092話 イルアンダンジョン4層ふたたび
2025/4/22 誤字修正
私とソフィーが不在の間、ウォルフガングたちはダンジョン城下町の点検をしてくれていた。
万事順調。不具合は報告されていない。
冒険者達は年貢(果実類)の輸送の護衛のため、大半がイルアンを去っていた。
ダンジョンの探索は3層の探索が意外と進んでいない。
安全地帯の周辺のみマップが充実している。
冒険者達はトレントとの戦いで魔力を消耗してしまい、その先の探索が厳しいのだ。
安全地帯で魔力を回復し、トレントを倒し、また安全地帯で魔力を回復する。
このループに嵌まっている。
とは言え無駄ではない。
鍛えられ、レベルが上がれば楽にトレントを倒すことができるようになる。
今、ダンジョンは空いている。
ではダンジョンを探索しても良いかな。
アイシャ様の言葉によると、今のうちに深層まで潜った方が良いらしいし。
そう言うと、留守番組(ウォルフガング、ジークフリード、クロエ)が食いついてきた。
「アイシャ様から何か言われたのか?」
「なに? 何て言われたの?」
「4層は様相が変わっているはずだから注意しろ。お前たちでも苦労するぞ、と言われました」
「そうか・・・」
「ただし、大きな変化はこれで終わりかな、とも言われました」
「うむ。やる気が湧いてくるお言葉だ」
「冒険者ギルドから『3層で見慣れない魔物を見た』と言う報告があったんだが、このことか。変化した4層の魔物が流れてきているのだな」
「よし、明日から潜るぞ。準備をしておけ」
「「 おおっ 」」
◇ ◇ ◇ ◇
明日からのダンジョン攻略に向けて、私は炎杖を持ちながらイルアン郊外の川沿いの草原を走っている。
全力で10分走。
800mダッシュ。
走りながら火球を撃つ。
火球は川面に撃ち込む。
今は冬枯れの時期なので、草原に撃ったら火事になる。
炎杖が高性能なお陰なのだろう。
長ったらしい呪文を唱えることなく、無詠唱で火球を撃てる。
そして剣戟。
転がりながら剣戟。
再び全力で10分走。
気付いたら2時間も経っていた。
帰り道、ちょっと考えた。
走りながら火球も使えたし炎杖は私が持つようだ。
ということはソフィーの言うとおり、私はウォーカーの治癒士(兼)魔術師か。
メインは治癒士で魔術師はおまけだが、そうはいっても火力が欲しいときはきっとある。
魔力の節約対策が必要かな。
食材屋に立ち寄った。
「あら、お兄さん。あんた料理するの?」
「とてもとても。命令された物を買って帰るだけです」
「何を買ってこいと言われたの?」
「小麦粉です・・・」
「どのくらい必要なの?」
「3kgくらいかなぁ」
5kg一袋を買った。
道具屋に立ち寄った。
木製の筒を買った。
河原に戻って試してみた。
なかなか思った通りにならない。
風があるとうまくいかない。
色々不満はあるが、実戦で試してみることにした。
◇ ◇ ◇ ◇
ウォーカーは4層の再攻略に向けて、3層の階層ボス部屋の前にいる。
ここまでは変な魔物には遭わなかった。
トレントもストライプドディアーもきっちり探知できている。
「前回はブルーディアーがいた。今回は何がいるかわからん。心して掛かれ」
ウォルフガングはそう言うと、扉を開け放った。
いたのはやはりブルーティアーだった。
ダンジョン内でホッとしてはいけないけど、ホッとした。
3層の階層ボスを倒して4層へ繋がる通路を進む。
前回はスケルトンメイジがいたが、今回は・・・ いない?
マロンが立ち止まって前方を見ている。
全員無言で前方を探る。
前方を鑑定。
・・・
いた。
半透明で見えにくかった。
種族:ゴースト(死霊)
年齢:―
魔法:デ・ヒール
特殊能力:物理攻撃が通りにくい、人語理解
脅威度:Dクラス
半透明で全長がわかりにくい。
シルエットは、かろうじて人型かなぁ? といった感じ。
空を飛ぶわけではないが、歩いているわけでもない。
地面すれすれを漂っている感じ。
小声で鑑定結果を告げた。
「ゴーストです。3体。打撃は効きにくいようです。デ・ヒールで攻撃してきます」
「他は?」
「ゴーストだけです」
「よし。ビトーとエナジー・ドレイン対決だな。やってみろ」
え~と。
敵は脅威度Dが3体。 私はE級・・・ 圧倒的じゃないですか。敵が。
と言うわけで敵が迫ってこないことを確認して事前準備。
トレントの樹皮の端切れ2枚とハーピーの羽根を1枚取り出す。
遠隔操作でハーピーの羽根を漂わせる。
うん。いい感じ。
トレントの樹皮の端切れに自分の魔力を吹き込む。
脇差とショートソード・アクセルを抜き、先端にトレントの樹皮の端切れをぶら下げ、自分に認識阻害を掛け、さあ出発。
脇差とショートソード・アクセルを前方に突き出す。
「さてどこからが敵さんの探知範囲かな?」 と探りながらそろそろと進む。
お・・・
ブラウン運動のように不規則に漂っていたゴースト達がピタリととまった。
こっちを見ているようだ。
3体一斉にこちらに動き始めた。
良い感じに引き寄せて・・・
漂わせていたハーピーの羽根をライトボム化した。
いきなり強い光を浴びせられたゴーストは硬直した。
2体のゴーストに脇差とショートソード・アクセルの先端をチクリと刺し、デ・ヒールを掛けた。
驚いたことにデ・ヒールの一撃でゴーストは魔石を残して即座に消滅した。
もともとHPは極端に低いらしい。死霊だからな。
もう1体のゴーストも脇差しを刺してデ・ヒールで成仏させた。
ハーピーの羽根とトレントの樹皮を回収する。
トレントの樹皮は私が吹き込んだ魔力が抜けていた。デ・ヒールにやられたらしい。
ちょっと驚いた感じでウォルフガングに聞かれた。
「お前、ゴーストが強い光に弱いって知っていたのか?」
「はい。ソフィーに聞きました」
「そうか」
◇ ◇ ◇ ◇
4層の攻略し直し。
まずは魔物の種類を調べる。
前回はスケルトンメイジ+ブラックサーペントのコンボだった。
変化後は・・・
はい。
階段を降りたところにゴースト達がたむろしていました。6体。
4層はアンデッドのフロアになっているようだ。
だが6体はちょっと考える。
3層の通路まで撤退。
「6体いましたね」
「ビトーでもキツイか?」
「あの・・・ 私はE級冒険者で、ゴーストは脅威度Dなのですが」
「安心しろ。お前はもうD級冒険者の実力はある」
ウォルフガングは笑って背中を叩いた。
引き続き私に任せる気らしいので考えた。
まともに突っ込んだら駄目だ。
トレントの皮で間合いをずらす方法も、数が多いとすり抜けてくるだろう。
ゴーストは物理攻撃が通り難いが、光と炎とデ・ヒールに弱いという(ソフィー情報)。
ということで、ぶっつけ本番で試してみることにした。
そ~っと階段まで戻って下を覗く。
いるいる。
こちらは階段の上。
ゴースト達は階段の下。
試すには丁度良い。
木の筒の端を口元に当てて「フッ」と吹く。
ゴースト達の頭上に白い煙がふわっと拡がり、降りていく。
そして・・・ 炎杖で火を付けた。
「ボッ!」
一瞬、ゴーストたちのいる空間に巨大な炎が拡がった。
炎の大きさの割には控えめな音がした。
そしてゴーストはいなくなり、魔石が6個転がっていた。
マロンに索敵をお願いしながら魔石を拾っていると他のメンバーも降りてきた。
ソフィーが私の背中にピタリとくっついて尋問。
「今のは何だ?」
「火です」
「火はわかった。何をした?」
「小麦粉を煙のように撒いて、火を付けました」
「小麦粉?」
「ええ」
「・・・あとでじっくり教えろ」
「はい」
クロエが重要なことを教えてくれた。
「ビトー様がまとめて片付けてくれて助かったわ。
6体いたから普通一人一体でしょ?
ゴーストのデ・ヒールを喰らうとね、そのあとでポーション飲んでも回復が遅いのよ。
1週間くらい調子が悪くなるの。どうしようかと思っちゃった。」
エナジー・ドレイン攻撃とはそういうものらしい。
私のデ・ヒールを喰らった人たちも1週間くらいは腹具合が悪かったのかな?
4層を進む。
地図(経路)は変わっていない。
ダンジョンらしからぬ “暗さ” も変わっていない。
だが出てくる魔物は変わっていた。
次に出て来たのは病院から抜け出してきたような包帯男(女?)だった。
体中に薄汚い包帯を纏い、言葉にならないうなり声を上げながら襲いかかってきた。
コイツは単独行動が基本らしく、1体で出て来た。
そこは評価する。
だが1体でも厄介な奴で、まずデカイ(2m級、ウォルフガングとほぼ同じ背丈)。
得物は持っていない。爪が武器らしい。
そして力が強い。
スタミナのお化け。
ウォルフガング、ジークフリード、クロエが前面に立って敵を削っていく。
この間に鑑定を済ます。
種族:マミー(ミイラ)
年齢:―
魔法:なし
特殊能力:毒
脅威度:C+クラス
「毒に注意してください」
「わかってる」
ウォルフガング、ジークフリード、クロエは決して突出せず、壁を作ってマミーを抑え込んでいる。
ウォルフガングの剣なら一刀両断できそうな気もするが、あえてしないと言うことはジークフリード、クロエに慣れさせようとしているのだろう。
かなりマミーを削ったな。
そろそろ勝敗が付くな。
と思った頃、ソフィーが私とマロンを更に後退させた。
何があるのだろうと思った瞬間、マミーが唾を吐いた!
唾はもう少しで私に届くところまで飛んできた。
「唾は避けた」
「よし」
ソフィーの声を聞いたウォルフガングは満足そうにうなずくと、一撃でマミーを切り裂いた。
マミーは死ぬと同時にボロボロに風化してダンジョンに飲まれていった。
後に魔石だけ残った。
◇ ◇ ◇ ◇
4層はアンデッド階になっていた。
ゴーストは目立たぬようにそっと近づいてくる。
戦闘も地味。
マミーは遠くから正体を現して、どしどし近づいてくる。
戦闘はアンデッドのくせに肉体派で毒持ち。
最後に一矢報いようとするのがイヤだ。
やはりウォルフガングはジークフリードとクロエに対マミー戦の研鑽を積ませたかったらしく、一戦終わる度に各局面を解説し、対処法を教えていった。
物凄い授業だと思う。
教える側のレベル、教えを乞う側のレベル、実践教育の場所、全てが揃わないと、どれだけ金を積んでもこの授業は受けられない。
ソフィーは涼しい顔をしている。ソフィーにとっては旧知のことなのだろう。
ソフィーはどこで研鑽を積んだのだろう。
また、私に対する教育は無いのだろうか。
暇そうにしていたので聞いてみた。
「ゴースト対策のレクチャーはないのですか?」
「教えるまでもない。お前は既に対応しているじゃないか」
「あれで良かったのですね」
「さあな」
「なんですか、その投げやりな回答は」
「一般にアンデッドには火魔法、光魔法、闇魔法が効くとされる。私はどれも使えないからレクチャー出来ぬ」
「火魔法・・・ マミーにも火魔法は有効ですか?」
「ああ。包帯を燃やすと弱体化する」
「それを早く教えてください。燃やしたのに」
「今は駄目だ。ジークフリードとクロエを鍛えているところだからな」
「確かに」
この階層は私とジークフリードとクロエのレベルアップを目指す階層になった。




