動きが一瞬止まった。
オーガキングとオーガの間のリンクが切れたような感じになった。
指揮命令系統が途切れ、一瞬何をすれば良いかわからなくなったらしい。
オーガ共は7匹とも戦闘を止め、後ろを振り向いていた。
ウチの前衛があっさりと7匹を倒した。
ようやくオーガキングが床に膝を突いて立ち上がろうとしていた。
物凄い目で私を睨んでいる。
あいつを殺す・・・
我が輩をこんな目に合わせたあいつだけは絶対に殺す。
そんな声が聞こえてきそうだ。
あれは骨の髄まで私を恨んでいる目だ。
だが、7匹の配下に私を殺させる命令を出した時点でお相子だろう。
オーガキングは落とした得物をたぐり寄せようと手探りしたが、棍棒と大盾と兜はクロエが風魔法で部屋の隅に吹っ飛ばしている。
得物を掴もうとしたオーガキングの手が空振りに終わるのと、ウチの前衛4人がオーガキングを取り囲むのは同時だった。
何とも言えない表情でオーガキングは周囲を見渡す。
「・・・死ね」
ウォーカーの前衛の剣が一斉に振り下ろされた。
◇ ◇ ◇ ◇
この部屋では宝箱は出なかった。
その代わりオーガキングが持っていた装備が残された。
オーガメイス :黒光りする棍棒
オーガプレート:巨大で立派な鎧
オーガシールド:巨大で立派な大盾
オーガヘルム :巨大で立派な兜(角付き)
オーガメイスは長剣と同等の攻撃力だが、鎧に対する攻撃力(貫通力)はオーガメイスの方が上だ。スパイクが付いているからだろう。
オーガシリーズの防具は、大きさの割に重くなく、ちょっと感心した。
性能も通常のプレートメイル、シールド、ヘルムよりも頑丈だった。
パーティの誰かに装着して欲しかったのだが、一番体のデカいウォルフガングですらサイズが合わないため、諦めた。
手下のオーガが装備していたシールドオブオーガは9個残された。
魔石共々回収した。
勝ったときこそ反省会。
皆さんの素直な感想を聞けるから。
「いきなりオーガキングを倒す、という発想はなかった」
「常に有効かどうかわかりませんが、パーティを組む敵には有効かも知れません」
「鍵は攻撃方法だな。何を使ったんだ?」
「スリングショットです」
「白い煙は?」
「まとめてゴーストを倒すときと同じ奴です」
「ほほー 面白いな」
「オーガを殺すほどの威力はありませんが、パニックになるでしょう」
「先制攻撃に使えそうだな」
「俺たちも魂消たぜ。やるときゃ事前に教えて欲しいな」
「声や音で教えるとオーガに気付かれてしまいそうですね」
「う~~ん」
「ヤツデの葉の小箱をチラッと見せるのはどうでしょう」
「それだ」
「あのオーガキングは5歳でした。ダンジョンより年上なのは何故でしょう?」
「私も又聞きだから真偽はわからないが・・・」
と前置きしてソフィーが教えてくれた。
洞窟や凹みに魔物の死体が集まり、魔力溜まりが出来て、一定量を超えるとダンジョンコアが生まれるとされる。
この過程は常に一方通行で進むわけでは無い。
殆どダンジョンコアになっていた魔力溜まりが水龍の呪いで流される。
水が引いて落ち着いた場所で再び魔力を溜める。
また水龍の呪いで流される。
そんなことを繰り返すと、出来たばかりのダンジョンでも5年物の魔物が出ることは不思議じゃない。
一同真剣にソフィー先生のダンジョン講座を聴いていた。
ボス部屋の先に通路がある。
六層へ続く通路。
いつもなら下層の魔物が上がってきているのだが、今回はいない。
そろりそろりと階段まで進む。
そして階段の下を覗きこむ。
見覚えのある赤い巨体が見えた。
ウォルフガングが息を呑むのがわかった。




