091話 古森にて
ハーフォードに着くと、マーラー商会ハーフォード支店までアンナと護衛を送り届けた。
そしてそのまま公爵へお目通り。
打ち合わせには公爵と公爵夫人、バーナード騎士団長、ジュード(冒険者ギルド長)が参加された。
ダンジョンの報告・・・ の前に、イルアンの村を襲った魔物のスタンピードの報告を所望された。
「魔物はゴブリンが約250、スケルトンが約100でした」
「魔物のくる方角から見て、ダンジョンが排出したものと判断しました」
「その後、ダンジョンにも潜りましたが、初層で出てくる魔物はゴブリンとスケルトンでしたので間違いありません」
「だたし、第一報ではスタンピードと報告したと記憶しておりますが、実際に迎え撃ってみると、魔物は狂騒状態ではありませんでした」
「むしろ整然と襲ってきました」
「イルアンには東西南北の4つの門があります。そのうち西門が破壊されてしまったので、他の3門を閉め切り、西門を決戦場にしました」
ここで騎士団長から質問。
「待て。ゴブリンやスケルトンに門を破壊されたのか?」
「はい。スケルトンの中に魔法使いがおり、風魔法で蝶番を捻じ曲げられました。門が閉まっていれば耐えられたと考えますが、中途半端に開いた状態でした」
「なんと。スケルトンメイジがいたのか」
「はい」
騎士団長は先を促した。
「破壊された西門の内側で決戦を行いました。門の内側に自警団を布陣し、魔物を少数ずつ門内に引き入れて迎え撃ちました」
「しかしスケルトンメイジは自警団の手に負えまい」
「そこは我々が対処致しました」
「う~む、一度その方らの戦闘を見てみたいものだ」
イルアンダンジョンの情報共有。
初層から4層までのハザードマップを献上し、出てくる魔物と脅威度を報告すると、騎士団長とジュードは色めき立った。
「まて。今何と言った」
「4層の階層ボスはリッチでございました」
「お主、リッチを・・・」
「何とか討伐致しました」
「信じられぬ・・・」
「リッチの魔石で御座います。公爵閣下に献上致します」
そう言って騎士団長に渡す。
騎士団長とジュードが食い入るように検分する。
やがて、
「間違い御座いません。リッチ・・・ 脅威度Bの魔法使いの魔石です」
そういって公爵へ献上する。
騎士団長が公爵と公爵夫人へリッチの脅威を説明する。
騎士団が総出で成敗するほどの魔物である、と聞かされると、公爵も公爵夫人も顔が白くなっていた。
「リッチが4層で出たのか・・・」
「5層はあるのか?」
「はい。深層へ続く階段を確認しております」
一同しばし沈黙した。
ややあって、ジュードが気を取り直して聞いてきた。
「今後どうする気だ?」
「深層の探索は慎重にするべきと考えます。
幸い先頭を走る冒険者パーティはようやく3層に到達したところです。
4層の探索はまだまだ先になりましょう。
実は4層のマップも魔物も公表しておりません」
「よい判断だ」
「そろそろ秋の味覚の輸送の護衛が始まりますので、冒険者達は一旦イルアンを離れるでしょう」
「そうか・・・」
公爵はホッとされたようだった。
公爵と騎士団長とジュードが退出されてから、公爵夫人がソフィーを呼び寄せた。
「あなたはダンジョン探索に参加しているのですか?」
「・・・しております」
しばし公爵夫人のお説教タイム。
頭を垂れて謹聴する二人。
「イルアンを預かる者の妻として、治安を疎かにすることは出来ませぬ。しかし貴族の妻であること片時も忘れず、貴族らしく優雅に、華麗に敵を葬ること、お誓い申し上げます」
そう言上して許して頂いた。
公爵夫人が退出されてから入れ替わるように騎士団長とジュードが入ってきた。
ハザードマップを指差しながらダンジョンの詳細を聞かれる。
初層、2層、3層と、全部食いついてくる。
「高難度ダンジョンであることは間違いありません」
「リッチがとんでもないということはわかるが・・・」
「初層から他のダンジョンと異なります」
「何が違うのだ」
「魔物が単独で彷徨う事はありません。必ずパーティを組んできます。冒険者パーティ対魔物パーティの戦いになります」
「・・・」
「冒険者は集団戦をする魔物との戦闘経験はありませんので、初層から難儀するのです」
「魔物が集団戦をするとはどういうことだ?」
「スケルトンのパーティの中にスケルトンナイトがいます。これが冒険者パーティの中の最も弱いメンバーを見抜きます。うちの場合は私ですね。そして配下のスケルトンに私を殺すように命令します。私はスケルトンの集中攻撃を受けます」
「えげつないな。だがどうしてそなたは助かったのだ?」
「私が集中攻撃を受けることはわかっていますので、隊列を工夫します。私の両脇に強力な前衛を置いて迎え撃つのです」
「ソフィー様とウォルフガング殿か」
「ではないのですが・・・」
「違うのか。そなたのパーティはどうなっているのだ・・・」
「それから狭い通路上で魔物のパーティに挟み撃ちにされます。2層は常に挟み撃ちにされる階層ですね」
「本当にえげつないな・・・」
「ええ。魔物のパーティが1つの時は、うちのパーティは私を守りながら戦いますが、挟み撃ちにされると私を守りながら戦えなくなります。その結果、どうしても私も前線に出ざるを得ません」
「お主ら、そんなダンジョンをよく4層まで行ったな」
リッチとの戦いも聞かれた。
「リッチに先に魔法を撃たせてしまっては手に負えなくなります。そこでいきなり接近して息もつかせぬ剣圧で圧倒しました。前衛4人で取り囲んでHPを削りきりました」
「理屈はわかるが・・・ それが出来ると言うところが・・・」
公爵の館を辞した。
何か頼まれてないよね?
ソフィーに聞いたが、頼まれていない。
ということで、ハーフォードの街で『ハーフォードの月』『レントの誉』『ハミルトンの雫』を大量に買い込んで、馬に乗ってヒックスに向けて出発した。
◇ ◇ ◇ ◇
ヒックスでは真っ先にマーラー商会本店へ行った。
ユミと再会を喜び合い、マーラー会頭に挨拶。
早速マーラー、ユミ、ソフィー、私で打ち合わせ。
「アイシャ様はビトー様と早く話をされたいようです」
「急いで下さい」
すぐにヒックスを出発した。
古森でどれだけ時間を取られるかわからなかったので馬は止め、商会の馬車で古森まで送って貰い、古森の手前で馬車を帰した。
古森の手前でいつもの挨拶(名乗り)をして、入っていった。
エリスが待っており、すぐにアイシャの元に連れて行かれた。
族長の家でアイシャ、エリス、ソフィー、私で密談。
「アイシャ様の情報通り、黒森の近くに原始ダンジョンがありました。そのそばに例の護符が落ちておりました」
「ふむ。その先は言いにくいでしょうから私から言いましょう。持っていたのはジェームス子爵で間違いないわね?」
「はい。その通りです」
「ジェームス子爵はどうしました?」
「我々が発見した時は既に死んでおりました。死体はダンジョンの中に放り込んでおきました」
「賢明な処置ですね。死因はわかりましたか?」
「体中にスケルトンに付けられたと思われる刀傷がありました」
「ふむ。それでダンジョンには潜ってみましたか?」
「はい。4層まで入ってみました」
「あのダンジョン、難儀でしょう?」
「高難度なダンジョンでございました」
「何か面白い物でも出ましたか?」
「はい。アイシャ様に面白いと思って頂けそうな物が出ました」
「見せなさい」
白紙の護符20枚と魔力を帯びたインクを渡した。
予想とやや異なったようで、アイシャは手に取ってまじまじと見ている。
「白紙か・・・」
「書ける者・・・ そうはおらぬ・・・」
ブツブツ言っている。
「これが出た時の状況を教えなさい」
「はい。4層はスケルトンメイジがブラックサーペントを従えておりました。スケルトンメイジを倒しますと、以前アイシャ様へ送りました護符と同様の物を所持しておりました。これです」
そう言って、残りの護符を全て出した。
「4層のボス部屋を攻略しますと白紙の護符とインクが出ました。4層のボスは・・・」
「リッチね」
「ご存じでしたか・・・」
アイシャはしばらく考えていたが、やがて
「これはこちらで預かっておくけど、良い?」
「はい。アイシャ様が良いとご判断されるまで預かって下さいませ」
「例の護符も良い?」
「はい」
「恩に着ますよ」
「はっ」
「あなた方が真っ先に4層に達して、リッチを攻略してくれて良かったわ。これ以上サーペントどもが操られることはないでしょう」
族長の家の片隅に『ハーフォードの月』『レントの誉』『ハミルトンの雫』を10本ずつ置き、一献すすめながら最新の話を聞く。
新ダンジョン誕生ほどのビッグニュースは無いらしい。
メッサーダンジョンの情報を聞くと、全く手入れをされていないらしい。
「あと1ヶ月くらいね・・・」
と意味深な御言葉。
「1ヶ月後に何が・・・」
「スタンピードよ」
「早すぎませんか?」
「あら。あのダンジョンは大きいから、かなり前から綱渡りだったのよ。気付かなかった?」
「・・・これから手入れをすれば抑えられるのですか?」
「冒険者が総出で5層まで手入れをすれば抑えられるけど、出来ないのでしょ? あのダンジョンの規模だと深層階では既にスタンピードが始まっています。初層、2層を手入れした程度では抑えられません」
「・・・」
「門扉を閉める者もいないのでしょう?」
ソフィーに聞くと、鉄門扉はイタズラで操作されないように、所定の手順を踏んで専用の道具を使わないと開閉できない仕組みになっているとのこと。
「今、メッサーで開閉できる人は?」
「いるかもしれない・・・」
「手順書や道具は置いてきた?」
「ああ。所定の金庫にある。だが役職を越えて、それを読んで閉めようと思う者がいるかどうかだ」
「王都の騎士団は?」
「騎士団も手順書や道具は持っている。だが基本的にギルドに丸投げだったな」
「ところでイルアンのダンジョンはどうなっているの?」
「アドリアーナに命じて作らせてある。私が検分してテスト開閉もした」
「いつ・・・」
「お前が居眠りしているときだ」
それからちょっとした夫婦喧嘩。
私が寝込んでいるときにテストしたらしい。
気を取り直してアイシャの話を聞く。
隣接する王都アノールも荒廃の気配が漂っているという。
「言っておきますけど、決して近づいてはなりませんよ。近づいても良いのは、我らラミアと同等の力を持つ者だけよ。
それからアレクサンドラから何か言ってくるかも知れません」
イルアンダンジョンについては?
「冒険者どもが2層まで手入れをしているウチは大丈夫よ」
5層以降は?
「ふふ。まずその前に4層の様相がガラリと変わっているはずよ。心して掛からぬとあなた方でも痛い目に遭いますよ」
「まだ安定化していないのですか?」
「そうね。きっとこれが最後の大きな変化ね。でももうイルアンについては難しいことは起きないわ。難関ダンジョンであることは変わりないけど。だから今のうちになるべく深くまで探索しておきなさい」
古森をお暇する時、アイシャがソフィーに対し、もう一度確認した。
「そなたはビトーの妻を続けるつもり?」
「もちろんで御座います」
「ならば必ずビトーの子を産み、治癒魔法士の系譜を残しなさい」
アレクサンドラと同じ事を言った。
ソフィーはアイシャの前に跪き、礼を述べた。
◇ ◇ ◇ ◇
ヒックスに戻り、冒険者ギルドの一室にリー(冒険者ギルド長)とマーラー(商業ギルド長)とレイとユミを呼んで貰った。
「アイシャ様から伝言です。神聖ミリトス王国の王都アノール、およびメッサーに近づかないように、とのことです」
「「 何!? 」」
「もし神聖ミリトス王国に商人や冒険者を派遣していたら、即座に引き揚げさせてください」
「おお・・ わかった」
「ここから先、アノールやメッサーへ行くのはラミアと同等の戦闘力を有する者だけにしておけ、と言われました」
「そこまでヤバいのか・・・」
「これから何が起こるのだ・・・」
「それから神聖ミリトス王国の商人、特に王都の商人との取引の決済に注意して下さい。掛け売りは代金が回収できなくなる可能性が高いです」
マーラーが頭を抱えている。
「それから難民がヒックスに押し寄せる可能性があります」
「ううむ」
「難民の中に冒険者もいるはずです」
「そうだろうな」
「その冒険者の中に、ミリトス教会に雇われた犯罪冒険者が紛れ込むはずです」
「・・・」
「国境で難民を鑑定し、犯罪者を拘束する必要があります。大量に押し寄せた時は、いつでも国境を封鎖出来るように準備して下さい」
リー、マーラー、レイ、ユミが頭を寄せあって相談。
「これは代官に動いて貰い、王都の了承を得なければならん」
「ことが起こった場合は騎士団と鑑定士を派遣して貰わないと回らないでしょう」
「動くかな・・・」
「どうせ代官は『どうして知った?』とか『理由は?』とか『証拠は?』とか言ってやりたがらないのでしょう? ですから『古森情報です』の一言で説明しましょう。特別にアイシャ様が教えて下さった情報を捨てる気? そんな恐ろしいことをするの? で押し切りましょう」
「そうだな・・・ 動かない方が恐ろしい」
「それから各国の商人にも伝えましょう」
全員が動き始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
私とソフィーはハーフォードにもどった。
ヒックスからハーフォードへの帰途。
初めてのソフィーとの2人旅だと気付いた。
というかソフィーに気付かされた。
「鈍感」と小突かれた。
新婚旅行。
帰路はあえて急がない。
昼は轡を並べてゆっくりと進みながらお互いの生い立ちを話した。
私の生い立ちを話したとき、ソフィーは馬を止めてぎゅうと抱きしめてくれた。
それからソフィー先生のダンジョン講座。
ダンジョンで出てくる厄介な魔物の対処法を延々と聞く。
というとイヤイヤ聞いているように感じるかもしれないが、実はこれが面白い。
ソフィーはこのような知識を山のように持っているが、これまで吐き出し先が無かったのだろう。生き生きとして喋り続けている。
そして私にとってソフィーの声が心地よい。
宿泊は良い宿を奢る。
ソフィーの満足度爆上がり。
ソフィーの機嫌とともに美人度も大いに上がった。
でも、ハーフォードに着く前日の夜。
「明日はアンナに恥をかかせるな」
と釘を刺された。
「ソフィーはいいの?」
「私はアイシャ様のお墨付きをもらった。あとは私はいかにスティールズ家を盛り立てるかを考える。お前の子供を作る選択肢も増やさなければならん」
翌日。ハーフォードの街に入ったところでソフィーと別れた。
ソフィーは一足先にイルアンへ戻った。
私はマーラー商会ハーフォード支店に立ち寄り、アンナに手紙の結果を伝えた。
その夜、当然のように一泊して行く段取りになっていた。
私は手練の技でアンナを磨き上げた。
アンナはソフィーと同じようなことを言った。
ソフィーとアンナは裏で繋がっているのだろうか。




