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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
08 ダンジョン探索編
84/334

084話 ダンジョン城下町


イルアン近郊に発生したダンジョン。


ダンジョンは適宜管理(魔物の間引き)しなければならない。

管理を適切に行うためには、腕利きの冒険者を多数呼び込む必要がある。

そして冒険者を呼び込むためには冒険者ギルドが必須である。

更に宿屋、武器屋、道具屋、食堂、酒場、娼館などを増やさなければならない。



もう少し説明する。


冒険者ギルドはダンジョンから出土する武器、魔道具、アクセサリー、ポーションなどを鑑定して買い上げるので、目利きでないと務まらない。


武器屋や道具屋は、冒険者ギルドから武器、魔道具、ポーションなどを下取りし、汚れを落とし、磨き上げ、性能を調べ、調整して店頭に並べる。

品質保証付きという奴である。


非常に珍しい武器、魔道具、ポーションなどが持ち込まれると、流通ルートに乗せて国内で最も高値を付ける買い手に届ける。

こちらは資金力と流通ルートが必要になる。


冒険者はダンジョン出土品をいきなり武器屋、道具屋へ持ち込んでも良いが、一般に冒険者ギルドで買い取る金額より買い叩かれる。

冒険者個人は(目利きの)信用が無く、冒険者ギルドは信用があるためである。



イルアンという寒村がダンジョン城下町として発展するために、早急に上記の設備を整備する必要がある。

これはウォルフガングが公爵の前で述べたことである。



魔物の襲撃を受けた今が説得のチャンス。


ということで、同じ説明を村長にした。

村長、あなたがやるのです、と。


村長は説明を受けるにつれて顔色を失い、大量の汗をかき、早々にギブアップし、私に丸投げしてきた。



私は公爵と調整し、準男爵としての立場はそのままに、イルアン村監察官を拝命した。



(肩書)ハーフォード公爵麾下 準男爵 イルアン村監察官。


(任務)イルアンがダンジョンを持つ村として相応しい発展を遂げるよう、

    村全体を監督。 地位は村長の上位とする。



仕事と責任が増えた。


従来のお給金は更にプラスされることになった。


最初にやったことは、現村長を村長の肩書きはそのままに、従来の村長の一部の業務(農産物の収穫、輸送、村民の福祉)に特化してもらった。

それに合わせて村長宅から農産物集積場に隣接する事務所に移って貰った。



「今の邸宅にいると荒くれ共が押しかけて来ますよ」



そう忠告すると、真っ青になって村長宅から出て行った。


農産物集積場の事務所の什器は良い物に変え、表札は村長邸宅に変えた。

門扉も立派な物に変えた。



◇ ◇ ◇ ◇



新たに建設する宿屋、武器屋、道具屋、食堂、酒場の費用は、村の予備費から出したが、足りない分は私の年俸から出した。


ちなみに武器屋、道具屋は旧村長宅の隣に建てた。

武器屋、道具屋についてはアンナが手を回し、マーラー商会の商会員がやってきた。

正直助かった。

マーラー商会員ともなると、皆さん目利きなのだ。


先の魔物の襲撃で主を失った農家の遺族には、冒険者向け食堂の従業員に転職してもらった。


酒場は、村の小さな酒場の主人に未来の展望を話すと俄然やる気を見せ、店を拡張している。


娼館は領都から勝手にやって来た。



◇ ◇ ◇ ◇



問題は冒険者と冒険者ギルドだった。


ハーフォード公爵領は極めて治安が良く、領内を魔物が跋扈しない。

領民にとっては住みやすくて有り難いが、一攫千金を狙う冒険者にとってはうま味のない領地だった。


冒険者ギルドは領都に1つあるだけで、そこで掲示されるクエストは隊商の護衛が主である。

討伐系クエストはイナゴの間引き、スライムの間引き、レッドアイの観察程度。


従って、ハーフォード公爵領に常駐する冒険者は御手腕をお持ちでない。

冒険者数も多くない。


一方冒険者ギルドの方は、領内にダンジョンが無かったため、ダンジョン管理のノウハウをお持ちでない。

イルアンに割けるほどの余剰の人員もいない。


イルアンに冒険者ギルドの支部を設けるよう働きかけたが「期待に応えること敵わず」との返事が来た。


そこで公爵の了解を得て、当方で一から立ち上げることにした。




建屋は旧村長宅を流用した。


村長の邸宅は、田舎の農村の村長宅としては立派なもので、ギルド長室、書庫、倉庫、会議室、処置室、フロント、エントランスといった、最低限必要な部屋は全てカバーして余裕があった。


伝書鳥の管理設備があった。

伝書鳥はオウム系とフクロウ系の2種を飼育していた。


魔物の解体場や洗浄設備、巨大魔物の素材の保管庫までは足りなかったため、敷地内に新たな建屋を建て増しした。


ギルドの人員はアンナに頼んだ。

最低でもギルド長、会計×2、フロント×2、解体、ダンジョン出張所要員×2は欲しい。


アンナからマーラー商会本店へ照会が行くと、新進気鋭の若手が大量にやってきた。

武器屋、道具屋も含めると20名以上に上る。


商会員なので、経理、目利き、流通、フロント業務については深い知識と経験を持っておられる。


ただし、やってきた精鋭が全員若い女性だったのに驚いた。


私はピチピチの女をあてがっておけばホイホイ言うことを聞くと思われているのだろうか? 心外だ・・・


だいたい、こんなにいっぺんに精鋭を引き抜いて、マーラー商会は大丈夫なのか?

恨まれないか?


恐る恐る尋ねたら、私の懸念は的外れとのこと。



マーラー商会もご多分に漏れず男社会で、本店の主要ポストは男で占められている。

女が食い込む余地は無い。


女で飛躍しようと思ったら、処女地を切り開くか、全く新たな商売を興さねばならない。


アンナは革命的な女性下着で新たな商売を興し、かつハーフォードという処女地を開拓し、あっという間に軌道に乗せ、利益を上げ続けている。

アンナは女性商会員の憧れ。目指すべき希望の星なのだった。



そのアンナのお膝元で再び大きな飛躍が起きる気配がある。


冒険者ギルド、武器屋、道具屋という、これまでマーラー商会が全く手掛けてこなかった新境地が拓かれようとしている。

しかも、これまで空白地帯だったイルアンという処女地が開拓されようとしている。

領都の冒険者ギルドはライバルになるどころか、ギブアップしている。



女性商会員にとっては千載一遇のチャンス。

一世一代の勝負時なのだった。


彼女らはあらゆる手練手管を使い、男を蹴落としてイルアンに来た。

この商売が軌道に乗れば、更に女性商会員がどしどし移ってくる。



そうアンナにドヤ顔で言われた。



◇ ◇ ◇ ◇



ウォルフガングとソフィーと私は新米冒険者ギルド員の教育係を務めた。

ウォルフガングとソフィーは冒険者ギルド運営の神様だが、神様過ぎてその御言葉は下々には理解できないことが多い。

冒険者未経験の者にとっては特に難しい。

通訳として私の存在は必須だった。



ここで痛恨の失敗があった。

ウォルフガングとソフィーと私の関係は、私が雇い主で貴族。

ウォルフガングは雇われ人で平民。

ソフィーは妻で平民。


なのだが、これまでの経緯からフランクに話す。

というか、ウォルフガングとソフィーはべらんめい調。

私は丁寧な言葉遣い。

うっかりするとウォルフガングとソフィーの方が主人のように聞こえる。

これが失敗の元だった。



イルアン冒険者ギルドの唯一の懸念が魔物の解体担当だった。

解体担当は魔物の皮を剥ぎ、血を抜き、臓物を引きずり出し、肉を切り分けて処理しなければならない。

並みの胆力では保たない。


アンナはマーラー商会きっての体力と胆力のある女傑をスカウトしてきたと言った。

解体担当はナオミといった。

20代前半の赤髪の大柄な女性。


ナオミに対してはソフィーから特別指導があった。

様々な魔物の部位、毒、素材、食肉の部位を教え、解体のコツや部位の値段を教えた。


ナオミは若い頃に冒険者を志したが、戦闘の才能が無いと自ら見切り、転身したという経歴の持ち主だった。

冒険者関係の仕事に就けることを大変喜んでいた。


そんな経歴からウォルフガング、ソフィー、ジークフリード、クロエといったウチの精鋭には三尺下がって影を踏まず。

特にソフィーには心服されているご様子だった。

一方私に対しては「何の取り柄もなさそうなチビが、なんでソフィー様と一緒にいるのだ?」という感じで、見下している雰囲気が微かに漂っていた。



あえて咎めなかった。

私が咎めるとナオミは即首になるらしい。

それどころかマーラー商会に対し、厳しい措置が下される可能性もあるという。

私は気付かぬ振りを続けた。


ソフィーも気付かぬ振りを続けた。

ソフィーは時折、私とソフィーは特別な関係であることを匂わせたらしいが、気付いてくれなかった。




ある日。


アンナがイルアンに出張してきて、新米商会員を面接していた時のこと。

面談室(冒険者ギルドの一室)から叫び声が聞こえた。

続いて什器がひっくり返るような音が聞こえた。

慌てて私とソフィーが駆け付けると、地獄図絵が拡がっていた。


アンナはナオミよりずっと小さいのだが、ナオミを跪かせ、両手でナオミの顔を張り飛ばしていた。

我々の見ている前で、アンナは般若の形相でナオミを平手打ちし続けた。

ナオミは一切の言い訳をせず、一方的に殴られていた。


ナオミの鼻血が飛び始めたので、さすがに見かねて割って入ろうかと思ったが、ソフィーから止められた。

ナオミの顔が変形し、鼻血がかなり飛び散ったところでアンナの手が止まり、肩で息をし始めた。


絶妙なタイミングでソフィーが



「アンナ様、となりの部屋で我が主と次の商いの話をさせて頂きたいのですが、よろしゅうございますか?」



と声を掛けると、アンナはサッと振り向いて私に向かって跪き、



「準男爵様のお時間を取らせてしまい、申し訳ありません」



それだけ言った。


ナオミのことはソフィーに任せ、隣室に移動した。

ソフィーは隣室に移動する私をチラッと見て、何も言わなかった。

何かソフィーに実戦教育をされているような気がするのは私だけだろうか。



隣室に入った途端、アンナは私に向かって跪いて謝罪をした。


最初何を言っているのか分からなかった。

だが、少しして理解した。

ナオミが私への不満(というか不信)をアンナに言ったらしい。


これは大変なことになった・・・ どう納めようか・・・

と真っ青になったアンナが更に事情を聞き出したところ、実にくだらない、ナオミの素人冒険者目線によるマウントに過ぎなかった。


ホッとした。


だが話を聞き出すうちに、やんわりとソフィーに窘められていることがわかった。

ソフィー様に気付かれている?

準男爵の奥方に気付かれている?

頭が真っ白になった。


自分の部下が、自分のパトロンであり、自分に飛躍のきっかけを与えてくださった大恩人であり、しかも貴族でもある私に不遜な態度を取り、それを奥方に気付かれている。

怒りを抑えきれなくなった。


本来ならソフィー様に気付かれる前にナオミを交代させなければならなかった。

だが自分の未熟さでソフィー様に気付かせてしまった。

不快な思いをさせてしまった。

全て自分の力不足、自分の責任である。

自分は今の地位失格である。



「すぐに会頭に報告し、私の後任を・・・」



と言い始めたので、言葉を遮った。



「駄目」


「あの・・・」


「駄目」


「しかし・・・」


「私の願いを聞いて頂けませんか?」



アンナはビクッとして固まってしまった。


この世界の(マーラー商会の?)自他を律する厳しさには恐れ入る。

だが私はもっとアバウトな世界で生きてきた。

懐の深い親方、おっチャン、兄さん、姐さんに見守られながら、小さな失敗、デカい失敗をやらかした。

時は拳骨を貰いながら丁寧に教え導いて貰った。

今の時代、拳骨は問題なのだろうが。


こっちの世界に来てからもそうだ。

ソフィーに何度か殴られた。

だが、ソフィーは一度だって私を見捨てたことは無かった。常に私を見ていた。


だから自分がアンナを見捨てたら寝覚めが悪い。

というか、人間としてどうかと思う。

貴族としてはわからないが。



跪いたまま頭を上げないアンナの手を取り、椅子に座らせた。

私は向かい合った椅子に座った。

アンナは、自分はどのような罰も受けるので、マーラー商会ハーフォード支店とイルアン分店は、存続を許されるようお願い致します、という意味のことを言った。


ちょっと考えてから口を開いた。



「ではあなたへの罰を申し渡します。 

 マーラー商会ハーフォード支店長を続けること。そしていつかは本店と肩を並べる規模へ発展させなさい」


「イルアンの冒険者ギルド、武器屋、道具屋は、ノースランビア大陸でも有数の規模に発展させなさい」


「ウォルフガングとソフィーの持つ知識、経験は眠らせておくにはもったいない。すべて受け継ぎなさい」


「それを個人の財産とせず、マーラー商会ハーフォード支店の財産にしなさい」



アンナはそれ以上口を開かなかったが、腑に落ちていないことは確かだった。



「いろいろと誤解を与えてしまったことは申し訳ありません。特にウォルフガングとソフィーと私の関係は特殊ですから。それを見ていて誤解をされた可能性は否定できません。

 ですから今回の件はこれでおしまい。手打ちです」



アンナは私を見てすぐに目線を落としたので、彼女の手を握りながらヒールを掛け、正面を向かせた。

アンナの両手もかなりのダメージを負って、腫れていたから。



アンナは初めてヒールを経験したのだろう。

驚きのあまり息が止まりそうになっていた。



「これからこのようなことがあったとしても、あなたから結果だけ聞かせてくれればそれで良いです」


「あなたを信頼しています」


「励んでください」



アンナは・・・ 何やら儀式のようなことをした。



◇ ◇ ◇ ◇



先ほどの部屋に戻ると、ソフィーに何かを言われたらしく、ナオミが平伏していた。

ナオミの鼻血は止まっていない。

床に血が滴っている。

床の血だまりが拡がっている。


この出血量は鼻の骨が折れているな。

ナオミの前の床に座り、ナオミの両頬に手を当てて鑑定する。

やっぱり骨が折れている。そのせいで顔がパンパンに腫れ上がっている。

激痛だろう。


両頬に手を当てたままヒールを掛けた。

折れた骨を元通りに。

切れた血管も元通りに。

パンパンに腫れ上がった顔も元通りに。

サービスで、やや肉厚だった顎回りをスッキリさせてやった。


ナオミは驚きすぎて、腰を抜かして過呼吸になっていた。



私からナオミへ罰を与えた。



「魔物解体のノウハウをマニュアル化して書物にしなさい。そしてこのギルドとハーフォード支店の宝にしなさい。絵をふんだんに入れて、初めて解体する者でも迷い無く出来るようにしなさい」



そう命じたら、



「ソフィー様の財産なので公開できません」



と涙ながらに訴えてきた。



「もちろんソフィーには私から了解を得る。いいね、ソフィー?」


「ああ。ここの財産にしてくれ」



ナオミは俄然マニュアルを作り始めた。



◇ ◇ ◇ ◇



夜。

寝る前にアンナとの手打ちについてソフィーに聞かれた。


ソフィーは首をかしげていた。失敗だったろうか。



「いや、失敗じゃない・・・ アンナは何も言わなかったか?」


「何か言いたそうにしていたけど、グッと堪えていた」


「そうか。ならいいのだが」


「そういえば、何か妙なことをしていたよ」


「なんだ?」



アンナがした儀式のようなことを話すと、ソフィーは変なことを言った。



「お前、アンナを妾にする気はあるか?」


「?」


「私ががさつな大女だから他の女に目が向くのも当然だが・・・」


「ああ? 何を言ってる?」



アンナの行った儀式は、大恩を返しきれない者が身を捧げる儀式らしい。



「アンナの身請けということ?」


「そうだ」


「私は断ることはできたの?」


「できるが・・・」


「嘘ぴょ~ん、って言ったら?」


「多分アンナは死ぬぞ」



それは困る。

対応を間違えるとアンナは過激な方法で責任を取る可能性が高い。このまま受け入れろ。

とのことでした。


それからソフィーの態度がよそよそしい。


だいたい身を捧げる儀式って何だ。生け贄か?

私はドラゴンか何か?

私がそんな前時代の遺物のような儀式など、知るわけないじゃないか。


何だ、ソフィー。その目は。

私がそんな奴だと?


ソフィーは返事をしない。

背中を向けて寝た。

許せん!!

背後から手を差し入れて鷲掴みにしてこっちを向かせた。

ソフィーはされるがままだった。



◇ ◇ ◇ ◇



ジークフリードとクロエとマロンには、ダンジョンの観察と、「少し潜ってすぐ出る」を繰り返してもらっていた。

その結果、冒険者ギルド立ち上げに掛かった期間(1ヶ月)に変化が無く、ダンジョンから魔物が湧き出してくることも無かった。


ダンジョンは安定化し、深層化が始まったと判断した。


公爵から王都に向けて、ハーフォードにダンジョンが生まれたことを正式に報告して頂いた。



大反響が起きた。


ノースランビア大陸に生まれた最新のダンジョンは、正式に「イルアン迷宮」と命名され、国内の話題を攫った。




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