082話 イルアン攻防戦3
2025/4/22 誤字修正
西門。
魔物が原始ダンジョンから湧き出てくるのなら、最短距離で魔物が押し寄せるのがここ西門だった。
何故西門を魔物の殲滅場所せず、北門にしたのか。
それは村全体の兵力不足のためだった。
魔物を北門まで流し、魔物の密度を薄め、勢いを緩やかにして叩く。
ただし、そのためには魔物の圧力に抗して西門を閉めなければならない。
難しい任務をソフィーに託した。
ソフィー以外では実行は困難だったろう。
ソフィーが西門に着いた時は既に交戦が始まっていた。
守衛は押されており、3人しかいなかった。
魔物が西門の内側に入りつつあった。
魔物の種類はスケルトンナイト1体とスケルトン3体のパーティ。
守衛ではスケルトンナイトに全く対抗できない。
じりじり下がっていた。
ソフィーは戦況を見て取ると、スケルトンナイトの頭上から氷槍を落とした。
スケルトンの集団は指揮命令系統を失い、一方守衛は圧倒的な敵が突然いなくなり、一瞬戦場に空白の時間が流れた。
その間にソフィーが守衛の前に出た。
そして氷槍の一斉射撃を行った。
中に入りかけていた3体のスケルトンが一瞬で崩れ落ちた。
「閉めるか・・・」
そうつぶやいて西門に歩み寄ったソフィーだったが、すぐに立ち止まって門をまじまじと見た。蝶番が壊れている。
ソフィーは門の外に出て無数のスケルトンがいることを見て取ると、無言で氷槍の弾幕を張り始めた。
何十発の氷槍を撃っただろう?
見渡す限りスケルトンの残骸が転がっている。
ソフィーは呆然としている西門の守衛に対し、
「門の修理だ!」
と怒鳴った。
だが守衛は何をしたら良いかわからないらしい。
「村長に指示を仰げ!」
もう一度怒鳴ると、弾かれたように1人の守衛が走り出した。
「ここは3人しかいないのか?」
「いえ、一人やられました」
木陰に一人倒れて荒い息をしていた。
左肩、左腕をざっくりやられている。
よく見るとソフィーに返答した守衛も、右腕に怪我を負っている。
「おまえ。こいつを連れて昔の代官の屋敷へ行け。そこで治療してもらえる」
「でもここは・・・」
「私が来たんだ。もう大丈夫だ」
怪我人同士で肩を貸しながら野戦病院へ向かった。
さて。面倒なことになった。
西門は閉められない。
否応なしにここが主戦場になる。
そして守衛は一人しかいない。
どうして西門がこうなったのか1人だけ残った守衛に聞いた後、ちょっと考え、
「ビトーという奴がたぶん北門にいる。そいつを呼んできてくれ」
と頼んだ。
最後の守衛が走り出した。
さて、ビトーが来るまでに状況を整理しなければならない。
◇ ◇ ◇ ◇
自警団をウォルフガングの元に届け、正規兵、予備兵に分けて隊列を組んでいた時。
西門から伝令が来た。
伝令の言うことは要領を得ず、とにかく私に来いという。
どうやらソフィーが難儀しているようだ。
そこでウォルフガングと目配せをして、私は西門へ走った。
「ソフィー」
「ビトー」
小難しい挨拶は抜き。いきなり説明に入った。
「戦況が悪い。門が壊れている。閉めることが出来ない」
「決戦場所をここに移しますか?」
「最悪、な」
「敵情は・・・」
と言って門の外を覗くと、見渡す限りバラバラの骨。骨。骨。
「時間的余裕はありますね。ソフィーはまだ撃てる?」
「ああ。コイツのお陰でいくらでも連射ができる」
ソフィーはそう言って藍玉の首飾りを撫でた。
「では現状を教えて下さい」
「門扉を閉じようとしていた時に強い力で門扉がめくり上げられたようだ。そのとき蝶番が壊れたらしいな」
「・・・」
「農作業で外に出ていた村人は全滅した。遺体の回収と火葬は後回しで良い」
「そうでしたか・・・」
門の外に向かってそっと手を合わせた。
「スケルトンナイトごときが門を破壊できるものか、と思ったのだが、どうやら敵に魔法使いがいるようだ」
「・・・」
「風魔法使いだ」
「スケルトンの中に?」
「そうだ。倒したスケルトンの中にこんな魔石を持った奴がいた」
鑑定すると「スケルトンメイジ」の魔石だった。
魔法レベルもそれなりに高い。
これは厄介だ。
スケルトンメイジは門を修理しても再度破壊できるだろうか?
スケルトンメイジは村を囲む城壁を破壊できるだろうか?
答えは誰もくれない。
妙案も浮かばない。
敵を食い止められそうな地理的条件も無い。
ということは、だ。
「ウォルフガングに相談してここを決戦場にしましょう」
「うん、と言うかな?」
「妙案が浮かぶまではそうしましょう。どのみち敵はここに殺到します」
「そうだな」
「私が戻ってくるまで持ちこたえて下さい」
「わかった」
再度北門へ走った。
北門に着いた時はジークフリードとクロエもいた。丁度良い。
全員に西門の状況を説明した。
「このままだと魔物は西門に集中するでしょう。そして西門は門扉を閉められない」
「修理することは可能か?」
「技術的には可能でしょうが、戦闘中は無理でしょう」
「わかった。西門で敵を殲滅する。北門を閉じよ」
北門の守衛が門を閉じ、巨大な閂を掛けた。
「北門はここの守衛に任せる。自警団は今より西門へ向かう」
「「「「 おおっ! 」」」」
自警団はウォルフガングに任せ、ジークフリード、クロエ、マロン、私は西門へ突っ走った。
◇ ◇ ◇ ◇
西門にジークフリード、クロエ、マロン、私が到着した時は、まだ魔物はチラホラいる程度だった。
ウォルフガングと自警団が到着するのと、魔物の第二波が来たのがほぼ同時だった。
村長命で鍛冶屋も来た。
2人の弟子にいろいろな道具を運ばせている。
門を直せるか聞いたところ、直せる。
ただし魔物を2時間遠ざけて欲しい。
だが西門から外を覗いた鍛冶屋は顔をしかめていた。
この状況で2時間魔物を遠ざけるって、そりゃ難しい。
鍛冶屋にはいったん待機してもらい、ソフィーの命で私とマロンが高さ5m以上の城壁によじ上り、敵情を見る。
マロンは一気に城壁を駆け上がる。マロンは本当に犬なのか疑問だ。
「ゴブリン 約200」
「スケルトン 約100」
「ゴブリンはホブゴブリンが率いています」
「スケルトンはスケルトンナイトが率いています」
「スケルトンの中に魔法使いがいます。スケルトンメイジ。杖を持っています。数は6」
「ゴブリンの中に魔法使いは・・・ いません」
「スケルトンとゴブリンはいがみ合う様子はありません」
「スケルトンの死体が大量に散乱していますが気にする様子はありません」
「スケルトンとゴブリンは威圧するように西門に迫っています。殺到してきません。」
「スケルトンメイジは寄せ手に混ざる気は無いようです。6体で最後尾に固まっています。西門からの距離およそ100m」
「わかった。そこからスケルトンメイジを狙撃できるか?」
「やってみます」
「頼む」
私はタクトを構えるとスケルトンメイジに細いレーザー光線を当てた。
左端のスケルトンメイジの胸のあたりに赤い点が現れる。
うん。位置はここで良いだろう。
では・・・
今私がひねり出せる最大量の魔力をタクトに込め、レーザー光線の出力を上げた。
「ズッ」という感じでレーザー光線がスケルトンメイジを貫通した。
その状態でゆっくりと右に振る。
スケルトンメイジが6体固まっていてよかった。
一振りでスケルトンメイジ全員の上体を切り落とした。
スケルトンメイジは「ガラガラ」という音が聞こえてきそうなほど派手に砕け散った。
「スケルトンメイジ、6体、潰しました」
「よくやった」
ふー。
うまくいった。
タクトが少し熱を持っている。
多分こういう使い方を前提にしていないのだろうな。
私とマロンは引き続き城壁の上から敵情視察。
敵が弓や投げ槍を持っていなくて助かる。
「敵。西門に到達します」
「了解。門の内側で殲滅する」
城壁の上から城壁の内側を見ると、ウォルフガングは西門を中心にUの字を描くように布陣している。あまり詳しくないけど、鶴翼の陣という奴かな?
と思って見ていたら、ソフィーが城壁の上によじ登ってきた。
「お前とマロンは外側から魔物が城壁に上ってこないことを監視」
そういうとソフィーは城壁の内側、西門から入ってくる魔物をじっと見ている。
スケルトンとゴブリンの混成軍は西門を潜って村の中に入り始めた。
ただし門の幅の関係で、中に入ってくるのは一度に3体。
そして少しずつ入ってくる魔物をウォルフガング率いる自警団が包囲殲滅し始めた。
ウォルフガングの掛け声で一斉に槍を突き、そして引く。
単純な刺突のみ。
突出しない。
回り込まない。
機械的な前後運動で魔物にダメージを与える。
ときおりウォルフガングの声が飛ぶ。
「倒さなくていい。プスッと一刺しするだけでいい。それ以上考えるな。欲をかくな」
単純な前後運動を続ける。
魔物側にもこちらの隊列を乱そうという動きがあったが、そんなときはウォルフガングがその魔物に向かって石を投げて注意を逸らしていた。
それでも隊列が乱れそうな時は、自警団の後ろにジークフリードとクロエが付き、危なっかしい人をサポートした。
これで延々と魔物を倒す。
お・・・ スケルトンナイトが入ってきた。こいつは守衛&自警団の手に余る。
ソフィーが上から氷槍を落とす。
今度はホブゴブリンが入ってくる。こいつも守衛&自警団の手に余る。
やはりソフィーが上から氷槍を落とす。
西門の内側に魔物の死体や動けなくなった魔物が積み上がりはじめると、自警団の予備隊が倒れた魔物を村の中に引き摺り込んでトドメを差し、魔石を回収し、戦場を整理した。
自警団の中に怪我人が出ると予備隊員と交代した。
こんな戦闘がしばらく続いた。




