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平凡勇者の異世界渡世  作者: 本沢吉田
07 原始ダンジョン偵察編
83/302

083話 イルアン攻防戦4


(イルアン村 村長の視点)


魔物の襲撃が始まった、とビトー準男爵が駆け込んできた。

なんと魔物がイルアンに攻め寄せてきたという。


ゴブリンが100以上。

スケルトンが100以上。


騎士団でなければ絶対に抑えられない規模。


私はビトー準男爵の要請を受け、すぐに自警団の招集を行った。

この時期は晩秋の味覚の収穫時期に重なり、女手だけでなく、男手も忙しい。

既に城壁の外に出てしまっている者もいるだろう。

どれだけの者が招集に気づけるか・・・


なんとか20名が集まった。


各門を閉じ、守衛と自警団で門を守り、騎士団が駆け付けてくれるのを待つしか無い。

それから私は領都へ伝書鳥を飛ばし、騎士団による魔物討伐を要請した。

ただし、騎士団が来てくれるにしても到着は3日後だ。

四方の門を閉め切って3日間耐えて騎士団の到着を待つのだ。



西門の守衛が駆け込んできた。

西門が破壊されたという。


終わった・・・

イルアン終わった・・・


私の命で鍛冶屋を西門に向かわせたが・・・



◇ ◇ ◇ ◇



城壁の上から見ていると西門に魔物が押し寄せ、渋滞し始めた。

外からは門の内側が見えないので、中に入った連中がどんな運命を辿っているのかわからない。

遅れを取った。早く中に入って殺戮に加わりたい。人間を殺したい。

そう思って気が急いているのだろう。


中には城壁の上にいる我々に気付く奴もいたが、飛び道具がないのでどうすることも出来ない。



「終わりが見えたね」



そうソフィーが言った。

何のことかと思ったら、ダンジョンのある方角からこちらに来る魔物がいない。

スタンピードは終わったようだ。


ソフィーがスケルトンナイトの頭上に氷槍を落としながら、ウォルフガングに言う。



「今西門の前にいる魔物を倒しきれば終わりだ」


「あとどのくらいだ?」


「スケルトン50、ゴブリン120といったところだな」


「そうか。スケルトンを潰せるか?」


「わかった。 ビトー、狙い撃ちできるか?」


「ゆっくりでいいならできます」


「ではやろう」



ソフィーは氷槍で次々にスケルトンを狙い撃ちしていった。

私は1体1体デ・ヒールを当てていった。


ソフィーがもう一度ウォルフガングに言う。



「今、そこにいる奴でスケルトンは終わりだ」


「よし!」



ウォルフガングが自警団を下がらせた。

何をするのかと思ったら、ウォルフガングがゆっくりと(そう見えた)スケルトンとゴブリンの集団に近づくと、剣を二振りした。

スケルトンとゴブリン、合わせて5体が崩れ落ちた。


そのまま西門まで進み、中に入ろうとしていたホブゴブリンを串差しにして、自警団に声を掛けた。



「後はゴブリンだけだ。お前たちで対処できる。今まで通り袋叩きにしてやれ。クロエ、隊の指揮を任せる」


「はっ!」


「ジーク、ついてこい!」


「はっ!」




それから西門の前で繰り広げられた光景は忘れることは無いだろう。


ウォルフガングは魔法があまり得意では無い。

剣の腕一本でB級上位まで登り詰めた冒険者だ。


ジークフリードも魔法があまり得意で無く、ソフィーに鍛えられて剣の腕一本でC級冒険者になった。


この二人が並んでゴブリン120体に向かっていった。


私は巧みな剣裁きを見られるものと思っていた。

全然違った。

二人が見せてくれたのは盾術だった。

大楯をハンマーの様に使い、ゴブリンどもを殴り殺す。押し倒す。押し潰す。

足下に倒れてきたゴブリンを踏み潰す。


剣は大楯の横に添えているだけ。

ホブゴブリンが近づいた時だけ剣を使って刺し殺す。


そして無人の荒野を往くかのごとく、ゴブリンの集団の真ん中を一直線に踏み抜いて分断した。




これはベイルアタックというのだろうか。

それともパンツァーカイルというのだろうか。


大盾による敵陣中央突破。

一方的な蹂躙。

ゴブリンもホブゴブリンも関係なかった。


ゴブリンの群れの中央を一直線に通過した二人が向き直ると、ゴブリンの集団はパニックに陥り、1つの集団は街道を南に走り、もう一つの集団は西門の中に逃げ込んだ。



西門の中に逃げ込んだ集団は、クロエに率いられた自警団に殲滅された。

クロエの音頭で自警団が勝利の雄叫びを上げ、村全体に魔物の撃退を知らせた。


それから自警団と守衛と一緒に魔物の死体から魔石を取り出し、“お焚き上げ” をした。

これだけ殺したら供養しないと。



◇ ◇ ◇ ◇



村長は大忙しだ。

伝書鳥で領都へ報告することがいっぱいある。


魔物の襲撃。


魔物の種類はスケルトンメイジ、スケルトンナイト、スケルトン、ホブゴブリン、ゴブリン。


数はスケルトン系が約100体。ゴブリン系が約250体。


西門が破壊され、西門前で決戦。


自力で魔物を撃退したので、先に騎士団に応援要請を送った件は取り消し。


ゴブリン系魔物が30匹ほど、街道を領都方面へ向かっている。処置願う。


馬および荷馬車は無事。


秋の収穫と輸送には影響を出さぬようカバーする。


等々。



全部事細かに報告する必要は無いと思うぞ。


最後の一文は重要だな。


まあ、がんばれ。



魔物の死体を火葬している内に鍛冶屋さんの西門修復が終わった。

門を閉め、閂を掛け、まずは一安心。


村全体が戦勝に沸く中、拠点に戻るビトーさん一行。

黄色い歓声を上げながら、ジークフリードとクロエに駆け寄る村人多数。

2人が大活躍したことが良くわかる。

こっちまで嬉しくなる。



拠点に戻ると2人の重傷者以外は怪我人も徐々に捌け始め、落ち着きを取り戻している。

マリアン、マルティナ、ミカエラ、メリンダご苦労様。



「問題は無かった?」


「ございません」


「重傷者は?」


「命に別状有りません。後遺症もありません。上級ポーションのお陰です。もうじき家族が迎えに来る予定です」


「そりゃよかった」


「超級ポーションと特級ポーションと上級ポーションの未使用分はお戻し致します」


「はい」


「それと・・・」



微妙な表情で首をかしげるマリアン。

話し難そうだったので近づいて耳を貸す。



「ご主人様からお預かりしましたお金ですが・・・」


「うん」


「いずれも私の判断で使いませんでした」


「そうか」



お金を無心しにきた者がいた。

物を売りに来た者もいた。

特級ポーションを売ってくれという者もいた。


いずれも切羽詰まっていない、村のためにならないと判断し、却下した。



「ありがとう。ご苦労様でした」



マリアンからお金を受け取った。



◇ ◇ ◇ ◇



スタンピードの終息から3日。

同時並行でいろいろなことがあった。


我々はイルアン周辺の魔物の残党を討伐した。

スケルトンとゴブリンのパーティが4つずついただけだった。


次にダンジョンの位置を確認した。

2回目に確認した時と出入り口の位置は変わっていなかった。

中に入るのは止めた。


街道を南に走っていったゴブリンの集団は騎士団が補足し、包囲殲滅したと連絡があった。


村長に、お亡くなりになった村民の遺族へ一時金は出るのか、と聞いたら出ないとのこと。

遺族を訪問し、お悔やみを述べると共に「絶対に内緒ですよ」と断って、弔慰金として大銀貨を10枚渡し、生活を立て直す原資とするよう伝えた。


ハーフォードの冒険者ギルド長のジュードから連絡があり、大量の魔石を売って欲しいとのこと。

了解した。


公爵夫人から「ソフィーのドレスが出来たので裾合わせに来い」との命令が来た。




領都における用事が2件溜まったので、ソフィーと二人で領都まで行くことにした。


ソフィーの服装には少々悩んだが、道中何があるかわからないので、冒険者の出で立ちで行くことにした。


留守はウォルフガングに任せた。




公爵夫人のところに顔を出した。

すぐさまソフィーは控え室に拉致され、鎧を毟り取られ、あられも無い姿にされた。


今日のソフィーは先日とは打って変わり、紺地に銀糸の刺繍の入った上下セットを着用している。

ソフィーの肌の色とのコントラストが際立ち、ソフィーが一層美しく見える。


何やら興奮した声が聞こえる。

私を呼ぶ声が聞こえる。



「ビトー。これは何ですか!」


「はい。下着は白。もしくは淡い色。という固定概念を打ち破って見ました」


「あなたと言う人はもう・・・」



公爵夫人は言いたいことを必死に飲み込んでいるようだった。



「それで? マーラー商会にはこのような色の下着まであるのですね?」


「はい」



それから公爵夫人は、ソフィーのドレスの裾合わせをフィッターに任せ、自分はどうやったら破廉恥と思われずに流行を広めることができるか、ブツブツ言いながら考え始めた。


フィッターはその場でドレスを完成させた。




冒険者ギルドにおける魔石売却は特に問題無かった。


ソフィーと一緒に「冒険者として」冒険者ギルドに行くのが不思議な感じ。


魔石はメッサーのギルドで扱っていた相場を超える金額で引き取ってくれた。

ハーフォードは魔物が少ないので質の良い魔石が少ないそうだ。




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