表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
08 ダンジョン探索編
85/301

085話 イルアンダンジョン初層


現在のイルアンダンジョンの状況を紹介する。


公爵にお願いして領都から騎士団に出張して頂き、ダンジョン入口の周囲を2mほど嵩上げし、さらに巨石を組み合わせた頑丈一式な門構えにした。


ダンジョン入口の周囲は、広範囲に土魔法でコンクリート並みにガチガチに固めて貰った。土の中に鉄の棒を組み合わせて入れておいた。

鉄筋コンクリートのつもり。


スタンピード発生時に閉じる頑丈一式の鉄門扉も付けた。


イルアン冒険者ギルドの出張所を作った。

これは入ダンジョン/出ダンジョンの管理と、緊急時の鉄門扉の操作のため。



イルアンダンジョンはグランドレベルに入口があり、地下へ潜っていくタイプのダンジョンである。

雨期には水がダンジョン内に流れ込まぬよう入口を嵩上げしたが、それ以上の水が出た時は鉄門扉を閉めることになる。


冒険者がダンジョン内に取り残された時の対応を考える必要があるが、まだ良い案は無い。




そのダンジョンは初層より下は不明。

初層すら未踏破。

完全な処女ダンジョン。

冒険者にとってはロマン溢れすぎ。


初層で出てくる魔物はスケルトン系とゴブリン系と予想される。

そう聞くと楽勝に聞こえるが、いずれも初級者(E級冒険者)には厳しい。


スケルトン系はともかく、ゴブリン系が厳しいと言うと、冒険者サイドからお決まりの嘲笑と煽りが入るが、厳しいものは厳しい。


ダンジョン挑戦の推奨レベルは、冒険者個人レベルではD級冒険者以上。

パーティではC級パーティ以上。


これはパンフレットに明記した。




徐々に領内各地から「腕に覚えのある」、「希望に満ちた」、「 “やる夫” で構成された」若手冒険者パーティが集まってきた。



商隊の護衛任務でホーンドラビットの群れを撃退した武勇伝を語るパーティ。


ゴブリンやイナゴやスライムの討伐系クエストを完遂したことが自慢のパーティ。


レッドアイの観察を長きに渡って行い、時には干戈を交えた実績を持つパーティ。


どのパーティも



「魔物もパーティを組んで集団戦を仕掛けてくるぞ」



と忠告しても聞く耳を持たない。



「へっ ゴブリンだろ? 今更ゴブリンなんて倒してもレベルアップの足しにもならんぜ」



などとうそぶいておられる。

スケルトンもいるのですが。

遂には冒険者ギルドのダンジョン前出張所に顔を出さず、黙って潜るパーティも出てきた。

ちなみに他領地や他国にあるダンジョンの経験を持つパーティは1つも無かった。


引き留めることはしなかった。


“冒険” なのだから。



◇ ◇ ◇ ◇



最初の1週間の結果は惨憺たるものだった。


初層を踏破したパーティはゼロ。

一人も帰ってこないパーティが3。

メンバーを失ったパーティが6。

装備を投げ捨てて、這々の体で帰ってきたパーティが3。

早々に諦めて帰ってきたパーティ無数。



ウォーカーのメンバーは立ち上げたばかりの冒険者ギルドの運営サポートで、その大半の時間を取られてしまう。

それでも 「パーティが戻ってこない!!」 という緊急連絡を受けると、取る物とりあえずダンジョンに駆け付ける。

そしてダンジョン内で魔物に囲まれて崩壊の危機に瀕したパーティを救出するが、それでも手遅れになるケースが続出した。


メンバーを失ったパーティは早々にイルアンを去って行った。

もっとお金を落として欲しいのに・・・



イルアンを去ったパーティはそれぞれの地元に戻るが、ダンジョンの経験を聞かれても頑なに喋らないらしい。

そこで好奇心を刺激された冒険者が大量にイルアンに押し寄せることになった。


そしてこの頃から領内に



「ひょっとするとイルアンは高難度ダンジョンではないか?」



という噂がじわじわと広まっていった。


いや、パンフレットに書いてあるから。

ダンジョン挑戦の推奨レベルは、冒険者個人レベルでD級冒険者以上。

パーティではC級パーティ以上。

明記されているから。


なんで信じない?


・・・文盲?

だったらギルドの忠告を聞けよ。


・・・女の言うことなど聞けない?

わかった。

好きにしなよ。

リスクは自己管理だ。

冒険なのだから。



◇ ◇ ◇ ◇



<< 冒険者パーティ「ジーンズシティー」さんの場合 >>


入口から一本道を行くと前方からスケルトンが3体来よった。

ワイらは6人や。一体に一人付きぃ。残り3人は後ろに回り込み。


え?


回り込もうとした奴が倒れた。

首からようさん血ぃ噴き出しとる・・・

あかんわ・・・

これ、助かれへんやつや・・・


なにか気色悪い音がした。

回り込もうとしとったもう一人が倒れた。頭が潰れて目ン玉が飛び出しとる。

あかんで・・・

これも駄目やつや・・・


あ・・・ スケルトン3体の後ろにもう一体いた。

ゴッツイ奴や。

あかん。

撤退!


スケルトンとガッチリ組み合ぉてる3人。

スケルトンの力が強すぎて剣を引けんとっておる。


ゴッツイ奴が回り込んできた・・・



「引けっ! 逃げろっ!」



俺一人で逃げた。

入口が近くて助かったぁ。

俺、生きとる! よかったぁ・・・


イルアン無視してハーフォードの冒険者ギルドに立ち寄り、俺以外全員死んだと伝えた。

色々聞かれてんけど、全てシカトして故郷に帰ってん。

パーティ再編成や。今度は堅実に稼ぐぞ。



誰も俺とパーティを組まんっちゅう。

誰も俺にクエストを発注せんっちゅう。

なんでや。



<< 冒険者パーティ「ジルゴン愚連隊」さんの場合 >>


入口から一本道を行くと前方からくるスケルトン4体を確認した。

情報通りだ。

スケルトンなら我らなら1対1で倒せる。行くぞ!


1体変な奴がいる。

異常に膂力が強い。体も一回り大きい。上位種か!

コイツは俺が足止めする。

他のスケルトンを殺してから全員でコイツを殺る。


よし。うまくいったな。

最初からいきなりハードだったが、俺たちならやれる。



Y字路に突き当たった。

左に行った。

前方にスケルトン4体を確認した。

よし、さっきと一緒だ。やれっ!


一人やられた!

挟み撃ちだと!?

くそっ! 正面突破! 走れ!


部屋がある? 気にするな。突っ走れ!!

階段がある! 行け!


・・・


「ジルゴン愚連隊」さんは初めて第2層へ到達した名誉あるパーティになりましたが、誰もそれを知らない。



<< 冒険者パーティ「エヌキッズ」さんの場合 >>


入口から一本道を行くと前方からスケルトンが来た。

ケッ。こんな奴らとまともに相手するなんてダッサい連中のやる事よ。

俺たちイケメンはもっとスマートに行くぜ。

魔法を撃って撃って撃ちまくれ。

粉々にしてやれ。


どうだ?


良し。次!


Y字路を右に行った。

挟み撃ちだと?

ゴブリンのくせに生意気な!


撃て! 撃って撃って撃ちまくれぇ!!


2人やられた。

どうしてだ?

魔力切れ?


ちっ、ダッセえなぁ。何やってんだよ。

おう。部屋がある。これが噂の安全地帯か!

よし、ここで休憩して魔力を満タンにするぞ。いいな。


さあ、行くぜ・・・



◇ ◇ ◇ ◇



冒険者のレベルが低すぎて、何とか初層くらいはハザードマップを作らないと死者が出過ぎる。冒険者が定着しない。

そうアドリアーナ(イルアンの冒険者ギルド長)から頼まれ、ウォーカーでイルアンダンジョンに潜っている。


Y字路を左に行くと部屋がある。

5部屋目から通路の左右両方に部屋が出てくる。前回はここまで来た。


更に先に行く。やはり両サイドに部屋が出てくる。

部屋の中にはスケルトンがいる。

いちいち潰して行かないと挟み撃ちに遭う。


更に進んだ先に下に降りる階段を確認し、戻った。



今度はY字路を右に行く。

こっちはゴブリンの通路。

ゴブリンの挟み撃ちに遭う。


途中、部屋があるが中にはゴブリンはいない。

だが通り過ぎると部屋にゴブリンが湧き出てくるらしく、確実に挟み撃ちに遭う。


通路の突き当たりに扉付きの部屋がある。

これって初層のボス部屋?



「入るか?」


「・・・」


「どうした? 青い顔をして」


「こんな感じでメッサーダンジョンでは中にコスピアジェ様がいました」


「・・・」



一同静かになってしまった。



「もしコスピアジェ様がおられたら・・・ ビトー、取りなしを頼む」



そう言ってウォルフガングが扉を開けた。


コスピアジェ様はいなかった。


ゴブリンメイジ×2、ホブゴブリン×2、ゴブリン×10・・・

見落としは無いな?

では行こうか。


ゴブリンメイジはゴブリンの魔法使いで、土魔法使いだった。

ダンジョン内では土魔法は不遇だという。

そのためだろうか、私に向かって岩弾を撃ってきたが、威力も質量も初級レベルで、私の小盾でも逸らすことが出来た。


そしてゴブリンメイジ、ホブゴブリン、ゴブリンの全員が私を見ている。

ガン見している。

一番弱いから。


私に気を取られている間に、ジークフリード、クロエ、マロンがゴブリンどもに襲いかかり、あっという間に鏖殺した。


宝箱があった。

罠無し。



「誰か開けたい人いますか?」



ジークフリードが手を上げたので彼に開けて貰った。

中から出て来たのは半透明の一束のロープ。

鑑定すると「レッドアイの糸」と出た。



【レッドアイの糸】 

 レッドアイの糸で織られたロープ

 伸縮性があり、軽くて丈夫

 大人20人分の重さを吊り上げることが出来る



使わずに済むことを願うが、必要な時には最高の一品になると思う。



帰りに冒険者ギルドに立ち寄り、キャロライン(フロント)に魔石を売り、初層の地図と魔物が出る場所、種類を事細かに報告した。



後日イルアン冒険者ギルドから、イルアンダンジョン初層の地図&ハザードマップが売りに出された。

踏破した、とは書かなかった。


まだダンジョンが変化する可能性があるから嘘は吐いていないよ。



イルアンダンジョンの初層の様相が領内に、そして国中に拡がった。

そしてダンジョンとしての実態が見えたことで、ブリサニア王国全土から冒険者が集まりだした。


ハーフォードの冒険者達が焦り始めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ