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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
08 ダンジョン探索編
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086話 イルアンダンジョン2層


イルアンダンジョン初層の地図が売りに出されてから、冒険者のダンジョン探索ラッシュは衰えを知らない。


イルアンの村は大賑わい。

宿屋はほぼ満員。増築しておいて本当に良かった。

酒場は連日大盛況。

食堂も増やしておいて良かった。酒を飲まない堅実なパーティはこちらに集う。


武器屋、道具屋はそれなり。こちらは冒険者が深層階に達するようになると忙しくなってくるのだろう。



そして地図情報を元に初層でレベルアップに励むパーティが多くいる。

当初の見込み通りで非常に良いことだ。


だが一方で、一直線に2層へ突入するパーティが後を絶たない。

処女層を最初に踏破する名誉欲に駆られているのだ。


そして殆どのパーティが帰ってこない。

ダンジョン慣れしていないというか、名誉欲が強すぎるというか。



2層に挑戦して戻ってきたパーティは2つだけ。

いずれもC級パーティ。

深い傷を負って命からがら戻ってきた。


両パーティとも、メンバーを失ったショックで冒険者ギルドにろくな報告もせず、あっという間に自分達の活動拠点に帰ってしまった。



◇ ◇ ◇ ◇



アドリアーナ(ギルド長)から頼まれた。


だいぶマシになったとは言え、まだまだペーパー (初級冒険者)が死にすぎる。

監視がてら第2層へ潜ってくれないか。

そして第2層の危険度を知らしめてくれないか。


まあ、ダンジョンの適正な管理は公爵の願いでもある。

ウォーカーで潜ってみることにした。




初層のスケルトンナイトとスケルトンを蹴散らして階段まで行く。


2層は初層から引き続き天井、壁、床は洞窟風だ。


降りたところは20m四方の広間になっており、スケルトンナイト1体とスケルトン3体のパーティが3ついる。

そして一番弱いのは私と見抜き、熱烈歓迎してくれる。


ジークフリードとクロエと私が前衛として前に出る。

これは私の訓練と、ジークフリードとクロエが私の護衛をする訓練でもある。


他のメンバーは後ろに回り込まれないように牽制する。



実は私は変な色気を出さない限り、脇差とショートソードでスケルトンと渡り合える。

でもスケルトンナイトは刃物だけでは無理。

デ・ヒールで削りながら対処する。


私は何が言いたいのか?

私はスケルトンやスケルトンナイト相手なら、1対1なら何とかあしらえる。

しかし1対多数は無理なのだった。


しかしスケルトンナイトは弱っかすの私に狙いを定め、部下のスケルトンどもをけしかける。

いい性格をされている。


そこでジークフリードとクロエが私の両隣に立ち、私に殺到するスケルトンをブロックする。

この二人はスケルトンが何体いようが蹴散らして、私の前に1体だけ残してくれる。


私は常に目の前の1体と戦う。


それがスケルトンだったり、スケルトンナイトだったり、というお話でした。



私は目の前の1体と激闘を繰り広げ、何とか勝つ。

その間にジークフリードとクロエがその他のスケルトンどもを蹴散らす。


スケルトンが部屋を大きく回り込もうと仕掛けてくる時は、ソフィーが剣を振って片付ける。




広間のスケルトン共を片付けてから2層の探索を始めた。


そしてわかった。


2層は、基本的にスケルトンナイト1体とスケルトン3体のパーティを相手に戦う。

そして延々挟み撃ちに遭う。


前方を突破できるだけの戦力だと、絶対に攻略できない階層だった。


これは初層でも同じ状況に遭うので、初層で十分に腕を磨くようにパンフレットの注意書きに追記しよう。


隅々まで歩いた結果、2層はスケルトンパーティに挟み撃ちにあうだけの階層だとわかった。


かなりげんなり。



そして今、特徴的な扉のある部屋の前にいる。

階層ボスの部屋だろう。

他に階段が無かったから、2層はこの部屋の先に下へ続く階段があるに違いない。


入る? どうする?



誰もくたびれていない。

怪我もしていない (していてもヒールで治すけど)。

魔力も残してある。


では遠慮無く。




2層のボス部屋の中には、スケルトンメイジ×2、スケルトンナイト×3、スケルトン×9がいた。


スケルトンメイジはイルアン攻防戦で見たやつだ。


スケルトンメイジはすぐにウィンドを撃ってきた。

強い風で我々の足を止め、スケルトンナイトに率いられたスケルトン共が一斉に私に殺到する戦法だ。


ただし、ウチのパーティで足止めされるのは私だけ。

悲しい。


ウチのメンバーは「こんなの何か問題あるのか?」と言った感じで私の前に立ち、剣でスケルトンを倒していく。


マロンは敵の観察。


あっという間に全部倒しきった。



宝箱が出た。

鑑定で罠無しを確認し、



「どなたか開けてみたい方・・・」



クロエね。

はい、どうぞ。


中身はポーション詰め合わせだった。



【中級ポーション】 (1本) 

 怪我の回復を力強く促進する薬(ハイヒール相当)


【初級ポーション】 (2本) 

 怪我の回復を促進する薬(ヒール相当)



これは初級~中級冒険者にとってはたいへん有り難い。




部屋の中には下層へ通じる階段は無く、部屋の先に通路があった。


進んでいくと雰囲気が変わった。

今までは乾燥した岩肌の洞窟だったのが、洞窟は洞窟でも空気が湿気を帯び、壁に植物が這うようになってきた。


そのうち枝振りの良い樹木も出て来た。


そして下層階への階段が見えてきた時、ウォルフガングが皆を止めた。



「マロンとソフィー以外のメンバーに聞く。 わかるか?」



私は誰かに見られているような感覚があったが、それがどういうことなのか分からなかった。

ジークフリードとクロエは何も感じなかったようだ。



「ビトー、前方の木立を鑑定してみろ」



鑑定した。

びっくりした!

魔物に対する見方がガラリと変わった瞬間だった。


なんと前方に生えている樹木はトレントという魔物だった。


そう言えば私はこいつらの樹皮を持っている。



種族:トレント(カエデ種)

樹高:3m

年齢:1歳

魔法:無し

特殊能力:擬態

脅威度:Cクラス



トレント。

樹木の魔物。

樹木だが移動できる。足は遅い。

耐久値はかなり高い。

攻撃手段は、枝振りの良い枝を叩き付ける物理攻撃。

自身の重さを利用した踏みつけ攻撃。

洗練されていないが、その威力は高い。

仲間同士で意思疎通する。



前方に3体のトレントがいる。

完全に樹木に擬態している。


ウォルフガングとソフィーとマロンがいなかったら絶対に不意打ちを受け、やられていたに違いない。



素朴な疑問があった。



「こやつらをどうやって倒すのですか? ノコギリか斧ですか?」


「まあ、条件が合えばそうなんだろうな。だが奴らも自分の身を切られているのに悠長に擬態なんてしちゃいない」



ウォルフガングによれば、一般に樹木系の魔物は体が粘り強く、刃が通りにくい。

従って魔法による攻撃が良いとされる。

トレントは特に火の魔法を苦手とするらしい。


幸い奴らは擬態している。

こちらに気付かれていないと思っている。



と言うことで、まず私のデ・ヒールから試す。


それっ!


見る見るうちに葉がしおれ、枝先が枯れ始めた。

でもまだ擬態している。

頑張るなぁ。



次にクロエがウィンドカッターをかました。

大降りの枝が数本落ちた。

ここでトレントどもが動き始めた。

擬態を見抜かれていると気付いたようだ。



すかさずソフィーが進み出て、氷槍を叩き込んだ。


私もデ・ヒールを掛け続けた。


クロエもウィンドカッターを撃ち続けた。



伐採された樹木のようなトレントの死体を見ながら、



「こいつらは下層階の魔物かもしれないな」



そうウォルフガングがつぶやいた。




私はコスピアジェにもらった「トレントの樹皮」を持っている。

地味に役に立つし、珍しい素材としてギルドで高く買ってくれる。

こいつらの死体から皮を剥げば良いのかな?


そう思ってダガーを抜いて皮を剥いだが、どうも私の持っている皮と違う。

明らかに質が悪い。


試しに「傀儡」で私の魔力を乗せてみたが、すぐに抜けてしまった。


悩んでいると、ソフィーが教えてくれた。



「良い状態のトレントの樹皮が欲しいなら、魔法で討伐されたトレントは駄目だ」


「大変だろうが、剣で倒したトレントから皮を剥がねばならん」



3層への階段を確かめ、トレントの魔石を回収し、地上へ引き返すことにした。

トレントの魔石は土属性で、大きくて透明で黄色の石だった。



冒険者ギルドではCランクの魔石がちょっとした話題になった。

なかなかお目に掛かれないらしい。


わざわざハーフォードの冒険者ギルドから買い付けに来た。




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