094話 イルアンダンジョン5層
冒険者ギルド・ダンジョン出張所に立ち寄り、出ダンジョン記録を残し、テレーザにおおよその経緯を話し、4層の様相が変化した情報を共有した。
ジークフリードとクロエとマロンは屋敷に帰し、ウォルフガングとソフィーと私は冒険者ギルドへ向かった。
C級、D級の魔石を売ってから(リッチの魔石は売らなかった)、ギルド長室でアドリアーナとカレンと密談。
詳細な情報共有をした。
4層で出てくる魔物が変化した。
以前はスケルトンメイジ+ブラックサーペントのコンビだったが、アンデッド階になった。出てくる魔物はゴーストとマミー。
ボス部屋は、リッチは変わらないが、眷属がスケルトンメイジからマミーに変わった。
ボスを倒した後、宝箱が出るようになったが、罠が仕掛けられている。
今回は毒矢だった。
ゴーストとマミーの性質と対処法を伝えた。
5層へ続く階段に向かう通路でオーガが複数出てくる。
オーガについては入念にレクチャーした。
知能が高く、人語を解する。
冒険者パーティ内の会話を拾い、冒険者パーティがどのような攻撃をするか読んで対処してくる。人間のパーティと戦っているのと変わりない。
従ってオーガを見てから作戦を立て、パーティに伝達していると不覚を取る。
引き続きアドリアーナは4層の情報は未公表とするらしい。
◇ ◇ ◇ ◇
屋敷に戻ってからウォーカーのメンバーの職業を再鑑定した。
ウォルフガング:魔法剣士(火)
ジークフリード:魔法剣士(土)
クロエ :魔法剣士(風)
ソフィー :魔術師(水)
マロン :斥候
ビトー :賢者(火・光・闇)
どう見ても変だ。
ソフィー先生に聞いてみたところ、全員をリビングに集めるよう言われた。
「もう一度皆聞こえるように言って見ろ」
私が鑑定した皆の職業を言った。
マロン以外、驚いていた。
「儂が魔法剣士だと・・・ これ(ソードオブヘスティア)のお陰か」
「おそらく。ウォルフガングは相当魔法の研鑽を積んだのでしょう?」
「ああ。火の素養はあったから何としてもモノにしようとしてな、かなり時間を掛けた。だが実戦で使えるレベルにはならなかった。それがこれのお陰か」
「なにか良いことがあるんですか?」
「儂はB級冒険者だが、A級は全員魔法剣士または魔法槍士なのだ。物理攻撃だけでは越えられない壁があるのだ」
「ということは?」
「いや、今更A級を目指そうなどとは思わん。A級相当の力を振るえると思えば良い気分だ」
クロエはピンと来ているようだった。
以前より剣戟に風を乗せる訓練をしていたらしい。
逆にジークフリードはピンときていないようだった。
「俺が魔法剣士? どんな魔法だろう?」
「マミー相手に目潰し、使っていませんでした?」
「ああ・・ 使っていたな。 ああ・・ 砂を補充しとかなきゃ」
「良くわからないのがソフィーですね。魔法剣士をとばして魔術師とは」
「今回はダンジョンの中で殆ど剣を振っていなかったからな。確かに最近は魔法の通りがやけに良いな」
「剣も振れる魔術師ですか」
「そういうお前は何だ」
「わかりません。Wise、ワイス、賢者ですね」
「お前が賢者か?」
「そうなんですよー 賢そうでしょ?」
「冗談はさておき、どんな職業なのだ」
「攻撃系の魔法と治癒系の魔法、両方使える職業みたいです」
「炎杖でマミーをいたぶっていたな。アレか」
「イヤな言い方ですがそれです」
「ビショップ、僧正ではないのだな」
「宗教色は無しで・・・」
それからオーガ戦の工夫を話し合った。
事前に幾通りかの隊列記憶しておき、ウォルフガングの暗号指示で動き出す様にしておく。
「挟み撃ちの対処法は?」
全員考え込んでしまった。
挟み撃ちが無いとは言い切れない。
というか、ある、と思った方が良い。
2正面作戦は困難だが、後方のオーガを足止めしなければならない。
「その役目は私が引き受けよう。マロンは私に付いてくれ」
「わうっ」
ソフィーが頼まれてくれた。
最後はウォルフガングが締めた。
「3日後に5層へ挑戦する。それまでに各自無詠唱で魔法を撃つ訓練をしておけ」
◇ ◇ ◇ ◇
夜。ベッドに座って考えていた。
「どうした?」
ソフィーが聞いてきた。
「あの剣について考えていました」
「うん」
「宝箱というのは気まぐれで出る物では無いです。ダンジョンが消化しきれずに排出した物が宝箱です」
「ああ、そうだな」
「イルアンダンジョンは出来たばかりです。あの剣はどこから来たのでしょう?」
「水龍の呪いに稀少な剣を持った冒険者が巻き込まれたのだろうな。そして魔力溜りに流れ着いた。それも相当昔のことだ」
「死んでリッチになった魔術師か魔法剣士が持っていた、ということは?」
「ありえるな」
「例の不快な奴が持っていた剣をダンジョンに放り込みましたが、それが変化した可能性はありますか?」
「宝箱としてダンジョン内に吐き出されるにしては早すぎる。それに出るとしたら入口付近だぞ」
「・・・そうですね」
ソフィーはしばらく私を見ていたが、突然私をベッドに押し倒して馬乗りになった。
「それよりもゴーストを殲滅した方法を言え」
「え~っと・・・」
「白い粉だ」
「はい・・ あれは小麦粉です」
「それは聞いた」
「小麦粉って、そのまま火を付けようとしても燃えません」
「そうだ。黒く焼けるだけだ」
「ですが、バラバラの状態にすると爆発的に燃えるんです」
「バラバラ?」
「粉状にして、空中に散布するんです」
「燃えるのか?」
「激しく燃えます。ゴーストの頭上に粉を撒いて、炎杖で火球を撃ったんです」
「光で物を切るとか、小麦で爆発とか、おまえのそういう知識はどこから来るのだ?」
「前世からですね~」
ソフィーはしばらく私の顔を見ていた。
◇ ◇ ◇ ◇
私は今、イルアンの道具屋にいる。
スリングショットを見ている。
最初武器屋に行ったのだが、子供のおもちゃですねーと言われ、道具屋に流れた。
確かにこれだけでは魔物は倒せない。
そういう意味ではおもちゃなのかも知れない。
私は大真面目なのだが。
手に馴染む物、狙いをつけやすい物、速度・飛距離を調整しやすい物、投擲できる重さを考慮して2点購入した。
小石を拾いに河原へ行った。
川砂を拾いに来ていたジークフリードと一緒に屋敷に帰った。
屋敷で内職。
こっちの世界のヤツデみたいな葉を編んで小箱を作った。
中に入れるのは小麦粉。
いくつも作った。
準備完了。
◇ ◇ ◇ ◇
4層でマミーとゴーストと戯れてジークフリードとクロエと私のレベルアップに励み、ボス部屋でリッチと戯れてウォルフガングとソフィーのレベルアップに励んだ。
今回は宝箱は出なかった。
ここでソフィーの指示が出た。
「ここから先はお前の剣ではどうにもならない。隠密の革鎧の効果もオーガどもには効いていない。魔術師と治癒士に徹しろ」
「はい」
私は斥候の装備から賢者の装備に変えた。
隠密の革鎧から賢者の法衣に。
脇差から炎杖に。
隠密の小盾や斥候の手袋はそのまま装備。
ややちぐはぐ感はある。
5層への階段へ続く通路にいる。
ウォルフガングが手信号で指示を出す。
(Aだ)
(了解)
全員無言で「了解」の合図をして、フォーメーションを組む。
ウォルフガングの火魔法で先制攻撃。
混乱するオーガの中の2匹をウォルフガングとソフィーが切り捨てる。
のこり3匹をジークフリードとクロエと私とマロンで削っていく。
すぐにウォルフガングとソフィーが参戦し、袋叩き。
通路のオーガは安定して倒せるようになった。
◇ ◇ ◇ ◇
5層へ続く階段から下を見ている。
降りたところは部屋では無い。通路だ。
通路にオーガは見当たらないが、いかにも挟み撃ちにして下さいという感じ。
マロンを先頭に、ソロリ、ソロリと降りていった。
真っ先に降り立ったマロンが降りてこいと合図をする。
全員降りると当初の予定通り、前衛はウォルフガング、ジークフリード、クロエ。
中衛は私、後衛はソフィー、マロンで探索をすすめる。
5層は見た目は洞窟風岩肌だが、床には土がある様に見える。
全員に立ち止まってもらい、手信号でジークフリードに土魔法を試して貰う。
土だった。
そろそろ進むと広い部屋に出た。
中を覗くと壁際にオーガがいた。
8匹。
1匹外見の異なる奴がいる。
他のオーガより角が長い。
肌の色が薄い。普通のオーガは緑色をしているが、淡い緑色。
持っている棍棒は他のオーガの持つ棍棒もよりも長く、細い。
盾は持っていないようだ。
よく見ると・・・ 女性だった。
オーガに性別があるんだ。
一つ賢くなった。
ウォルフガングが手ぶりで伝える。
(行けるな?)
(問題無いな?)
(各自魔法を撃つ準備は出来ているな?)
(行くぞっ!)
部屋に突入した。
◇ ◇ ◇ ◇
突入と同時に不意打ちを喰らった。
結論から言うと、予想が甘かった。
洞窟内に土がある時点で想定しておくべきだった。
広間に侵入した我々を確認した女性のオーガが岩弾の弾幕を張ったのだ。
前衛の3人はすぐに大盾を構えたが、それでも2、3発は弾を受けたようだ。
鎧越しでもかなりのダメージを受けている。
ソフィーが巨大な氷壁を張ってパーティを守り、私が治癒した。
全員すぐに全快。
オーガが氷壁を回り込んで来た。
左右から2匹ずつ。
だが、ソフィーが無言で氷槍で串刺しにした。
ソフィーはオーガの正面に氷槍を撃った。
これは “見せる” 攻撃だった。
正面の氷槍をオーガに盾で防がせておき、その隙に頭上から氷槍を落とした。
それを4匹相手に同時にやってのけた。
残ったオーガは4。
改めてオーガを鑑定する。
男のオーガは妙なところは無い。
女のオーガは・・・
種族:オーガウィッチ
年齢:1歳
魔法:土
特殊能力:人語理解
脅威度:Bクラス
小声で
「角の長いオーガはオーガウィッチ。土魔法使いです」
「わかった」
ウォルフガングの合図でソフィーが氷壁を消し、それと同時に前衛がオーガに突進した。
ウォルフガングが立て続けに見栄えの良い火球を打ち込むと、オーガウィッチは正面に土壁を出した。
土壁の出現を見届けると、ウォルフガングは壁の横から連続して火炎を放ち始めた。
クロエの風魔法がサポートしているらしく、火炎放射器のようになっていた。
気付くと、ウォルフガングが炎を撃ち込む方向の反対側はジークフリードが土壁を作ってオーガの逃げ道を塞いでおり、中はかまどのようになっていた。
オーガどもの断末魔の悲鳴が聞こえ、土壁が消えた。
オーガウィッチが、自分が出した壁を消したらしい。
ソフィーがとどめを刺そうとしたが、その前にオーガ4匹は動かなくなった。
後にはオーガウィッチの持っていた杖と、オーガの持っていた盾が7つ残された。
宝箱は無い。
【ロッドオブウィッチ】
魔法の発現を助ける杖。
【シールドオブオーガ】
オーガの大盾。通常の大盾より硬く軽い大楯。
シールドオブオーガはウォーカーの前衛の4人に装備して貰った。
魔石を拾って反省会。
「オーガに女がいるんだと感心してしまって、鑑定することを忘れていました。オーガウィッチは魔法使いなのですね」
「儂もオーガに魔法使いがいる可能性に気づけなかった」
「ダンジョン内に土がある時点で予測しなければならなかったのね」
「そうだな」
「でも治癒魔法士が一緒にいてくれて助かった」
「治癒魔法士が一緒にダンジョンに潜ってくれるなんて贅沢だったのね。気づかなかったわ」
私はぼんやりと方向性の違う感想を持ったが口に出しては言わなかった。
初めてフェリックスが魔法を使うところを見たとき、魔法使いは恐ろしいと思った。
心底震えた。
それと同じ感想をソフィーに対して持った。
ソフィーの魔法の使い方は魔法剣士のものではない。
魔法使いのそれだ。
そう強く感じた。




