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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
08 ダンジョン探索編
88/301

088話 イルアンダンジョン3層

2025/4/22 誤字修正


ダンジョン城下町の点検も一通り終わり、明日から再びダンジョンの探索に戻る。


ソフィーと一緒に冒険者ギルドへ行って現状の探索状況を聞いた。


今先頭を走っているパーティは2つ。 【炎帝】と【鉄壁】。


両パーティとも2層の階層ボスの部屋までたどり着くが、そこから引き返している。

メンバーが亡くなったり怪我をしたりしているわけではない。

技術的な問題ではなさそうとのこと。


アドリアーナはダンジョン探索の力添えをして欲しいという。


ソフィーは冒険者ギルドに提出された両パーティのメンバー構成を見ていた。




自宅に戻って食事を済まし、装備を確認し、風呂も使って身綺麗になって寝る段になり、ソフィーに今日聞いてきた話の感想を聞いた。


ソフィー先生のダンジョン講座になった。



「ソフィーは何で探索が進まないのかわかりますか?」


「ああ。メンバー構成を見るとわかるな」


「どういうことですか?」


「そうだな・・・ メッサーでお前の職業(斥候)を決めた時、どうやって決めたか憶えているか?」


「ええ。剣士は論外。魔術師か斥候の二択。でも魔術師は上級にならないとソロではつぶしが利かない。だから斥候一択」


「そうだ。魔術師は鎧を着ないからどうしても安全サイドに振った魔法を撃ちたがる。初級になればなるほどそうだ。つまり魔力消費の大きい魔法を撃ちたがるのさ。その結果魔力切れが早まる。魔力が切れたらただの人だ」


「あの2つのパーティは、パーティ内に剣士もいたようですが」


「魔法剣士だろう? 剣の腕だけでC級冒険者の実力を持っているわけではない」


「そう・・・ かもしれません」


「お前を斥候としたのは、たとえ魔力切れを起こしても、スタミナが残っている限りは斥候だ。生き残る可能性が高い」


「つまり彼らは魔力切れを起こした、ということですか」


「そうだ。おそらくだが2層の階層ボス部屋にたどり着くまでに魔法を使いすぎているのだ」


「ウォーカーは・・・」


「剣だけでたどり着く」


「・・・」


「しかもスタミナが切れる気配すら無い」


「・・・」


「そんな剣士が4人と犬1匹と治癒斥候。それがウォーカーだ」


「魔術師がいませんね」


「お前がなればいいだろう?」


「斥候は?」


「マロンだ」


「あの2つのパーティは大丈夫でしょうか?」


「両パーティとも2層の階層ボスの部屋の前から引き返している。ちゃんとマネジメントできている。安心しろ」




「でもソフィー、私はわかりません」


「言って見ろ」


「冒険者はどうやってダンジョンの深層階を探索するのでしょう?」


「ダンジョン内で休息して、ポーションを使って魔力を回復させているのだ」


「!! 安全地帯ですか!?」


「そうだ」


「安全地帯までの片道分の魔力を持って突っ走る・・・ と」


「そういうことだな」


「つまりギルド長(アドリアーナ)の力添えをして欲しいというのは・・・」


「早く安全地帯を見つけてくれ、と言う意味だ」


「・・・」


「何だ。まだ疑問があるのか?」


「何故これほどまでに冒険者は魔法使いに偏っているのでしょう?」


「そりゃ前衛として腕の立ちそうな奴は騎士団にスカウトされるからな。騎士団員は定期的に出身村を訪れて見所のある少年少女に声を掛けて回り、親御さんと話し合いを重ねるんだ。

いわゆる青田買いってやつだな」


「ウォーカーのメンバーって・・・」


「ウォルフガングは騎士団嫌い。私は途中まで商人志望。ジークフリードとクロエは騎士など輩出したことの無い寒村の出身だ」



これでいいのか冒険者。


私は何が正しい姿なのかわからなくなって黙っていると、ソフィーに力ずくでベッドに引きずり込まれ、手厚く看護された。



◇ ◇ ◇ ◇



ウォーカーは3層へ降りる階段の前にいる。


ここで冒険者を待ち構えていたトレント3体は、ウォルフガングが倒した。

一人で。

剣だけで。

あっさりと。

刃物は通りにくいと言われているのに。



「お前に譲って貰った【ロングソード・アクセル】。コイツは優秀だぞ」



そう言って満足そうに鞘に収めるウォルフガング。

ゆうべのソフィーと私の話を聞かれたのかな?


私は魔法で痛んでいないトレントの樹皮を、ダンジョンに吸収される前にイソイソと剥いでいる。

結構取れた。

後には魔石が残された。

樹皮と魔石、高く売れるかな?



そして今、イルアンダンジョンの3層を歩いている。


ウォルフガング、マロン、私が前衛。

ウォルフガングは魔物探知と盾役。

私は魔物探知の練習。

マロンは魔物探知の保険。


恐るべきはウォルフガングの攻撃力と守備力。


私とマロンは脅威度Cの魔物に対して攻撃も守備も貧弱なので、ウォルフガングが実質一人で支えていることになる。



3層は天井まで5mほどもある。

初層、2層に比べると天井が高い。

そして広い通路にそれなりの密度で木が生えている。

用心しながら通路を進むが、真っ直ぐ進むという訳にはいかない。


通路のど真ん中に生えている木もある・・・


おいっ! おまえトレントか。

鑑定すると確かにトレント。

周囲も鑑定するとトレントが3体いる。

ここのトレントはモミのようだ。

ウォルフガングに伝える。



「分かったか?」


「ええ」


「では鑑定を使わずに探知できるように練習しろ」



そう言うとウォルフガングは剣を抜き、一刀で通路のど真ん中に生えているトレントを真っ二つにした!

切られたトレントがばったり倒れて通路を塞ぐと、他の3体のトレントが動き出した。


私とマロンは下がり、ジークフリードとクロエが前に出る。

ウォルフガングとジークフリードとクロエが、うなりをあげながら襲いかかる樹木を剣で叩き切っている。

木片が飛び散る。枝が落ちる。

結構な騒ぎになったが新手のトレントは現れず、剣だけでトレントを倒しきった。



ジークフリードによると動かないで擬態しているトレントを倒すのは一刀で行けるが、動かれるとなかなか一刀ではいけないとのこと。

ご苦労様でした。


ここでも私はトレントの樹皮をイソイソと剥ぐ。

結構取れたな。

樹皮と魔石、高く売れるといいな♪


ジークフリードとクロエは振り回された枝にぶつかって擦り傷になっているところがある。

鑑定すると毒はないようだが、念のためヒールで治してから先に進んだ。


大騒ぎしている間、何で他のトレントは襲ってこないのか尋ねると、擬態している奴は擬態を続ける習性があるという。



◇ ◇ ◇ ◇



相変わらずトレントの通路を進む。

私の気配探知の練習だが、結構難儀している。

マロンとウォルフガングは正確に探知しているのに。


だいたい4体まとめて出てくる。

頑張って2~3体は探知するのだが必ず探知漏れがある。

4体まとめて出てくるはずだから、あと一体どこだ?

という感じで探っても、なかなか見つけられないのだった。


斥候職の練習場所としてこれ以上の場所は無い。

皆に付き合ってもらい、安全を確保してもらいながらトレントの探知に努めた。


結局この日は最後まで漏らさず感知することは出来無かった。


そして遂に安全地帯を見つけた。



◇ ◇ ◇ ◇



ダンジョンの七不思議、安全地帯セーフティゾーン


私は見るのは初めて。

外から見るとその部分だけ通路の壁が病的な白っぽい色に変色している。

そっと押すと扉になっており、中に入れる構造になっている。


中はかなり広い。

冒険者パーティ4つくらいは余裕で野営できる。

詰めれば6パーティくらいはいけるかな。


野営の準備をする。

私の背負い袋から人数分の弁当を出す。

マルティナに渡された弁当はホーンドラビットの焼肉サンドだった。

ジークフリードとクロエは席の準備。

ソフィーが水を出す。

車座になって舌鼓を打つ。


その後、みんな仮眠。

私は地図とハザードマップを記入してから仮眠。

就寝中のトラブル感知はマロンにお任せした。


今はこの安全地帯に我々しかいないが、今後他のパーティも来ることを考えるとパーティにマロンがいるのは凄く有り難いことだと改めて認識した。



◇ ◇ ◇ ◇



探索を再開する。

安全地帯の先に進むとトレントとの遭遇率がガクンと減った。

代わりに動物が出て来た。


鹿系。

木立の間からストライプドディアーがこっちを覗いている。

こやつは我々を襲うのだろうか?



種族:ストライプドディアー(縞鹿)

年齢:1歳

魔法:無し

特殊能力:擬態

脅威度:Dクラス



ストライプドディアーは鹿系魔物。

外見を一言で表すとシマウマに立派な角が生えている。

奇妙な感じだ。


鹿だけに足は速い。

攻撃手段は角突き、踏みつけ、後ろ足の蹴り。

でもトレントよりは脅威度が低い。

何故かな?

・・・ふむふむ。

耐久力が低く、刀が通りやすいのが理由ね。

でも私的には素早い方が怖いのではないかと思う。


と思って見ていたらウォルフガングが



「お前、見えているのか?」



と驚いた。



「はい、見えています」



ストライプドディアーはトレントと並んで見つけにくい魔物の代表格で、昨日までトレントに手を焼いていた私に簡単に見つけられる魔物ではないらしい。

仮眠を取ったら脳が整理されて一皮むけたか?



「あいつ、私らを攻撃してきますか?」


「うむ。ダンジョン内で遭遇する魔物は必ず攻撃してくるぞ」



ということで討伐決定。

担当は私。


私?

私に死ねと?

落ち着いてやれば大丈夫?

本当?


改めて木立を観察。

対象以外気配なし。

鑑定。

他の魔物無し。

脇差とショートソードを抜いていざ・・・


ええと。

敵は木立の中にいてやり難い。

こういうときは魔法だ。

デ・ヒールだ。

デ・ヒールの良さは一見何もしていないように見えること。

相手は自分が攻撃をされていることに気付き難いこと。

相手は知らないうちにHPを削られていること。

なかなかに悪辣なのだ。


ストライプドディアーは身じろぎをしている。

体調が悪化している自覚はあるらしい。

でもこちらに集中しており、擬態を解く事はしない。

デ・ヒールを掛け続ける。

ふらつき始めた。


そして遂に自分から飛び出してきた。

私は自分から転がりながらショートソード・アクセルで前足を払った。


勝負は付いたが重要なことに気付いた。

私の武器は大きな魔物にとどめを刺す、例えば心臓を一突きする、あるいは首を落とすには小さすぎる。

どうしたらいいだろう?


ソフィーが教えてくれた。



「喉を狙え」



喉を切り裂いた。

あっという間に絶命した。


ストライプドディアーは角と魔石に価値があるのはもちろん、肉は食用になり、毛皮はきれいな縞柄で高値で取り引きされるらしい。


ということでダンジョンに吸収される前に背負い袋(アイテムボックス)に回収した。



先に進んだ。




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